56.メタル・ビューティー作戦
メイリンは知り合いのツテを使い店との交渉を完了した。
リベラとメイリンはホテルで身支度を整えた。
やがて、ドアが開き、佐々木の前に二人の美人が立った。
リベラは、人間そっくりなアンドロイドの身体を包むハイエンドなイブニングドレス。
メイリンは、左手の義体と左胸の機械的なラインが覗く、アシンメトリーなカクテルドレス。
二人の姿は、いつも服装とは打って変わって、息を呑むほどに華やかだった。
佐々木はあまりの美しさにドキドキしてしまい、言葉を失った。
リベラは佐々木の手を取り、見上げるように言った。
「佐々木様、ココでお待ち下さい。帰ったらさびしさをまぎらわしてさしあげますので」
メイリンも佐々木の肩を強く叩いた。
「へっ、佐々木。あたしもソレてつだうよ。楽しみに待ってな!」
佐々木は顔を赤くしながら、2人の美人を見送った。
「くれぐれも、気をつけてくださいね」
2人はタクシーに乗り込み、ゲインの行きつけの高級店へ向かった。
店で席に座るゲインの横に、ドレス姿のリベラとメイリンが並んで座った。
「これはこれは、美しいおふたりだ!」
ゲインの目は、獲物を見つけた爬虫類のように細められた。
その視線は、2人の女性の内部構造を透かし見ようとするかのように粘着質だった。
2人は自己紹介をし、ゲインの嗜好に合わせた会話を展開した。
2時間後。
ホテルの部屋のドアが開くと、メイリンだけが戻ってきた。
彼女はドレス姿のまま、悔しそうにテーブルを拳で叩いた。
「どうしたんです、メイリンさん!リベラは?」
佐々木は不安そうにメイリンにたずねた。
「作戦は成功だ。ゲインが気に入ったのはリベラの方だった。チッ」
メイリンは自分が選ばれなかった事を悔しそうに語った。
その瞬間、メイリンの端末にリベラからの通信が入った。
「リベラは、今、ゲインが手配したタクシーに乗せられ、どこかへ向かっている」
リベラから、タクシー内の情報と位置情報が送られてきていた。
メイリンは佐々木に端末を見るように促した。
端末の画面には、リベラの視点でタクシーの車内が映っていた。
「リベラは単独で潜入した。ココからが、弱みを握る最大のチャンスだ」
メイリンは言った。
タクシーは目的地に到着し、リベラが先にタクシーを降りてゲインに背中をみせた。
その瞬間、端末からの通信がブツリと途絶えた。画面はノイズに変わり、位置信号もロストした。
佐々木は血の気が引くのを感じた。
「リベラ!リベラ、どうしたの?返事をして!」
「佐々木。落ち着いて!」
メイリンは佐々木の肩を強く掴んで言った。
「通信が切れた場所は、ゲインの自宅前だ。とりあえず私たちもソコへ向かおう」
ホテルからタクシーへ乗り込み、目的地を伝えた。
「恐らく、ゲインは義体やアンドロイドを制御するための強力なシステムダウンデバイスを隠し持っていた。一瞬でリベラのメインシステムをショートさせた可能性が高い」
メイリンは落ち着いて状況を分析していた。
「佐々木。作戦前、リベラから言われた話を伝えておく」
そう言って、メイリンは少し前にリベラから言われた話をはじめた。




