9.アニメのセリフ
佐々木は、老人の後ろにある棚に飾られた見覚えのあるフィギュアをみつけた。
「ユニブレ!?」
それは、100年ほど昔に一世を風靡したアニメ『ユニバーサル・ブレイブ』、通称『ユニブレ』の主人公のライバル、ガイアのフィギュアだった。
「ほう。若いのにコレが何か知っているのかい?」
老人の顔に張り付いた笑顔が消えた。
「懐かしい。僕もガイアのファンだったんですよ」
佐々木は、ユニブレへの熱い想いを語りだした。
二人は主人公ではなく、ライバルのガイアが好きという点で意気投合した。
主人公のように要領のよくない生き方をするライバルがいかに自分の心に刺さったのか。
佐々木が熱く語る話に老人はいたく共感した。
「そうなんだ。ワシもあのシーンは当時、胸が締め付けられたよ」
佐々木は、ひさびさに同じ趣味を持つ人間と出会ったことに喜びを感じていた。
老人も、100年も昔のアニメの事なのに、まるで昨日の事のように話す佐々木を気に入りだしていた。
老人は大切にしているガイアのフィギュアを佐々木に手渡した。
佐々木もテンションが上り、フィギュアを老人の方に向け、アニメの決め台詞を真似てみた。
「オレ様は曲がったことが大キライなんだ!」
佐々木は、アニメの声真似までしてしまったため少し恥ずかしくなった。
しかし、そのセリフを聞いた瞬間、ギルの動きが止まった。
「オレ様はギル商会の商会長のギルってもんだ」
再起動した、老人は自己紹介をはじめた。
佐々木はその芝居がかった言い回しが何かわかり、ニヤニヤした。
ギルはアニメのガイアの自己紹介を真似ていることを。
「オレは佐々木。ギル!オレと仲間にならないか?」
佐々木もギルのように、主人公とライバルの共闘シーンを真似てみた。
店内にいた、店員たちは商会長に生意気な口を利く若造に詰め寄ろうとした。
しかし、ギルはそれを手で制した。
店員たちは静かに店の裏へと消えていった。
ギルは佐々木に嘘をついたことを心から謝罪した。
「すまない、ワシはアンタに謝らないといけないことがある。この指輪だが、200万クレジットなんてしみったれた金額で売っては行けないシロモノなんだ」
佐々木は急にギルの雰囲気が変わった事についていけず、おどおどしだした。
「今回は謝罪の意味も込めて、正規の価格の2億クレジットで買い取らせてもらうよ。」
佐々木はリベラの持っていた小さな指輪がそんなに価値があることに驚いた。
「オレも長く生き過ぎたよ。あんなに好きだったコイツのセリフをすっかり忘れて、曲がったことをし過ぎてしまったよ」
ギルは佐々木から戻されたフィギュアをなでながら、涙を流した。
金のためにこれまでも不誠実な行為をして、商会をここまで大きくしたギルは仕事をはじめた頃を思い出していた。
「アンタには何か秘密がありそうだな。よければ聞かせてくれないか?」




