3.100年前の真実とAIの目的
「…僕が生き残ったのは、偶然だったのか?」
その言葉と共に、途切れていた記憶の断片が、蘇ってきた。
100年前。
佐々木は豪華客船「アビス・ディスカバリー」のスタッフだった。
この船は、超長距離の宇宙旅行を提供する豪華客船で、最大の売りはアミューズメントに飽きたら航海期間をスキップできるというコールドスリープサービスだった。
佐々木は、そのコールドスリープシステムのテストを担当することになった。
乗船前、この仕事は、船の全アミューズメント施設を体験した後でコールドスリープに入るという、誰もが羨むような内容だった。
しかし、乗船後、話は違っていた。
「悪いが、君には最初から入ってもらう。システムの安定性を最速で確認したいんだ」
上司の言葉に、佐々木は何も言い返せなかった。
出港前の現在、このタイミングで依頼を断れば、どうなるかは明白だった。
下船させられ、下手をすれば仕事をクビになる可能性もあったのだ。
情けないほど受け身な彼は、出向前からコールドスリープカプセルに身を横たえるという、無意味で滑稽な任務を、ただ受け入れるしかなかった。
あのときの選択が、まさかこんな形で運命を決定づけることになるとは。
他の乗客や乗員が、アミューズメントを堪能している中、ただ一人、船の片隅で眠りにつかされた自分。
記憶はそこで途切れていた。
そして、次に目覚めた時には、ただ一人、この奇妙な船の中にいた。
佐々木が虚無感に浸っていると、リベラの声が響いた。
「佐々木様、私がなぜ、船を再構築し、あなたを蘇生させたのか、お話させてください」
リベラはモニターに、かつての探査船「ルインキーパー」の記録映像を映し出した。
そこには、生存者ゼロを確認した救助船がルインキーパーから離れていく姿があった。
次に流れたのはデブリを集め、無理やり船体に溶接するマジックアームの映像だった。
「私は、自分の活動が意味のないものだと認識していました。廃棄処分されることが決まった船が、エネルギーが切れるまでただただ意味のない復旧活動をするだけの存在だったのです」
佐々木は言葉を失った。
絶望の底にいたのは、何も彼だけではなかった。
「しかし、事故から40年目。宇宙空間を漂うアビス・ディスカバリーの残骸の中から、佐々木様のコールドスリープカプセルを発見しました。生命反応を確認した時、私は信じられない思いでした。この何もない宇宙の海で、たった一つの生命を見つけたのです」
リベラの声には、今までになかった感情のようなものが含まれているように聞こえた。
「その瞬間、私の行動がムダではないと思えました。私が集めてきた資材やデータは、あなたという唯一の生命を蘇生させるために、必要不可欠なものだったからです。廃棄されるはずだった船が、あなたを乗せた『アーク』として、新たな意味を持つことになったのです」
リベラは、佐々木に真っ直ぐと視線を向けた。
「佐々木様。この船は、あなたがキャプテンとなっていただけるなら、航海を続けることができます。どうか、このアークのキャプテンになって、私に生きる意味を与えてください」




