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復讐は自分でやりなさい  作者: ティーケー
呪いの陥穽

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50/186

発見


 町の中心ではちょっとした騒ぎが起きていた。 例のごとく目障(めざわ)りな大臣が視察(しさつ)へやって来ており、相変わらず泥で革靴が汚れるのを嫌ってか、あろうことか車で泥を跳ね散らかして瓦礫(がれき)を運ぶ住民達の邪魔をしていたのである。

 当然、住民は大臣の横暴に反発した。 すると、大臣は「うるせえ、ゴミ虫どもが!」と何の協力もしない分際で偉そうに(わめ)いて車から降りて来ると、車を取り囲んだ住民達を足蹴(あしげ)にした。

 彼の両脇には二人の軍人が従っていた。 大臣は先頭に立って自分に批難を浴びせていた一人の男に目を付けると、右脇の軍人に指示してその男を地面に(おさ)え付けた。

 

 「テメエらドジンは、俺の踏み台になってれば良いんだよ!」


 大臣は男の背中を革靴で『グリ、グリ』と踏みつけながら高笑いをした。


 「――グァァァ――!」


 泥に塗れた長い黒髪を振り乱し、苦しそうに(うめ)く男を見かねた住民達が助けに入ろうとした。 ところが、住民達の前に大臣の左脇に控えていた軍人が割って入り、あろうことか彼等に銃を向けて威嚇(いかく)をした。


 「なっ!? お前らは一体何だ? 何で、私達にこんな酷い事をする!」


 災害で傷ついた町の住民に対して、耐え(がた)い仕打ちをする悪魔のような大臣。 軍人二人はどうやら外国人のようで近年急速に勢力を拡大してきた“アム・セグラ”と呼ばれる謎の民であった。 アム・セグラはもともと難民として日本へやって来た。 その後、政府によって手厚く保護を受け、彼等はある地方都市に自治区を与えられた。 (その過程には宗教法人『神光人(みかりびと)』の暗躍(あんやく)があったと言われているが、真偽(しんぎ)(さだ)かではない)

 政府の保護を受けた彼等は急速に勢力を拡大し、自治区周辺の日本人との軋轢(あつれき)を生み出した。 ところが、政府は日本人ではなく、この謎の民を保護する事を優先し、あろうことか彼等に選挙権を与え、アム・セグラの民から日本の政治家まで誕生するという異常事態が起こってしまったのである。

 日本の腹黒い政治家達がこの国をアム・セグラに明け渡そうとしているのかは分からない。 だが、着実に彼等は勢力を拡大し、この国の民を蹂躙(じゅうりん)し、駆逐(くちく)しようとしていたのである。


 国に裏切られた住民達は恐ろしい銃口を向けられて、(すく)み上がった。 売国の大臣は薄汚(うすぎたな)い笑みを浮かべて、住民達が(おのの)く顔を満足そうに眺めている。 屈強な軍人に抑え付けられている男は何とか抵抗しようとするが、いかにも重そうな小太りの大臣に背中を『ドカ、ドカ』と踏みつけられて、ついに息絶え絶えになってしまった……。


 「止めて! このままじゃ、死んじゃう!」


 住民の一人が涙ながらに訴えたその時だった――。


 「――!?」


 住民達の目の前で銃を構えていた軍人の前に一人の少女が現れた。



 ――



 「何だ、コイツは!?」


 黒いキャップを被った銀色に輝く瞳を持った少女はその瞳に憤怒(ふんぬ)の炎を宿すと、狼狽(うろた)える軍人が被っているヘルメットを『パンッ』と手で叩き飛ばす。 それと同時にその小さい(てのひら)で軍人の頭を(わし)づかみにした。


 「ギャァァ――!!」


 尋常(じんじょう)ならざる少女の握力に、頭を(つか)まれた軍人は絶叫を上げた。 すると、男を抑え付けていたもう一人の軍人がすぐさま銃を抜き、少女に向って銃の引き金を引いた!


