15.スイーツ店、人攫い
「んー! おいしい!」
板張りの質素で落ち着いた雰囲気が漂うスイーツ店のカウンター席に座ったセレナが歓喜の声をあげる。
「ねぇルヴィア! このイチゴミルフィーユパフェおいしいよ。ひとくち食べない?」
そう言ってセレナは、自身の前に置かれたパフェをスプーンですくい、あーんと言って差し出してくる。私は最初乗り気でなかったが、セレナに促されるままに口を開いた。
サクッ……。
えっ?! おいしい……サクサクしてて舌触りもいいし、イチゴのスッキリと甘さも悪くない。
「どお? おいしいでしょー」
まるで自分が作ったかのように自慢げにニヤけるセレナ。
「うん。おいしい……」
素直に頷く私を見て、セレナはまたパフェをすくったスプーンを私の前に差し出した。
「もうひとくち欲しいかい、お嬢さん?」
セレナの気取った振る舞いにも言い回しにもツッコまずに、私は目の前にぶら下がるスプーンにかぶりついた。
パフェって前世でも食べたことなかったけど、こんなにおいしいのならもっと食べとけばよかった……。
「ねぇルヴィア。ルヴィアのチョコレートパフェもひとくち欲しいな」
「もちろんいいよ」
頷くと私はパフェをセレナに近づけた。だがそうするとセレナは私にジト目を向けてきた。
「ルヴィア、あーんして」
「自分で食べられるでしょう? ……しょうがないわね」
口を開けて目を閉じ、動こうとしないセレナにため息を吐くと、私はチョコレートパフェをすくい、スプーンをセレナの口の中に入れた。
「んー! わたしチョコレートって初めて食べたんだけど、甘くて香ばしいくておいしい……とろけるー!」
セレナは頬を押さえながらチョコレートパフェを味わう。私もチョコレートパフェをひとくち食べると、濃厚な甘さが口内を満たし、至福の味わいを堪能することができた。
やっぱり私、チョコは好きなのよね。この甘くて苦い独創的な味は、他の食べ物では味わえないものね。
そうして私たちは心ゆくまでパフェを味わった。すると、気づいた頃には空になった器でテーブルが埋め尽くされていた。
「ちょっと食べ過ぎたかな……」
「そうね……これはちょっと食べ過ぎたわね」
揃って苦笑いを浮かべた私たちは、支払いを済ませると店を出た。
「それにしてもこのスイーツ店、まさに知る人ぞ知るって感じの店よね。セレナはなんでこの店のこと知ってたの?」
店を出ると、そこは複雑に入り組んだ細い道─大通りと貧民街街の両方につながる路地裏の中なのだ。つまり、正確な店の場所を知らない限りは迷わずたどり着くことはできない。
「わたしがこのお店を知ったのは、ずっと前にサーシャ──ゼルさんの妹がわたしをこのお店に連れてきてくれたおかげなんだ」
ゼルの妹ってことは、不治の病にかかったって言う……。
「ごめん。せっかく嫌なこと忘れようってパフェを食べにきたのに……」
「うんん、わたしはアード殿下のことをちょっとだけ忘れて遊びたかっただけだよ。……むしろサーシャのことはいっときたりとも忘れたくない……ルヴィア危ない!」
セレナの緊迫した声のおかげで、私は背後に気配があることに気づく。一瞬視線が交わったセレナの黄緑色の瞳には、私の喉元に伸びる太い腕が映っていた。
誰かいる?! 一旦距離を取ら……。
ヒュンッ!
私が飛び退くよりも早く、慣れた手つきで短剣を鞘から引き抜いて切りかかったセレナ。
「くそっ! なんだこのガキ……つえぇ!」
セレナは私の背後にいた男の喉元に短剣を当て、地面に膝をつかせていた。だが、その奥にいたもう一人の男がセレナに拳を振りかざす。
ピシッ……。
「なんだこりゃ?! 腕が凍って……」
「さすがルヴィア。こんな一瞬で魔法を発動されるなんて普通できないよ!」
「セレナもいい動きじゃない。助かったわ」
私がお礼を言い終えると、セレナはすぐに真剣な顔で不審者に向き直った。
「衛兵さんに引き渡す前に一つ、質問に答えてください。あなたたちはなぜ、わたしたちを襲ったのですか?」
「なぜ……だと? おまえらがこんなに強いんなら最初から襲ってねぇよ! ……俺たちは弱い女子供を攫って、領主様に売り渡して暮らしてんだよ!」
「典型的なクズね。あなたたちも……ガーランドも」
まあ、この国ごと滅ぼそうと思っていて、しかももうじきここガーランド辺境伯領を襲おうと思っている私に言えたことじゃないけれど……。
「ひっ……!」
人攫いたちはなぜか、私の顔を見て顔を引き攣らせた。するとセレナは再び、怯える人攫いたちに質問する。
「人攫いは他にもいますか?」
「はぁ? おまえら知らねぇのか?! ラドス……つーかガーランド辺境伯領は奴隷商売のおかげで成り立ってんだぞ。ここに住んでるやつは大抵、人攫いか貧民だけだ」
それはまた……腐った町ね。
パキンッ!
「うう! 俺の腕があぁぁぁあぁぁ!」
私は氷漬けにしていた人攫いの腕を砕くと踵を返した。
「もう行っていいわ。……セレナ、私たちも帰ろう」
「えっ? ちょっ……ルヴィア?」
「ガーランド辺境伯領が奴隷商売で成り立ってるってことなら、ガーランド辺境伯はすでに衛兵を自分の勢力に取り込んでる。だからその人攫いを裁く手段も権利も、私たちにはないわ」
「そんな……じゃあここに住んでる人たちはどうなるの?」
「どうにもならないよ……この町はとうに腐ってしまっているのだから」
それに、もうじきこのガーランド辺境伯領は滅びるしね。
私はセレナを連れて一つ目の曲がり角を曲がる。それまで、人攫いたちは身動き一つ取れずにいた。
「なんなんだよあのガキども……金髪は強ぇし何より、あの銀髪の目はなんだ? 虫でも見るかのような……あんな恐ろしい目をガキができるものなのかよ」
「あいつらバケモンだ。関わらねぇ方が良さ……」
ズドドッ!
「本当に見逃すわけないでしょ」
私はセレナの横を歩きながら、視認できない場所にいる人攫いたちの心臓を氷の槍で貫いた。
「ん? ルヴィア今、何か言った?」
さっきの人攫いたちを放置したことが気がかりなのか、セレナの表情はモヤモヤとしていた。そんなセレナに私は、微笑み首を振った。
「なんでもないわ」
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