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破滅エンドの回避なんてめんどくさいっ!〜悪役令嬢の私は異世界を満喫しつつ五年の余生で国を滅ぼそうと思います!〜  作者: 早野冬哉


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21.勧誘

「ようやく起きたわね」


 窓ひとつない薄暗い部屋の中で、樽の上に腰掛けているルヴィアが深青色の冷たい目でノアを見下ろす。


 あたしなんで生きて……アースドラゴンに頭を潰されたはずじゃ……。


「……っ?!」


 視線を彷徨わせていたノアは、思わず息を呑んだ。ルヴィアが座っている樽の奥に、アースドラゴンのものと思しき生物の頭が転がっていたからだ。


「ん? ああこれね。もう死んでいるから安心していいわ」


 この子がアースドラゴンを倒したの?! 得体もしれないこの子の方が、アースドラゴンよりよっぽど怖い……。


 恐怖からくる悪寒に自然と肩を抱いたノアは、自分の体の違和感に気付く。それでノアは自分の体を確かめるように全身を触り、自分の体に傷一つないことを認識した。


 傷がない……それに、あんなに汚れていたあたしの体がこんなにツヤツヤしてるのはなぜなの?


「困惑しているようだから一つだけ教えてあげる。……あなたは私の蘇生魔法によって、頭を潰されて身体中に風穴を開けられた状態から蘇ったのよ」


 蘇生魔法……? そんな魔法が存在するの? それに……。


「ど、どうしてそこまでして……こんなあたしを助けたんですか……?」


 怖い……生きたいと思ってからずっと怖い……もし一つでも言動を間違えたらあたしはきっと……。あたし、今度はこの子に使役されるのかな。


 ノアは腕を抱えてルヴィアの答えを待った。ほんの一瞬の間が、ノアにはひどく長い時間に思えた。


「それはもちろん、あなたが使えると思ったからよ。ノア、私はあなたを勧誘しに来たの」


「勧……誘?」


「そうよ。でも安心しなさい。たとえあなたが私の勧誘を断ったとしても、最低限あなたが一人の人間として生きていけるようにはしてあげる」


 話の内容とは裏腹に、ルヴィアの声は無機質で高圧的だった。それにルヴィアには、ノアより幼い少女であるにも関わらず、その立ち居振る舞いからは風格を感じた。


「ノア、私と一緒にこのエステワ王国を滅ぼしましょう!」


 少女とは思えない妖しい笑みを浮かべるルヴィアに驚きつつも、ノアの頭はまだ正常に働いていた。


「国を……滅ぼす? そんなの……」


「出来るわけがない? いいえ出来るわ──私ならね」


 ルヴィアはそう言って樽の上から降りると指を鳴らす。すると、突如として周囲の光景が変わった。さらには心地いい夜風すらも吹いていた。


「ここ……どこ?」


「王都とラドスを繋ぐ街道の途中にある平原よ」


 夜風に靡くルヴィアの髪が月の光を反射して銀色に輝く。そんな中ルヴィアは何もない平原に向き直り右手を突き出した。


「今から私の魔法を見せてあげるから、よくみていなさい」


 ビキビキビキッ……。


 ルヴィアが集中した途端、空気に亀裂がはしる。魔法についての知識がほとんどないノアにすら異常と思えるほどの魔力が、瞬時にルヴィアの元へと集まっていく。


 なにこの魔力?! 圧迫感がアースドラゴンなんて比べ物にならない……。


「打つわよ」


 ルヴィアがそう言った途端、ルヴィアに集まった魔力が収束し、彼女の手のひらから稲妻が放たれる。稲妻が一瞬で視界から消えたその直後、平原には視界を覆い尽くすほどの巨大な氷山が形成された。


「どうかしら。これで少しは私の実力わかってもらえた?」


 ルヴィアは無表情のまま、ノアを見る。その視線の先でノアは地面に座り込み呆気にとられて目を見開いていた。


「どうやらわかってもらえたようね。そろそろ答えを聞かせてもらおうかしら。あなたは私と一緒にくるの?」


 確かに、こんな魔法を使えるのならこの国を滅ぼすことだってできるかもしれない。お母さんを殺したガーランドだって殺してくれるかもしれない。だけどあたしは……無関係な人たちを巻き込んでまでそんなこと、できないよ。だってお母さんは、優しい人だったから。


「あたしは……」


 誘いを断ろうと口を開いたノアとほぼ同時に、ルヴィアも話し始めていた。


「あなたはこれまでずっと奪われて生きてきた。それは弱肉強食のこの世界で、あなたが力を持っていなかったからよ。だから力を持ったクズに全てを奪われるの。あなたも……あなたの母親も」


「なんでお母さんのこと……」


「悪いわね。蘇生魔法を行使する時にあなたの記憶が見えたのよ」


 月が雲に隠れてできた闇の中を歩み寄ってくるルヴィア。彼女がノアの肩に触れ、ルヴィアはノアの耳元に口を近づける。


「悔しいでしょう? 苦しかったでしょう? ……自分と母親を物のように扱った奴らが憎いでしょう?」


「……っ、それでもあたしは、関係ない人たちを巻き込んでまで……」


「……本当に、そう思うの?」


 鼻先が触れるほど顔を近づけてきたルヴィア。ノアを見つめるルヴィアの深青色の瞳が、ノアにはドス黒く染まって見えた。


「私はあなたの記憶を見た。ガーランドに虐げられてきた平民たちが、お腹にナイフを突き立てられて虫の息の状態で屋敷の前に捨てられたあなたの母親を蹴ったところも見たのよ」


「それは……」


 ノアの頭の中に、その時の光景が鮮明にフラッシュバックする──ガーランドへの鬱憤を、手を出せないガーランドの代わりにノアの母親にぶつけた醜い平民や貧民たちの姿が。


 なんで、お母さんがこんな目に遭わなくちゃいけないの……なんで? みんなだってお母さんと同じでガーランドに酷い目に遭わされてきた仲間なのに……。


「あなたの母親はなんの関係もない貧民たちになぶられた。ナイフが刺さった傷口と顔を執拗に蹴られ殴られた。あなたはそれが許せるというの?」


「許せない!」


 暗闇に向かって叫んだノア。その黒い瞳には、殺意の光が灯っていた。


「フフッ……ようやく本音を吐いたわね」


 口角を上げたルヴィアはノアに手を差し出した。それと同時に、雲から現れた月の光がルヴィアを照らし出す。


「私と来なさいノア。あなたには力をあげるわ。復讐を遂げるための力を」


 ノアは差し出された手を力強く握り返し、覚悟の決まった顔を上げた。


 たとえこれが悪魔の囁きだとしても構わない。


「あたしは、あいつらが憎い!」

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