65.姉貴分の愛情
12章のあらすじ
登場人物:佐々木啓介(30歳、男性)、リベラ(船のAI、女性)、セレネ(エンジニア、28歳、女性)、メイリン(なんでも屋、29歳、女性)、リリィ(整備士、17歳、女性)、アード(設計士、80歳、男性)、リーナ(ロボット工学者、22歳、女性)、アテナ(建築師、32歳、女性)、ギル(商人、130歳、男性)、ノア(カジノ専門家、30歳、女性)
カマール星から帰還した佐々木は、メイリンを新メンバーとして紹介し、新しいボディで復活したリベラと再会する。任務の報告と、リゾート要塞のビジネスパートナーであるギル、そしてカジノ専門家のノアを迎え入れた後、アヴァロン建設の進捗確認が行われる。リーナによるRCR(ロボット構築ロボット)の増産戦略が功を奏し、アヴァロンの骨格構築は半年で完了予定という驚異的な進捗が判明する。しかし、その陰でリリィは、要塞の核となるレーザー砲の設計に苦悩していた。その夜、リベラに依頼されたメイリンと佐々木は大浴場で親密な時間を過ごし、翌朝、佐々木を巡るセレネ、リリィ、メイリンら女性陣の間で「ハーレム」を巡る静かな牽制が繰り広げられる。カジノ専門家ノアがギルと共に来訪した直後、アード(80歳)は、リリィの技術不足がアヴァロン防衛における潜在的なリスクだと指摘。この指摘を受け、ギル(130歳)は、レーザー砲の権威「オリーヴ」の捜索を約束し、アヴァロンの将来的な防衛強化に着手した。
豪華客船で、メイリンは沈んだ顔のリリィに声をかけた。
「おい、リリィ。せっかくの休暇なのに、そんなツラしてんじゃねえよ」
リリィは俯きがちに答えた。
「メイリンさんは楽しそうでいいですね…」
メイリンは笑う。
「当たり前だろ。2人で1週間5000万クレジットのツアーだぜ。楽しまなきゃ大損だ」
リリィは顔を曇らせた。
「でも、私は遊んでいる場合じゃないんです。早く成果を出さないと…」
リリィの脳裏に、2日前のアークの光景がよみがえった。
…
リベラがリリィに穏やかに告げた。
「リリィさん、佐々木様の提案で、あなたには強制的に休暇を取って頂きます。メイリンさんと2人で豪華客船ツアーを満喫してきてください。」
メイリンは目を輝かせた。
「えっ、いいのか?ありがとう佐々木!帰ってきたら、とびっきりのサービスをしてやるから楽しみにしてろよ」
サービスを想像し、佐々木は顔を真っ赤にしていた。
…
リリィは席から立ち上がった。
「私、やっぱりダメです。今すぐアークに戻ります!」
メイリンは腕を掴み、リリィを座り直させた。
「落ち着け、リリィ。お前は強制的に休まされているんだ。途中で帰ったら私が怒られるだろ」
リリィは唇を噛む。
「でも、みんな成果を出しているのに、私だけ、何も進んでなくて…」
メイリンはため息をついた。
「真面目だな。お前は今、装備もねぇのに、敵陣に特攻しようとしてるバカと変わらねえ。そんなんで死んだって誰も褒めてくれねえよ。今はなんとかって権威が来るのを待つのがお前の仕事だろ?ソイツが見つかれば、フルパワーで働ける」
リリィは、焦りの本質を言い当てられ、言葉を失った。
メイリンがニヤつきながら尋ねた。
「ところでリリィ、お前、佐々木とはどんな関係なんだ?」
リリィは佐々木のベッドで抱きつかれたことを思い出し、首筋まで真っ赤になった。
メイリンは不満げに口を尖らせた。
「…なんだよ、もうお手つきかよ!」
リリィは必死に否定する。
「ち、違います!アレは未遂です!」
メイリンは椅子にもたれかかった。
「お前、佐々木に見初められたんだぞ?もう人生安泰だろ。なんでそんなに頑張ろうとする?」
リリィはきっぱりと首を振った。
「そんな人生はイヤなんです!私は技術者として、みんなに認められたいんです!」
メイリンが表情を引き締めた。
「そこだな」
メイリンはリリィを覗き込んだ。
「お前を認めてないって、誰がお前に言ったんだ?少なくとも私は聞いてないぞ。考えてもみろ、認めてない、何の価値も感じないヤツにこんな旅をプレゼントするか?」
リリィははっと顔を上げた。
「アードだけじゃない。お前のことをアークのみんなは認めてる。お前のことを心配もしてる。大事にも思ってくれてる。だから能天気そうな私とココにきたんだろ?」
メイリンは静かに続けた。
「お前はその優しさを踏みにじろうとしていることに気がついているか?」
リリィは自分のグラスを震える手で見つめた。
彼女の目から、それまでの焦りが消え、仲間への感謝と罪悪感がにじんだ。
リリィはグラスを強く握りしめた。
それまで奔放で得体の知れない存在だったメイリンが、初めて自分を心の底から心配してくれる、頼れる姉のような存在だと感じた。
「だから、お前はココで、みんなのために全力で英気を養わないといけないんだ」
リリィは少し照れたような顔で口を開いた。
「メイリンさん。ありがとうございます。私、あなたのことを誤解してたかもしれません」
メイリンはフッと笑った。
「気にするな。でだな。さっきの未遂って佐々木に何された?」
どこまでも下世話なメイリンに、前言を撤回しようかと考えるリリィがいた。