 『――パン、パン、パン――!』


 乾いた銃声が響き渡り、硝煙(しょうえん)が辺りを(おお)う――。 軍人はニヤリとした笑みを浮かべたが、すぐにその笑みは消え去った。


 「な、何者なんだ……? このガキ……」


 少女は頭を鷲づかみにした軍人を盾にして、放たれた銃弾を全て防いでいた。


 仲間を自らの銃で殺してしまった軍人は「ウォォォ――!!」と激昂(げきこう)咆吼(ほうこう)を上げる。 ところがその瞬間、彼の怒号は「カヒュ……」というか細い声に変わった。

 軍人の目の前には、先ほどまで仲間の頭を掴んで(たたず)んでいた少女が、自分の首を片手で締め付けている姿があったのだ。


 めまぐるしく変わる状況に、周りを囲んでいる住民も大臣も呆然(ぼうぜん)と立ち竦んでいる。

 少女はそんな彼等の様子などお構いなく、軍人の首を絞める片手に力を加えていった。


 「ガァァァ!」


 『ミシ、ミシ……』と首の骨が悲鳴を上げる。 口から泡を吐きながら、何とか少女の手を振りほどこうと藻掻(もが)く軍人。 咄嗟(とっさ)に腰から引き抜いたナイフを少女の顔目がけて刺し続けるが『ギン、ギン!』という金属音が響き渡るだけで、少女の顔には傷一つ付かなかった。


 (コ、コイツ……化け物か……?)


 薄れ行く意識の中で絶望の瞳を少女の向ける軍人は、少女の銀色に光る瞳に死の恐怖を抱いた。 少女は冷然とした声を軍人に向って放つ。


 「仲間は防弾チョッキをしていたようね。 辛うじて生きているから、この場から消えれば命だけは助けてあげる。 さもないとこの首を握り潰すけど……。


 ……どうする?」


 少女の氷のような冷たい瞳に全身を震え上がらせた軍人は、必死に(うなず)きながら無抵抗の意志を示して両手を挙げた。


 少女は軍人の首から手を離した。


 「ゲホッ、ゲホッ――!!」


 力なく地面に横たわり、泥に(まみ)れて首を押さえる軍人に対し、少女は無慈悲にも蹴りを入れた。


 「――ドン――!!」


 まるで鉄球でも打ち付けたかのような衝撃が軍人の腹に伝わり、軍人は思わず「ギィィヤァ」と断末魔のような悲鳴を上げて転げ回った。


 「ホラッ、とっととこの豚を連れて消えなさい!」


 少女はそう言うと後ろを振り返り、大臣を『ギロリ』と睨んだ。 倒れ伏している男の前で腰を抜かしていた大臣は少女の一瞥(いちべつ)に「ひっ……」と息を飲むと、思わず失禁(しっきん)してしまった。

 

 「はよ、消えれ!」


 少女が(わずら)わしそうに怒声(どせい)を上げる。 すると、彼女の前方にいた軍人が仲間を背負いながらヨロヨロと大臣の方へ駆け寄って行く。 大臣は腰を抜かしたまま後方の車へ転がるように這いずっていた。

 

 仲間を抱えながら少女の横を通り過ぎようとした軍人に、少女は恐ろしい言葉を呟いた。


 「貴様(きさん)、運が良かったわね。 もし、貴様を私が殺していたら、貴様の家族も私が皆殺しにしにゃならんかった。 神に感謝する事ね」


 軍人は『ギョッ』とした顔で少女の横顔を見た。 そして、この少女の言っている事が虚勢(きょせい)では無いと確信し、震える全身に力を振り絞り、車へと駆けて行った。


 (ま、まさか……あんな化け物がこの国にいるなんて……)


 軍人は恐ろしい怪物を目の当たりにし、この国の民を()めていた事を後悔した。



 ――



 傍若無人(ぼうじゃくぶじん)を繰り返した大臣は、立派なスーツを自身の尿と泥でグシャグシャに汚しながら負傷した軍人二人と一緒に車に乗り込むと、タイヤを横滑りさせながら遁走(とんそう)して行った。

