22.最終準備
これでノアは味方に付けた。後はノアに力を与えればラドスの町を滅ぼす準備が終わるわね。
私は、私の手を握っているノアを立ち上がらせると、平原の少し後方に見える森を指差した。
「あそこに、王都からガーランド辺境伯領に来る途中で倒した山賊七十人分の死体があるのよ」
「死体……ですか?」
「そう、死体よ」
魔法で死者の蘇生だってできたのだから、ファンタジーで定番のあれを作れない道理はないよね。
次の瞬間、またも周囲の景色が一転する。
「よかったわ。まだちゃんと残ってる」
転移魔法で移動した例の森には、私が『王の鉤爪』とともに返り討ちにした山賊の死体がちょうど七十人分残っていた。私は土属性魔法で地面を隆起させて傾斜をつくり死体を一箇所に集めると、死体の山に手をかざして目を閉じた。
死体一つ一つに擬似的な魂を入れるイメージで……。
「うん、いけそうね」
私はイメージを固めると、周囲に満ちる魔力から七十の黒い人魂のようなものを作り出す。そしてそれらを一つずつ死体に割り当て、心臓のあるあたりに埋め込んだ。
そうして間も無く、一体また一体と山賊の死体が起き上がり、アンデットのゾンビとなっていった。
「成功っ! ……けど、思った以上にのろまな動きをするのね……これなら支援魔法をかけようかしら」
私は思いついた通り、全てのゾンビに攻撃力、防御力、そして速度の全てが上がる支援魔法をかけた。
よし、これで大体のゾンビはAからBランク冒険者程度の動きはできるようになった。これなら使い物になるわ。
私は初めて生成したアンデットたちの動きがよくなったことに頷き、ノアに向き直る。
「ノア、あなたにこの七十体のゾンビを付けるわ。だからまずは明日、ガーランド辺境伯領最大の町──ラドスを滅ぼしてみて」
「わかりましたルヴィア様。あたしにくださった初の命令、必ずやり遂げて見せます」
跪き、どこか機械的な声音で返事をするノアを見て、私は山賊のゾンビが持っていた、ノアの瞳の色と同じ色の宝石──ブラックダイヤモンドが埋め込まれた短剣を一本、ノアに渡した。
「ノア。あなたは明日、その短剣で領民、そしてガーランドに対する恨みを晴らしてきなさい。今のあなたにはもう、その権利も力もあるのだから」
ノアは短剣の刃に反射した自分の顔を見て、自分が憎悪に満ちた表情を浮かべていることに気づく。
「あたし、あたしたちに八つ当たりした領民たちが憎い! お母さんを……お母さんを弄んで殺したガーランドが憎い!」
「そうよ! あなたはもっと自分の中の感情に従いなさい。腹の底から湧き上がる衝動に従うのよ。そうすればきっと楽になれるわ」
短剣を握るノアの手に触れて、ルヴィアはノアの頭を撫でる。
「作戦決行は明日の午後。いいわね?」
私が渡した赤いヘアゴムを使って、ノアは長くてサラサラした金の髪をポニーテールに纏める。そして、ノアは純粋な憎悪を灯した黒曜石のような瞳で私を見上げた。
「はい。あたし今、生まれて初めて明日が楽しみです」
***
翌日昼食を摂り終えると、私と『王の鉤爪』はアード、ガーランドとともに再び貧民街を訪れていた。
「わたくしどもの品揃えが悪いばかりにこのようなご足労をおかけして、本当に申し訳ございません」
冷や汗をかきながら、両手でゴマすりをするガーランドに、アードはどこか気分良さげな声をかける。
「よい。オレも一度誰を奴隷にするか、平民どもの中から自分で選んでみたかったのだ」
不敵に笑うアードは、道ゆく人や路上に座り込む人を値踏みするように次々と見ていく。
私の婚約者、本当にタチの悪いクズね。平民や奴隷を傷つけることを悪いことだとは思っていなさそう。
「なんで……ボクたちが、こんなことに……付き合わされているんだ……」
「仕方がないだろう。依頼主がどのような人間だろうと、冒険者として受けた依頼を途中で投げ出す訳にはいかない」
「でもわたし、命を賭けてまであの王子を助けたくありません」
「だが、相手は王族だ。俺たちは依頼が終わったらこの国を去るつもりだからいいが、依頼を投げ出せばギルドのみんながどうなるか……」
ゼルの言葉に、ユークとセレナは言葉に詰まる。
「だが、今日が終われば後は王都に戻るだけだ。あと少しだけ辛抱してくれ」
続けて話したゼルの言葉に、二人の顔は少しだけ明るくなった。ちょうどその時、前方でアードが穴だらけの建物を思い切り蹴った。
「チッ! ここにも良さそうなやつが一人もいないじゃないか!」
「申し訳ございません。ええ……そうですね。アード殿下、代わりと言ってはなんですが、面白いショーをご覧になられませんか?」
アードの癇癪に焦ったガーランドは、手を叩いて荒くれ者を数人呼び寄せる。
「ショー……だと? それは昨日の闘技場よりも面白いものなんだろうな?」
アードの関心を引けたことに、ガーランドは胸を撫で下ろす。
「もちろんでございます。地下闘技場での催しとはまた違った魅力があるものとなっております」
ガーランドが指示すると、荒くれ者の一人が路上に座り込んでいる痩せ細った男に歩み寄る。そして、雑な動作で男の首を鷲掴みにすると、周囲の貧民に見せつけるように持ち上げた。
「ちょっと、何してるんですか! 早くその人を離し……」
一般人が殺されそうになっている光景を見て慌てたセレナを、アードが視線で黙らせる。
「黙れ……貴様は王族に名を連ねるこのオレの娯楽を邪魔するというのか?」
「王族だからって……」
「申し訳ございません殿下。俺の仲間が失礼を」
ゼルの謝罪を見て、アードは視線を前に戻す。
やっぱり、この人たちには王族に逆らう力はないようね。だったら最初から大人しくしていればいいのに。
私がセレナを見てそう思っていると、ガーランドがよく通る声で話を始めた。
「おまえたち貧民にかける情けなどない。……やれ」
グシャッ……。
荒くれ者に喉を掴まれていた男は、その荒くれ者によって首を握りつぶされ絶命した。私は何もできないセレナが惨めに思えて、気まぐれにセレナの視界を遮る。
「おまえたちもこうなりたくなければ、我が部下たちに捕まらぬよう、せいぜい逃げ惑うのだな!」
***
ガーランドの手によって、貧民狩りが始まったその頃、地下闘技場には大量のゾンビを引き連れたノアが立っていた。そしてその周囲には、誰一人生きているものなどいない。
「時間ですね。ルヴィア様」
そう呟いてノアが上を見上げた時、周囲に倒れていた大多数の観客たちが、低い唸り声とともに血に塗れた体で起き上がる。
「行きましょう……ラドスを滅ぼしに」
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