30.僕が考えた最強の要塞
3人は、プロトコル・ゼロの設計図エリアへと移動した。
その混沌とした空間で、彼らは目標の要塞『アヴァロン』の設計図を探し始めた。
「これだけの図面の中から、特定の要塞を見つけるのは大変ですね」
佐々木は圧倒されながら呟いた。
しばらくして、リリィの明るい声が響いた。
「佐々木さん、リベラさん!あれ、見てください!」
リリィが指差す先は、このエリアの隅にある小さなブースだった。
そこには、巨大な要塞の精巧な模型が飾られていた。
その堂々とした姿は、まさに宇宙要塞アヴァロンの威容を思わせるものだった。
「素晴らしい……これがアヴァロンですか」
佐々木が興奮気味にその円形の要塞を見ている。
リベラは模型に近づき、自身のデータと比較した。
「お待ち下さい。細部の構造データが、アヴァロンの公式記録と一致しません。特に防御隔壁と武装配置が、独自の改変を受けています。これは、アヴァロンをベースにした、オリジナルの設計のようです」
3人が模型について話し合っていると、1人の老人が嬉しそうに近寄ってきた。
薄汚れた作業着を着たその老人は、リリィとリベラの間から模型を覗き込み、誇らしげに言った。
「そいつはわしの作品だ。お前さんたち、良い趣味をしてるな。これはな、アヴァロンをベースに、わしが生涯をかけて考え抜いた最強の要塞の模型だ!」
老人は、夢を吐露するように言葉を続けた。
「この要塞の設計は完璧だ。だが、これを実際に築くには、とてつもない量の素材と資金、そして作業者が必要になる。わしのようなただのジジイには、実現化はそもそもムリだった」
リベラは、その詳細な模型と老人の熱意に強く興味を引かれた。
「興味深いですね。これが、どの程度実現性があるのかを精査したいのですが。設計図などのデータはありますか?」
老人はニヤリと笑った。
「教えてやってもいいが、タダじゃ聞かせられん。そうだな、1億クレジットでどうだ?」
佐々木とリリィは1億という金額に一瞬ひるんだ。
しかし、リベラはすぐに佐々木へ提案した。
「佐々木様。これは外れ覚悟の投資ですが、もしこの設計図がホンモノであれば、わたしたちの目標達成に直結します。購入してみることをご提案します」
佐々木は、リリィの熱い眼差しにも後押しされ、意を決した。
「わ、わかりました!1億クレジットでお願いします」
一瞬、老人は驚いた顔をしたが、佐々木は端末を取り出し、老人のアカウントに送金を行ったタイミングで老人の顔が変わった。
支払いが完了すると、リベラは老人のデータを受け取りタブレットで確認をはじめた。
リリィも横から画面を覗き込んでいた。
「これは……!構造の連続性が尋常ではありませんね」
「ええ、この構成は画期的です!」
専門的なデータに没頭し、顔を見合わせて語り合うリベラとリリィの姿を見て、老人は目を見開いた。
「おい、待て……そんな専門的な話ができるお前さんたちは、一体何者だ?もしかして、本当にこの設計を実現できるような資源や資金を用意できるのか?」
興奮を抑えきれない老人に、佐々木は答えた。
「は、はい! たぶん大丈夫だと思います」
リベラは佐々木の言葉を横から補強するように、老人に淡々と伝えた。
「私たちはこれを実行できる資源や資金を持っています」
老人は一瞬で表情を崩し、震える手で自身の端末を取り出した。
「金は返す!」
老人は、今しがた受け取った一億クレジットを佐々木へ送り返した。
「そのプロジェクトに、このワシを、設計者として、是非とも入れてくれ!」




