59.不安の終わりと再会
10章のあらすじ
登場人物: 佐々木啓介(30歳、男性)、リベラ(船のAI、女性)、メイリン(29歳、女性)、ドレッドノート(40歳、男性)
佐々木はギルから、セレネの技術回収依頼に関する交渉を、組織のボス「ドレッドノート」と直接行うよう指示を受け、リベラと共にカマール星へ向かった。現地で義体化のなんでも屋メイリンと出会い、彼女の協力を得る。メイリンの調査で、ドレッドノートの組織が佐々木を追っていること、および交渉の場が設定される。佐々木とリベラはドレッドノートと対面。リベラは武力による脅しをニュースを利用した巧妙なブラフで退け、交渉を優位に進めた。依頼元がメテオラ社の開発部長ゲインの独断だと判明し、佐々木は依頼取り下げを条件に2億クレジットを支払い和解。メイリンは正式に仲間となる。リベラとメイリンはゲインの弱み(ハイエンド義体への執着)を突き、リベラが単独潜入するが、ゲインの自宅前で通信が途絶。急行した佐々木とメイリンは、頭部を破壊されたリベラの凄惨な姿とゲインに遭遇。メイリンが一撃でゲインを制圧した。リベラはコアでの復活が可能だと説明し、ゲインの猟奇的犯罪を世に暴く計画を遂行。自爆と情報流出によりメテオラ社に圧力をかけ、依頼を正式にキャンセルさせた。ドレッドノートは佐々木たちとの提携を申し入れ、佐々木はメイリンを伴いアークへ帰還した。
カマール星での交渉を終えた佐々木とメイリンは、ルインキーパー帰還することにした。
アークに近づくにつれ、窓の外に広がる光景に、メイリンは息をのんだ。
「おい、佐々木。ありゃ何だ?」
メイリンが指さす先には、宇宙に浮かぶ、巨大な構造体があった。
その全長はゆうに80キロメートルにも及ぶ、巨大な球体の骨格だ。
佐々木は苦笑を浮かべ、その巨大な廃墟のような姿を見つめた。
「あれは僕らが建造中のアヴァロンという要塞なんです。まだ骨格しかないですけどね」
メイリンは言葉を失った。
「…冗談だろ。こんなものを個人で建造しているなんて。聞いたことがないよ」
佐々木はさらに隠していた事実を白状した。
「でも、見ての通り、アヴァロンは未完成です。だから今は、この残骸を再構築した大型船のアークの中で生活してるんです。ガッカリさせてしまったら、すいません」
メイリンは満足そうに口角を上げた。
「まさか。逆に安心したぜ。私の選択が間違っていなかったと確信した。とんでもない男に見初められたぜ」
ルインキーパーを降りると、一体のアンドロイドが静かに待っていた。
それはアークの防衛システムを司るアンドロイドだった。
「佐々木様。おかえりなさいませ。事情はリベラより伺っております。コアを回収いたします」
佐々木は懐から、リベラの身体から取り出した黒い玉をアンドロイドに渡した。
「皆様が食堂でお待ちです」
アンドロイドはコアを丁重に受け取ると、その場から音もなく姿を消した。
佐々木はメイリンを伴い、廊下を食堂へと歩き出した。
佐々木は、リベラがいつ復活できるのか、それが気になっていた。
食堂の扉を開けた瞬間、まず佐々木を見つけたのはセレネだった。
彼女は椅子から飛び出すように駆け寄り、佐々木に抱きついた。
「佐々木さん!無事でよかった!リベラから事情は聞いたわ。本当に心配したわ」
セレネはリベラを失った佐々木を心底案じていた。
佐々木はセレネを強く抱き締め、彼女の身体の温かさを感じて、旅の疲れが癒やされるのを感じた。
「みんな、ただいま」
佐々木はセレネとの抱擁を解くと、安堵の息を一つ吐き、集まった仲間たちに向き直った。
その目は、仲間たちへの感謝に満ちていた。
「紹介します。今回、カマール星でとても助けになってくれた、メイリンさんです。彼女はぼくたちの新しい仲間になってくれます」
メイリンは自信に満ちた足取りで一歩前に出ると、周囲の女性陣を見渡して、挑戦的な笑みを浮かべた。
「カマール星でなんでも屋をやっていたメイリンだ。まぁ、佐々木の新しいハーレム要員ってことで、よろしくな」
リリィとリーナから、やっぱりとか、また増えたと言った声が聞こえてきた。
佐々木は顔を真っ赤にして慌てて否定する。
「いえいえ、そんなハーレム要員だなんて、リベラが勝手に言っただけで…」
だが、メイリンは、本気であることをアピールした。
「でもリベラとそこは重要じゃないって話をしてたろ?私のような有能で美しい女性がアンタと一緒にいたいと言っているのに。邪険に扱うのはどうなんだって」
「…たっ。たしかにそんな話をしましたね」
佐々木はたじたじになっていた。
その状況を冷静に見つめていた建築師のアテナが、楽しそうに会話に入ってきた。
「フフッ、楽しそうな話ね。じゃあ、私も正式にハーレム要員ってことでいいのかしら?私のような有能で美しい女性がアンタと一緒にいたいと言っているのに…だっけ?」
リベラを失い、沈んでいた佐々木の周りの空気が軽くなり、皆が笑い出した。
その時、食堂の自動ドアが、全ての喧騒を遮断するように静かに、そしてゆっくりと開いた。
そこに立っていたのは、以前とまったく同じ姿のリベラだった。
「佐々木様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
その声を聞いた佐々木は、リベラに走りより、しっかりとその体を抱きしめた。