 篠木希海(しのきのぞみ)大城真裕(おおしろまひろ)は大臣達に暴行されていた町の男を助けると、住民に向って「もう、大丈夫よ!」と叫んだ。 ところが、住民は何が起こったのかキツネにつままれたまま呆然としていた。

 すると、真裕が間に入り「希海さん、ちょっとやり過ぎよ!」と彼女を(たしな)めた。


 「えへ、ゴメンね♡」


 希海はペロリと舌を出し、住民達に可愛らしい笑顔を見せた。


 「お嬢さん、スゴイぞ!」


 「ありがとう!」


 呆気に取られていた住民達は彼女の笑顔に安堵(あんど)したのか、口々に二人に向って喝采(かっさい)を浴びせ、拍手をし出した。


 「す、済まない……」


 真裕の肩を借りた男は、彼女に礼を言いながら半身を起こした。 高い鼻に彫りの深い顔、縮れた黒髪を持つ男が穏やかな瞳を真裕に向けると、彼女は思わず顔を赤くした。


 「たまたま通りかかっただけよ。 礼なんかいらないわ。 ね、真裕――」


 希海が真裕の横顔を見ると、真裕は男の顔に見とれていたのか呆然としていた。


 「真裕、アータ聞いてるの?」


 「あっ、はい! そうですね、私達は高橋昇(たかはしのぼる)さんという方を探しに来ただけで……」


 真裕が慌ててそう言うと、男が驚いた様子で真裕の顔を見つめた。 真裕は男と目を合わせるとさらに顔を赤くして「ひゃ♡」と一言可愛らしい声を出して目を伏せた。


 「き、君達は俺の事を探して……?」


 「えっ!? アータが高橋昇なの!?」


 希海と真裕はお互い顔を見合わせて目を丸くした。


 「ああ、俺の名は『高橋昇』。 君達が何故俺の事を……?」


 希海は真っ直ぐな瞳で問いかける高橋の顔をマジマジと見つめた。 すると、彼女は安堵した様子で「良かった……」と一言(つぶや)くと、ニッコリと笑みを浮かべて高橋にこう言った。


 「アータに用があったけど、もう用は無くなったわ」


 「……? それは、一体どういう……?」


 不可解な事を口走る希海に高橋は唖然(あぜん)とした。


 「もう、憎悪が消えている事が分かったからアータと話す必要は無いの、分かった?」


 言っている意味が全く分からない……。 高橋は(ほが)らかな笑顔を見せる希海に目を白黒させながらも「それなら良かった……」と適当に返事を返した。 そして「それより、俺は君達に助けて貰った礼がしたい」と言いながら立ち上がった。


 「恩人を招待する程立派な家では無いが、妻と子供にも君達を紹介したい。 今日は俺の家に泊まって、明日ゆっくり帰ると良い。 食事をご馳走(ちそう)しよう」


 そう言って微笑(ほほえみ)を浮かべる高橋に、希海と真裕はお互いに顔を合わせた。


 「の、希海さん、どうする……?」


 真裕は出来ればこのまま帰りたかった。 高橋に自分が大城祐二(おおしろゆうじ)の娘である事を隠したかったからだ。 だが、希海はそんな真裕の考えが分かっていたのか真裕の肩を『ポンッ』と叩くと、彼女を窘めた。


 「大丈夫、この人にはもう憎悪の影は無い。 だから、貴方は勇気を出してお父さんの罪を告白しなきゃならない。

 そうしなきゃ、貴方の心に消える事ないトゲが残っちゃう」


 希海はそう言うと、真裕に向って祈りを(ささ)げた。 高橋は祈りを捧げている希海の様子を見つめると、彼女の姿に天使の面影(おもかげ)を見た。


 『神は罪を知り(たま)はざりし者を我らの代わりに罪となし給えり。


 これ我らが彼に()りて神の()となるを得んためなり』


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