26.衝動
イメージは隕石。灼熱の炎を纏った岩石が空から降り注ぐように……。
私は周囲の魔力を操り、イメージに沿って練り上げる。そして、私が空に向かって手のひらを突き出すと、私が纏った赤く輝く魔力は花火のように打ち上がる。
「この音なに?」
「……おいみんな、空を見てくれ!」
「なんだよこりゃあ……おれたち、夢でも見てんのか?」
「この世の終わりじゃ……」
その瞬間、町中の誰もが空を見上げ、呆然と立ち尽くした。住民たちの目には、雲を突き抜けて降り注ぐ隕石の雨が映り込む。はるか上空で燃え盛る無数の隕石は、だんだんと地上に近づくに連れ迫力を増していく。
ドゴオォォォオオォォオオオォォォォン!!
建物よりも巨大な隕石群が、町中の建造物を破壊し、住民たちを押し潰す。運良く隕石の直撃を逃れた住民たちでさえ、隕石が纏った灼熱の業火によって、一瞬で骨も残らず焼き尽くされた──私と私の立っている建物だけを避けて。
「フフッ……フフ、アハハッ! なによこの高揚感……やっぱり私は、ずっと昔から、前世のあの時から狂っていたのねっ!」
私は屋根から足を垂らし、屋根の上に寝そべった。そうして空を見上げて足をパタパタと動かし、鈴の音のような美しく澄んだ笑い声を上げた。隕石の余波で焼けた右腕の痛みも気にならないほどに、私は気分がよかった。
「思うがままに破壊するこの感触、懐かしいわね……」
***
私は中学生の頃、いじめられていた。いじめっ子──仮にAさんと呼ぼう──は取り巻きのBさんCさんとともに私によくちょっかいを出してきたのだ。
時には机に落書きしたり私に水をかけたりと幼稚なことをして、また別の時には財布の中身を巻き上げたり私を殴ったりとヤンキーまがいのこともされた。
「あんたにはその姿がお似合いよ!」
そう言って、男子もいる教室の中、ハサミで制服を切り裂かれた時は、それまでいじめを気にしていなかった私もさすがに動揺した。
そんなある日、いつものようにAさんに教室で水をかけられた時、窓際に置かれた花瓶が目についた。すると、プツンと、頭の中で何かが弾ける音がした。
『どうしてあなたは何もしないの? あなたはあの子たちにいいようにされて悔しくないの?』
頭の中に、自分と同じ声の幻聴が囁かれる。
「ハハハッ! あんたほどびしょ濡れの姿が似合う女、他にいないんじゃない?」
私を嘲笑ういじめっ子たち。その時の私は彼女たちなどまるで眼中になく、気付けば自然と花瓶に手を伸ばしていた。
『そうよ。それでいいの。あなたはその衝動を抑える必要なんてないのよ』
「ハハハッ! なにあんた。花瓶なんか持っちゃって、まさかそれでアタシたちを殴るつもり? ハハッ……そんなことしたらあんたは犯罪者! それに、あんたみたいな女にそんなこと出来るわけ……」
ガシャン!
その時、私の体は自然と動き、気が付くとAさんの頭に花瓶を叩きつけていた。
「あ……んた……ぶっ殺……す」
鬼の形相で私を睨んだAさんは、すぐに白目を剥き、机を倒しながら地面に倒れた。この行動で、私の中にあった何かは、完全に壊れたようだった。
あれ……ものを壊すのってこんなに気持ちいいものなの? もっと……もっともっと壊したい!
「キ……キャアァァァアァァッ!」
「あ……あんた、Aさんになんてことしてくれてんのよ!」
「そうよ! 地味なインキャの分際で……Aさんのお身体はあなたの命より何倍も価値があブッ……」
私が適当に投げた机は、取り巻きのCさんの顔に激突した。しかしそんなことは私の眼中になく、その後も次々と机や椅子を蹴ったり投げたり……。
バリンッ!
次の瞬間、適当に投げた机の一つが窓ガラスを割り、三階にある教室から落下した。
なんだかいい音ね……。もっともっと聞きたいわ。
私は、クラスメイトがいなくなり、机や椅子が散乱した教室の中を歩く。そうして掃除用具入れの前までくると、中からホウキを取り出して掃除用具入れを引き倒した。
「いい感触……」
ホウキの握り心地に納得すると、私は窓の前で足を止め、
バリンッ!
ホウキを窓に向かっておもいっきり叩きつけた。
「楽しい気持ちいい、心地いい……」
私はその後も、先生たちに押さえられるまで踊るように窓ガラスを割り続けた。私が暴れた教室はめちゃくちゃで、頭から血を流したAさんも倒れたままだった。
***
「やっぱり私は、あの時の感触を忘れられない……あの何ものにも代え難い昂揚感をもっと味わっていたい」
私は崩壊した街中で、唯一残った建物の屋根に寝そべったまま空に手を伸ばした。
「もう抑えない。この気持ちは──この衝動は、私の本質なのだから」
そうしてしばらくの間、火の粉が舞う空を見上げていると、ふと思い出した。
「私いま、セレナを追いかけていることになっているから、ゼルさんたちより先にセレナの所に行かないと怪しまれるわね。……けど、もうちょっとだけ楽しみたいわ……」
私は上体を起こし、頭から飛び降りた。それと同時に剣を鞘から引き抜き、体を水平に回転させ、剣を振る。
スパッ……!
斜めに入った斬撃によって、建物が剣筋をたどってズレる。そうして間も無く、建物の上段は地面に叩きつけられ粉々に砕け散った。
「フフッ……やっぱり気持ちいいわね」
地面に着地した私は、斬った建物を見て微笑む。それから、セレナにつけた魔法の発信源を頼りに転移魔法を使った。
***
「わたし、なんで逃げちゃったの……」
ラドス近隣の森の中、木に寄りかかるセレナは生い茂る木の葉の間から、分厚い雲に覆われた空を見上げる。
わたしはずるい……自分ではどうすることもできない嫌なことからは目を逸らすだけで何もしない。そのくせ、みんなには八つ当たりして怒鳴って……。
「わたし、最低だ……」
絞り出すような声で自虐の言葉を呟いたセレナは、小さな体を震わせて黄緑色の瞳を潤ませた。だが次の瞬間、僅かにあどけなさを残すエメラルドの瞳が見開かれた。
「なにあれ……? 隕……石?」
セレナが見た隕石群は、程なくして轟音を響かせながらラドスに落ちた。
「そんな……みんなが……」
沈み切った心には、悪い結末ばかりが思い浮かぶ。それでもセレナは手足に力を入れて真っ直ぐに立った。
「いかなきゃ……今度は、一人でも多く助ける!」
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