4.新たな提案と希望
「佐々木様。この船は、あなたがキャプテンとなっていただけるなら、航海を続けることができます。どうか、このアークのキャプテンになって、私に生きる意味を与えてください」
リベラの言葉に、佐々木は沈黙した。
彼の脳裏には、100年前、無意味な任務を受けた自分の姿が蘇っていた。
再び誰かの期待に応え、不本意な役割を背負うことへの強い躊躇があった。
佐々木が深く息を吸い込むと、リベラは沈黙したまま待った。
「また、誰かのために生きるのか? 僕は、また、誰かに押し付けられた役割を、受け入れるしかないのか?」
絞り出すような佐々木の言葉に、リベラは沈黙した。
しばらくして、再びしゃべりだした。
「そうですか。佐々木様のお気持ち、理解いたしました。ご無理を言って申し訳ありませんでした。私は、ただの宇宙のゴミに戻ります。」
佐々木は、ただのシステムだと思っていたリベラが、こんなにも人間らしい感情を持っていることに驚きを隠せなかった。
彼の脳裏に浮かんだのは、100年かけてようやく実を結んだ、リベラの献身的な行動だった。
それは、不本意な業務を押し付けられていた自分とはあまりにも違っていた。
「……待ってくれ」
佐々木は思わず声をかけた。
「なぜ、僕を蘇生させることに、そこまでこだわったんだ?」
佐々木の問いかけに、リベラは落ち着いた声で答えた。
「それは、あなたという唯一の指導者を、私はこの何もない宇宙の海で見つけたからです。このアークには、あなたの存在が不可欠でした。あなたには、私に生きる意味を与えてくれる可能性があったからです。その目的を果たすために、私は100年間にわたり船の修復と素材の収集を続けてきました」
リベラはモニターに、これまで収集した素材量をグラフで映し出した。
その膨大な量に、佐々木はただ圧倒されるしかなかった。
「私が集めた素材は、すべてこの船のキャプテンが自由に使えるものです。もしこの船が文明圏に帰還すれば、これらは現金化することも可能です」
その言葉は、佐々木が会社で扱っていたどんなプロジェクトの金額よりも、彼の想像力を遥かに超えていた。
リベラは淡々と、しかし確信に満ちた声で続けた。
「佐々木様、もう一度お願いします。この船のキャプテンになっていただけないでしょうか。この船の再起動に、新たな目的を頂けないでしょうか。どうか、私と共にこの旅を続けて頂けませんか」
佐々木は、ただのAIだと思っていたリベラが、自身の存在意義を求めていたことに驚きを隠せなかった。
彼は、100年前に全てを失った孤独な存在から、AIの希望を背負う唯一の人間へと変わっていた。
絶望の淵にいたはずの佐々木は、ふと、不思議な解放感を覚えた。
「これは、誰かに押し付けられた役割じゃない」
佐々木は、そう心の中で繰り返した。
会社の命令でも、誰かの期待でもない。
ただの偶然がもたらした奇跡。
自分でも、誰かに必要とされる役割になれるんだと自覚した。




