32.冷静と情熱のあいだ
「リーナ、ワシはこの人たちについていこうと思う」
アードは、佐々木たちを差し、孫娘に説明をした。
「彼らは宇宙要塞を構築するらしい。私に、コンサルタントを任せてくれるそうだ」
リーナは、祖父の言葉を聞いて思わず吹き出した。
「何バカなことを言ってるの? 宇宙要塞なんて、作れるわけないじゃない。あなたたちもこんなおじいちゃんをさらっても1クレジットも払わないわよ!」
リーナは、佐々木たちを詐欺師と疑うような冷たい視線を向けた。
「まぁ、とりあえず。アンタたちの話をもっと詳しく聞かせてくれないか」
アードはそう言って、商談エリアのテーブルに向かった。
リベラは、佐々木の許可をもらい、現在のアークが抱える問題と要望。
さらに莫大な資産状況についてアードに説明した。
説明を終えたアードは、現実的な問題点を指摘した。
「いくら資材があっても、宇宙要塞なんて巨大構造物を構築するには、途方もない数の作業員が必要になる。人員はどうするつもりだ? どこかの建設企業と契約でもするのか?」
リベラは即座に首を横に振った。
「いいえ。現時点で、増員は一切予定しておりません。外部の人間を雇うことは、それだけリスクを高めます」
アードはニヤリと笑った。
「なるほど、アヴァロン陥落の一番の要因だしワシもそれには賛同するな」
アードはリベラに違う話をした。
「なら、ひとつ提案がある。大規模な建設作業を担うのは、何も人に頼ることはない。大量のロボットを投入するというのはどうだ? ロボットであれば秘密も漏らさんし、休む必要もない。そして、建築の先の運用も、最終的には高度に自動化されたロボットとAIで賄うってのはどうだ」
「それは、非常に理想的な方針ですね」
リベラは静かに頷き、同意した。
ちょうどその時、様子を心配したリーナがブースにやってきた。
「おじいちゃん、大丈夫? 変な話に乗せられてない?」
駆け寄ってきたリーナを見て、アードは笑った。
「ああ、心配するな。みなにリーナを紹介しよう。ワシの大切な孫で、ロボット工学にかけては天才的なオタクだ」
そして、アードはニヤリと笑って、リーナに問いかけた。
「おい、リーナ。お前に好きなだけロボットを作らせてやると言ってくれる人がいたら、どうする?」
リーナは、祖父の言葉と、その向かいに座る佐々木を見た。
女性を二人も侍らせてはいるが、どうみても普通の男の佐々木がそんな資産家には見えなかった。
「本当に、そんな夢みたいなことできるの? 」
その言葉を聞き、リベラはすぐに反応する。
「ごもっともな疑問です。説明だけでは、我々の現状を完全に理解していただくのは困難でしょう。佐々木様、よろしければお二人をアークへご招待してはいかがでしょう。現物を見ていただければ、計画の現実性を理解していただけるはずです」
佐々木も、その意見には賛同した。
「そうですね。話を聞くだけじゃ、信じられないのも当然だと思います。よかったら、僕たちの船へ、一度見学に来ませんか?」
リーナは、その柔和な佐々木の態度から、強く興味がわいた。
「わかった。見るだけならタダだし。その船とやらを、見せてもらうわ」




