42.真の目標の発見
「お二人には、僕が以前体験した豪華客船での旅をプレゼントします。ぜひ豪華船の旅を楽しんできて下さい」
佐々木の言葉を受け、リーナとアードは豪華客船へと旅立った。
この贅沢な休暇は、ジャンク屋として日銭を稼いでいたアードとその孫娘リーナにとって、格別な心遣いだった。
旅に出る直前、リベラはアードに向き直り、静かに言った。
「アードさん。佐々木様も私も、あなたには感謝しています。ただ、この旅は単なる慰労ではありません。この休暇の裏にある意味を、ぜひ考えてみて下さい。」
旧アヴァロン要塞の勤務経験を持つアードは、船室や内装に驚きを隠せない様子だったが、好奇心旺盛な孫娘のリーナは、船内のカジノエリアに引き寄せられた。
彼女はギャンブルの面白さに魅了され、今までの感覚じゃできなかったと笑い、持ってきたわずかなお金を早々に使い果たしてしまった。
一方、アードはこの休息を、新生アヴァロンの設計思想について深く考える機会にした。
彼は過去の戦争経験と、ジャンク屋として生きてきた経験から、アヴァロンを巨大な要塞や防衛施設を中心に設計しようと考えていた。
彼の頭の中では、構造物すべてが軍事的な意味合いを持っていた。
しかし、彼は佐々木たちが戦艦ではなく、常識外の巨大な要塞を造り始めた理由を改めて思い出した。
それは、手に入れた資源の量が膨大すぎて、戦艦を作るよりも巨大な要塞を造る方が効率的だという、突き抜けた合理性だった。
この旅の贅沢で非日常的な環境、そして佐々木とリベラがわざわざこの旅を勧めた理由と、リベラから投げかけられた言葉を顧みて、彼はある事実に気づいた。
「チッ、そうかよ。佐々木が造りたいのは、戦艦でも要塞でもねえ。それに、リベラも、俺の考えが、他の連中とズレていることを知っていて、この旅でそれを修正したかったんだな。」
アードはそこで、巨大な軍事施設という枠組みを、民間利用の視点から捉え直す必要性を痛感した。
佐々木が望むのは単なる軍事拠点ではない。
アードは、戦闘工学の常識を捨て、彼らが造るものが膨大な資源を最大限に活用し、心から安らぎ、楽しめる空間。
佐々木とリベラの目指す究極の目標であることを理解した。
旅が進む夜、アードはリーナと二人きりでゆっくりと語り合った。
「リーナ、この船の贅沢な設計を見て、お前はどう思う?」
アードが尋ねた。
リーナはカジノのことは忘れて答えた。
「おじいちゃん、この船本当にすごいよ。私たちが作っているアヴァロンも、こんなに素敵な場所になるんだよね?リベラさんの期待通り、絶対成功させようね」
プロジェクトの技術的な成功に心を躍らせるように答えた。
その孫娘の言葉に、アードは決意を新たにした。
「ああ、そうだな。俺たちゃ、依頼された通りの軍事施設を造るんじゃねぇ。俺たちの技術者としての意地とプライドにかけて、これを人類史上最高にイカしたモノに仕上げてやろうじゃねぇか。」
二人は、この旅で得たインスピレーションと、プロジェクトの真の目標を胸に、休暇明けにシステム強化された建設現場へ戻る準備を始めた。




