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破滅エンドの回避なんてめんどくさいっ!〜悪役令嬢の私は異世界を満喫しつつ五年の余生で国を滅ぼそうと思います!〜  作者: 冬哉


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25.ノアとアード

「答えろ奴隷。なぜおまえは生きている! なぜゾンビの群れに囲まれているにも関わらず平然としているんだ!」


「ノアさん? 生きていたのか。だったら俺たちとこの町から逃げよう。そこは危ない。早くこっちに……」


 アードとゼルがノアに向かって各々声をかける。だが、ノアはまるで彼らの声が聞こえていないかのようにアードたちの横を素通りする。


「おまえ、このオレの言葉を無視するとは……死にたいのか!」


 アードが叫ぶと、ノアは一瞬足を止めた。


 この人、今の状況がわかっていないのでしょうか? 王子だと言っていましたが、今は地位なんて何の意味もなさないのに。


「なんだその目は……その人を憐れむような目をなぜオレに向けるのかと聞いている!」


 しかしあの剣士──ゼルという人は普通のゾンビじゃ倒せそうにないですね。


 ノアは両手を打ち合わせ、乾いた破裂音を二回鳴らす。すると、どこからか支援魔法を受けた強化ゾンビが三体現れた。


「あなたたちはそこにいる二人を相手しなさい」


 腐敗して、暗い焦茶色になった頭をゆっくりと上げ下げして頷くゾンビたちを見て、ノアは再び歩き出す。高台にあるガーランドの屋敷を見据えて。


「ノアさん……あなたがこのゾンビたちを操っているのか?」


 ゼルはノアがゾンビたちに指示を出す一幕を見て戸惑う。唖然とするゼルを振り向くことなく、ノアは三体の強化ゾンビをゼルに差し向けた。


「行きなさい」


 そう言ってノアはもう一度、ガーランドの屋敷へと歩き出した。


「おまえ、奴隷の分際でオレに楯突きオレを無視し、あまつさえオレの……い、命を狙うなぞ、ゆゆ、許されぬぞ!」


 子鹿のように震えながら声を張り上げるアードを一瞥したノアは、


「憐れですね」


 とだけ呟き、炎の先に姿を消した。


***


 ノアの指示で、三体の強化ゾンビは一直線にゼルへと襲いかかる。


「速い! ……が、それだけだな」


 素人臭い一直線の動きに合わせて剣を振るゼル。だが、一体のゾンビが手に持った二本の短剣を巧みに操りゼルの攻撃を受け流した。


「……!」


 驚くゼルに、別のゾンビが大斧を振りかざす。間一髪でバックステップして斧をかわしたゼル。だがさらに休む間も無く剣を持ったゾンビが襲いかかる。


 ガキイィィィン!


 袈裟斬りを繰り出すゾンビの剣を、ゼルは剣で受け止める。そして、鍔迫り合いが始まると同時にゾンビを蹴りとばした。


「おい……来るなよ。オレを誰だと……は、は、早く助けろよ!」


 ゼルが強化ゾンビと戦っている隙に他のゾンビたちは町中に広がり、そのうちの十数匹がアードに迫る。


 アードは眼前に迫る腐った歯と、腐臭がするゾンビたちの吐息に当てられて膝から崩れ落ちる。そして、普段は傲慢に煌めいている赤い瞳には涙が浮かんでいた。


「アード殿下! 今助け……くっ……」


 左右から弧を描いて迫る剣持ちと短剣持ちのゾンビ。真上からは斧を持ったゾンビが、三体同時にゼルに襲いかかる。


 三体のゾンビの攻撃が重なるその瞬間、ゼルは攻撃で服が切れるほどギリギリの、最低限の動きで三体の攻撃をかわす。そして、瞬時に重心を落として剣を腰だめに構えた。


「邪魔をするなあぁぁぁあぁっ!」


 三体の強化ゾンビがまとまった所に襲いかかる、ゼルの豪快な薙ぎ払い攻撃。Aランク冒険者の一撃に、強化ゾンビたちはなす術なく頭を斬られ、動きを止めた。


「うわあぁぁあぁぁぁ!」


 だが、アードを襲うゾンビたちは既にアードの体を押さえつけ、今にも彼の首に噛みつこうとしていた。


「くっ……間に合わない!」


 ゼルさん……彼ならアードを守り切れると思ったのだけれど、無理だったようね。


「はぁ……仕方ないわね。アードのことは嫌いなのだけれど……」


 私は風属性魔法を瞬時に構築し発動する。私の魔法によってアードを中心に風の防御膜が構築された。アードを中心として突如巻き上がった突風に、アードに貼り付いていたゾンビたちが吹き飛ばされた。


「ゼル、アード殿下。馬車を……持ってきた」


 ちょうどその時、ユークが王族用の豪奢な馬車を引いて現れた。


「ありがとうな、助かったぞユーク」


 今見つかるのは厄介だから助かったわ。ゼルさんはさっきの魔法、ユークさんが使ったと思ってる。


 ユークがタイミング良く現れてくれたおかげで、私の存在には気づかれなかったらしい。


「ば、ば、馬車が遅いぞ! お、おお、オレにもしものことがあれば、おまえたちの命はないということを忘れたのか!」


 アードは震えた声でゼルたちに罵声を浴びせながら馬車に乗り込む。するとゼルは馬車の御者台に座り馬の手綱を握った。


「頼むぞユーク。ここからはおまえの魔法だけが頼りだ!」


「わかって……いる。ゼルは、馬車の操作に……集中、してくれ」


 そう言ってユークは馬車の荷台の上に乗ると、荷台の屋根に杖を突き立てた。


「風よ、我が願いに応え、かの者を守護せよ。エンチャントウィンド」


 ユークが詠唱を終えると、馬車を包み込むように風の膜が出現する。


「ハッ!」


 ユークの魔法発動と同時に、ゼルが馬車を発進させる。すると、行手に立ち塞がるゾンビたちは馬車にぶつかる直前に吹き飛んでいった。


「よし、このままラドスの正門を抜けるぞ!」


***


「ゼルさんたちも行ったわね。ノアもガーランドを追ってラドスの街からは離れたし、これで死なせちゃいけない人を巻き込む心配はなくなった……」


 私は、町中で繰り広げられているゾンビが住民を襲う様子を、屋根の上から見下ろしながらノアに念話を飛ばす。


「ノア、街にいるゾンビはもう回収してもいいかしら? そろそろ私も動くわ」


「承知いたしました。あたしも只今ガーランドの屋敷に到着したところです」


「そう……頑張ってね」


 私は念話を切ると、ノアが連れている強化ゾンビを除き、全てのゾンビの足元に亜空間へと繋がる落とし穴を展開した。


「うわああぁぁあぁっ! ……なんだ? 急に目の前からゾンビが消えた……?」


「どういうことなのよこれ……」


「ふぅ……何はともあれこれでしばらくは安心だな」


 突如、自分たちを襲っていたゾンビが跡形もなく消失したことで、混乱しつつも安堵の表情を浮かべるらの住民たち。私は彼らを見ることをやめ、目を閉じる。


 ノアは上手くやってくれた……次は、私が住人たちをこの町ごと滅ぼす番よ!

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