16.ユークの奇行
「今日も護衛、疲れたねー」
「そうね」
ガーランド辺境伯邸についてから三日、いつの間にか同室になったセレナがベッドに飛び込んだ。その間、アードは飽きもせず何度も私を近衛に誘ってきたし、奴隷の美少女ノアをいろいろな手段で痛めつけて遊んでいた。
「ねぇルヴィア。わたしもう見てられない。どうにかしてあのノアってお姉さんを助けようよ」
そう言って上体を起こし、ベッドに座るセレナは俯き気味に私を見た。
「それは無理だと言っているでしょ。セレナは同情だけで仲間の命を天秤にかけれるの?」
「それは……」
言葉に詰まったセレナは私から目を逸らし、服の裾を摘んだ。
どうしてそこまで見ず知らずの人にこだわるの? 自分の知らない人がどうなろうと別にいいじゃない。
まあ、子供っていう生き物は感受性が高いから仕方ないのかもね。
「大丈夫よセレナ。アード殿下はじきにノアさんを捨てるわ」
私がやってた乙女ゲーの中では、アードにノアなんて奴隷いなかった。つまり、アードはすぐノアに飽きて捨てたってことだと思う。
「そう……かな。そうだといいな」
ほんの少しいつもの明るいセレナに戻ると、彼女は思い出したように体を震わせた。
「ねぇルヴィア。お手洗い一緒に行かない?」
「ええ。いいわよ」
私が頷くと、セレナもベッドから降りて立ち上がり、私たちは用を済ませた。そして、部屋に戻ろうとしたその時、目深にローブを被り、杖を持った男を見かけた。
「セレナ、あれユークさんよね?」
私の視線の先で、ユークはキョロキョロと首を振りながらこっそりと屋敷の玄関の扉を開ける。夜間の護衛はいらないとアード自身に言われているため、私や他の三人が夜に何をしていようと問題はないが……。
「わたし、ユークさんは仲間として信頼してるよ。けど、夜中にコソコソと屋敷を抜け出すなんて……」
「怪しいね。跡をつける?」
「う、うん。きっとユークさんには何か事情があるんだよ。念のため確認するだけ……」
私は、動揺を隠せないセレナの手を取り、閉じられたままの、金ピカ装飾が施された重い扉に突っ込む。
「えっ?! 待ってルヴィアこの扉内開きなんだよ? このままぶつかったら……うわあっ?!」
思わず目を瞑るセレナ。だが、彼女の予想に反して私たちの体は扉をすり抜けた。
上手くいった! 透過の魔法ってやって見たかったのよね。
「ん……あれ? 痛くない……ってどうなってるの?!」
閉じたままの扉と、目の前に広がる夜空を交互に見て驚くセレナ。私は深夜テンションによって高揚した気分に身を任せて、セレナの手を引き屋敷のある高台から飛び降りた。
「ルヴィア?!」
浮き上がる髪、全身で感じ取れる浮遊感。夜風が気持ちいいな。
「ルヴィア、ルヴィア! もう地面についちゃうよ!」
慌てるセレナの小さな体をお姫様抱っこの要領で抱えると、私はオリジナルの飛行魔法を行使した。
バサッ……。
魔法の行使によって、私の背中からは黒く大きな翼が生える。天使の翼のような造形をした黒い翼には、ところどころに純白の羽根が混ざっていた。
「セレナ。そろそろ目、開けたら?」
差し迫った地面に思わず目を閉じてしまったセレナは、恐る恐るまぶたを上げる。その瞬間、瞳に飛び込んできた星空に、セレナは思わず嘆息を洩らす。
「わぁ……」
「空を飛ぶのって気持ちいいわね。景色もいいし」
私は黒い翼を羽ばたかせながら、地上から見るよりも何倍も大きい月を見る。そうしてしばらくの間、私たちはいつもより近くにある星空に圧倒されていた。
「……って、そう言えば私たち、ユークさんを追うつもりで屋敷を出たのよね?」
「そ、そうだよ。早くユークさんを探さないと……見つけたあそこ!」
セレナが指差す先に目を細めてみると、そこには裏路地に足を踏み入れる、目深にフードを被ったユークの姿が見えた。
「セレナよく見つけたね。視力いいの?」
「わたしの職業、盗賊だよ。五感が良くないと務まらないよ」
セレナは照れ気味に胸を叩く。その姿を優しく見守りながら、私は翼を羽ばたかせて急降下を始めた。
***
「ユークさんが入った建物って、本当にここなの?」
「そのはずなんだけど……ここってなんのお店?」
ピンクを基調とした派手な入り口。そして受付をしているお姉さんの露出の多い服。どう見てもここって……。
「キャバクラ……じゃなくて、大人の人がお酒を飲んだり遊んだりして楽しむ店よ」
ユークさんって内気でこういうところ苦手そうなイメージだったのだけれど……なんでこんなところに入ったんだろう? 何か事情があるのかな?
「私、中の様子を見てくるからセレナは外で待って……」
「なんでわたし待機なの? わたしもユークさんが何をしているか気になるの!」
「いいけど、きっと後悔するよ」
そう言って私は、セレナの手を握ると、私とセレナに透明化の魔法をかけた。
「えっ?! えっ?! わたしの体がどんどん消えてく!」
「安心して。消えるのは見た目だけだから」
完全に透明になった私は、セレナの手を引いて受付のお姉さんの前を素通りした。
「ルヴィアって戦うだけじゃなくて、なんでもできるんだね」
「まあ、イメージできることなら大抵魔法で実現させられるよ」
「へぇー……それって凄すぎない?」
「そんなことより、今はユークさんを探そうよ」
「魔法でなんでもできるって……そんなことで片付くレベルの話じゃないよ」
セレナは呆れ顔をしながらも、私の後に続いて歩く。どうやらこの店は完全個室制。私はさっき受付の利用者名簿を盗み見て、ユークが使っている個室はわかっている。
「ここね」
店内に明るくノリのいい音楽が流れる中、私は物音を立てないよう慎重に扉を少し開いた。そして、僅かに生まれた隙間から、セレナと一緒に個室の中を覗いた。
「ユークさん?!」
そこにいたのは、ビールが一杯まで注がれた樽ジョッキを両手に持ち、露出の多いお姉さんたちに囲まれて大笑いするユークだった。
「あれ本当にユークさんなの? まるで別人なんだけど!」
この話を読んでいただきありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思っていただけたら、
ブックマーク登録や、
↓の「☆☆☆☆☆」をタップして、応援していただけるとうれしいです!
星はいくつでも構いません。評価をいただけるだけで作者は幸せです。




