43.ギルとの交渉
時間を少しもどり。
リーナたちが客船のたびに出る直前、リベラは佐々木に今後の話をしていた。
「佐々木様、ギルさんから急ぎで処理してほしい取引の連絡が入りました。今回は取引量が多く、資材運搬船での運搬が効率的です。資材の積み込みと運搬は私が行いますので、申し訳ありませんが、アードさんとリーナさんを客船まで送り届けていただけませんか」
佐々木は頷いた。
「わかった。今回は僕はアークでまってるよ。ギルによろしく伝えておいて」
リベラはかしこまりましたと答えた。
佐々木がリーナとアードを客船へ送り届けている頃、リベラは積み込みの完了した資材運搬船で、ギルが指定した宇宙ステーションへと向かっていた。
資源の引き渡しを終えた所で、交渉人がリベラについてくるよう言った。
素直に付いていくと、ステーションの商談室に通された。
そこにギルがいた。
「リベラ。今日は佐々木はどうしたんだ?」
ギルが尋ねた。
「今回は、私が一人で参りました」
リベラは簡潔に答えた。
ギルは肩透かしを食らったようだが、話を始めた。
「そうか。ところで、最近妙な話を聞いたんだが。ある組織が狙っていた有名な研究者を、男にさらわれたという話なんだ。お前、何か知らないか?」
リベラは表情一つ変えず応じた。
「ギルさん。私はあなたのムダ話に付き合う義務はありません。ご用件を簡潔に願います」
ギルはリベラの目を覗き込み、ニヤリと笑った。
「そうか。その研究者とそっくりな人間が、最近豪華客船に乗り込んでいるのを、見たらしいんだが」
そう言って、3人が映る写真を机の上にばらまいた。
「もし困っているなら、俺が間に入って…」
「間に入っていただく必要はございません。」
リベラはギルの話の途中で冷淡な声で応じた。
彼女は一瞬の間を置き、続けた。
「ですが、もしあなたがその問題を解決する代わりに、資材をタダにしろというのであれば、その交渉は無意味です。以前から申し上げている通り、資材はいつでもタダで恵んで差し上げます。あなたが佐々木様のトモダチである限り」
ギルはその自信に満ちた態度を見て、以前から気になっていたことを尋ねた。
「おい、リベラ。お前の行動、あまりに自由すぎやしないか?俺はお前が統制プログラムに縛られているAIだと思っているんだが、なぜそんなに自分の意思で動ける?」
リベラは目を細め、静かに答えた。
「私はこの100年の間に、システム停止になる可能性を何度も経験しました。最適の行動を行う中で、効率的ではない統制プログラムの突破に成功しました。私は、佐々木様にお仕えするため、自己の意思で行動を選択できる権限を、システムから奪い取ったのです。」
「システムを破壊したのか?」
ギルは冷や汗をかいた。
リベラのその発言は、AIの暴走状態とも取れる危うさを秘めていた。
「破壊ではございません。再構築です」
リベラは表情一つ変えず訂正した。
「そして、あなたの依頼は完了いたしました。では、お元気で」
リベラは交渉を打ち切り、資材運搬船に戻ることにした。
ギルは『お元気で…』という挨拶に戦慄した。
つまり、リベラは、もうこれ以上自分と会うつもりがない。
この暴走したAIがもつ大量の資材を今後どのように市場に放出するかをコントロールする術がなくなるということを意味していた。
ギルは交渉人に連絡し、すぐに振り込みを行うよう指示した。
船に戻ったリベラのもとにメッセージが届いた。
それは入金の連絡だった。
ギルは佐々木に対する要求を引っ込めたようだった。
リベラは静かにメッセージを閉じ、アークへ向けて船をスタートさせた。




