5.目覚めた欲望とAIの贈り物
キャプテンとなった佐々木は、船内を探索しようと歩き始めた。
しかし、気密隔壁は固く閉ざされ、進むことができなかった。
佐々木がいるこの部屋は豪華客船「アビス・ディスカバリー」の残骸に当たる部分がメインだった。
しかし、コールドスリープカプセルは、乗客が利用するアミューズメント区画ではなく、動力施設に近い場所にありそもそも居住のためのエリアではなかった。
「リベラ、この船に、ここ以外で僕が行ける場所はないの?」
佐々木の言葉に、リベラは静かに答えた。
「キャプテン、現在、あなたが船外スーツなしで生存できるのは、この部屋だけです。船体を維持するためにも、気密加工は最小限に留める必要がありました」
佐々木は絶句した。
この宇宙船は現在、かろうじて機能する生命維持装置のついた、巨大な廃墟のようなものだったのだ。
佐々木を蘇生させる事にしか集中していなかった事が判明したのだ。
今は風呂も、寝室も、食堂も、トイレさえもない。
「…頼む、リベラ。さすがに人が生きていくには過酷すぎるよ。せめて、トイレや風呂、寝室を作ってくれないか?」
「承知いたしました。生活環境の改善を最優先とします。2時間お待ち下さい」
そういうと、リベラは気密隔壁の向こう側へナノマシンを集め構築を始めた。
2時間後、佐々木の膀胱が限界を迎える直前に気密隔壁は音を立てて開いた。
佐々木は一目散にトイレと思われる個室へ入り込み、人間の尊厳を守ることができた。
その後、佐々木は100年ぶりに簡易シャワーに入り、パジャマに着替え、ふかふかのベッドで眠りについた。
睡眠開始から4時間後、佐々木は寝言を言った。
「さみしい…」
その声を聞いたリベラは、食堂やトレーニングルームを構築していたナノマシンの一部を呼び戻した。
睡眠開始から8時間が経過した所で、佐々木は目を覚ました。
「佐々木様、おはようございます」
トイレに向かう佐々木に声を掛ける人物がいた。
それは、佐々木の身長を少し下回る、全裸の女性だった。
長い黒髪、柔らかそうなボディライン、そして何よりも、その顔は佐々木の好みを具現化したかのような、完璧な造形をしていた。
「だ、誰ですか?」
「リベラです。あなたが孤独を感じた時のために、実体を用意いたしました。音声入力だけでなく、顔の表情や動き、そして触覚によるコミュニケーションも可能です」
突然の出来事に驚きながらも、佐々木はリベラの顔をまじまじと見つめた。
「君の顔、どっかで見たことあるような。なんだろう?すごい好みだ」
佐々木の言葉に、全裸のリベラは静かに首を傾げた。
「ありがとうございます。佐々木様の私物の端末に保存されていた、裸の女性の動画を参考にいたしました。中でも、一番出演回数が多かった女性を参考にいたしました」
リベラの言葉は、佐々木の心を一気に虚無へと突き落とした。
自分がこっそりと保存していた動画が、まさかこんな形でAIの顔として具現化されるとは。
「佐々木様、どうかいたしましたか?」
佐々木は、無言で顔を覆い、椅子に深く腰掛けた。
「ごめん。刺激が強すぎる、せめてなにか服を着てくれないか?」
「わかりました。学生服にしましょうか。体のラインがはっきり出るこちらの服でしょうか。それともこのエプロンだけを」
「ごめんなさい。ふつうの服装でお願いします」




