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復讐は自分でやりなさい  作者: ティーケー
呪いの陥穽

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列車の中にて

  

 『――希海(のぞみ)、くれぐれも一つの手段に固執(こしつ)していてはダメよ。 自分が決めた目的を見失わないようにね――』


 希海はホテルのベッドの上で、伊奈(いな)が言った言葉を思い出していた。 隣のベッドには大城真琴(おおしろまこと)と彼女の娘『真裕(まひろ)』が一緒に眠っている。

 希海は頭を横にして安らかな寝息を立てている二人を見つめていた。


 (結局、私は大城祐二を救うことは出来なかった。 けど、伊奈様の言った通り、私の目的はソコじゃない。


 ――真琴さんを憎悪から護る事――


 そして、初めて出来た私の友達を護る事)


 希海と大城母娘は警察の事情聴取の後、刑事『星野』の取り計らいによって熱りが冷めるまで都内のホテルに滞在するように勧められた。

 その間、希海は真裕と仲良くなった。 真裕は中学二年生で希海より一つ上であったが、希海を(した)っていた。

 希海はそんな真裕の穏やかな性格が気に入り、二人はすぐに友達となった。

 

 希海は真琴を憎悪から護る事を目的としていた。 だが、もはや真琴だけではない。 友達である真裕も自分の手で護ろうと心に決めたのである。


 (伊奈様が調べてくれた大城祐二を恨んでいたという二人の人物……。 明日にでもソイツ等が今どうなっているか見に行かなくちゃ)


 伊奈は可愛い希海の為、事前に大城祐二に憎しみを抱いていた二人の人物の消息を調査した。

 一人は『高橋昇(たかはしのぼる)』という男で『SHO(ショー)』という名で男性アイドルとして活躍していた。 ところが、祐二の()まわしい呪術によってアイドルとしての地位を追われ、現在は期間工として(さび)れた町のアパートで暮らしていた。

 もう一人は『田畑絵里(たばたえり)』という元女優であった。 彼女はかつて大城祐二の恋人であった。 祐二に(そそのか)されて夫と離婚して祐二と結婚しようとしたが、祐二が“略奪婚”などと騒がれた事に恐れをなして結婚を反故にした。 絵里は夫を失い、仕事も失って失意のどん底に叩き落とされた挙げ句、祐二が自分だけで無く複数の女性と不倫していたことが発覚した事で精神を病んでしまい、女優を引退した。

 それ以降、彼女は行方不明になっていたが、伊奈の調査によって現在世間を騒がしている()()()()()田舎(いなか)村の一軒家で暮らしていることが判明した。


 『希海、もしこの二人が大城母娘(おやこ)の憎しみによって鬼に変貌(へんぼう)しつつあるようなら、二人を殺しなさい。

 大城母娘の為にも、この世界の為にも……』


 希海は伊奈にそう指示されていた。


 真琴と真裕はもはや祐二を鬼に変貌させた二人を恨んではいないはずだ。 だが、祐二が鬼となった直後に放たれた真裕の憎悪の炎は、確実に二人の身体を(むしば)んでいるはずである。

 一瞬でも憎悪を返されれば、憎悪によって復讐(ふくしゅう)を遂げようとした者は鬼となる。 希海は真裕に憎悪を抱かせてしまった事に責任を感じていた。


 「もし、高橋昇と田畑絵里が鬼になっていたら、私が殺さなくちゃ」


 希海はそう決心すると、穏やかな寝顔を見せている真琴と真裕から視線を外し、そっと目を閉じた。



 ――



 「じゃあ、お母さん、行ってくるね!」


 灰色と白のチェックシャツを着て、デニムパンツを履いている真裕。 革製のリュックを背負っている姿は遠足にでも行くような様子である。


 真裕は希海と一緒に父を恨んでいたという人物を探しに行こうとしていた。


 「父が鬼に変貌した理由を知りたい」


 初め、母は娘の希望に反対した。 もし、相手が祐二のような怪物になってしまっていたら、娘の身に危険が及ぶと心配した。


 「大丈夫、私が真裕を護ってみせるわ」


 そんな真琴を説得したのは希海であった。 一見、華奢(きゃしゃ)な少女のように見える希海であるが、目にもとまらぬ速さで動き回り、榊原と同じく金属製の扉をいとも簡単に(ひしゃ)げさせてしまう怪力を持っている。

 

 『希海さんだったら、娘を護ってくれるはずだ』


 そう考えた真琴は後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも、娘の願いに応えてあげた。


 「真裕、くれぐれも気を付けてね」


 真琴は娘の姿を心配そうに見つめている。


 「お母さん、大丈夫よ。 希海さんがいるから何にも心配いらないわ」


 真裕はそう言うと、穏やかな目を希海に向けた。 希海は細木から買ってもらった大きめの青いスタジャンを羽織(はお)り、タイトなTシャツにベージュのショートパンツを履いている。 頭には黒いキャップを(かぶ)り、キャップの後ろからウマの尻尾のように金色の髪を出していた。


 「オバさん、そんなに心配しなくても大丈夫よ! 鬼が出れば、すぐに榊原(さかきばら)さんも来てくれるようになってるんだから!」

 

 榊原が見守ってくれているという希海の言葉に少し安心した真琴。 だが、やはり娘の事はどうしても心配なようで、希海に「どうか娘を宜しくお願いします」と丁寧にお辞儀をした。


 「うん! じゃあ真裕、そろそろ行きましょう!」


 希海は元気そうな声で部屋のドアを開ける。 真裕は母に向ってはにかんだ笑みを浮かべた。


 「駅に着いたら、連絡するね」


 真裕はそう言うと、母の返事を待たずにそそくさと部屋を後にした。


 彼女は母にウソをついた事に少し後ろめたさを感じていた。 母の目を見ると、自分のウソが母にバレてしまうかも知れないと思い、なるべく早く母の(そば)から離れたかった。


 実は、父が鬼になった理由は希海からすでに聞いていたのだ。 真裕は別の目的で父を恨んでいた人物に会おうとしていたのである。

 


 ――



 二人はまず『高橋昇』が住んでいるという東北の港町へ向う為、新幹線に乗った。

 本来であれば新幹線なんか乗らずとも、希海が真裕を背負って走ればあっという間に港町へ到着するはずである。 しかし、中学生が友達を背負って凄まじい速さで走っている姿など、誰が見ても異様な光景だろう。 二人はそんな目立つ行動は避けてあえて新幹線を使ったのであった。


 この選択は二人にとっても良い選択であったようだ。


 希海は新幹線の中で、真裕の学校生活や交友関係、趣味や好きな食べ物などを聞く事が出来た。

 真裕は希海の凄惨(せいさん)な過去を知り、車内の中で涙した。 だが、辛い過去を乗り越えて今こうして明るい笑顔を見せている希海に勇気付けられ、彼女もまた父を亡くした悲しみを乗り越えることが出来た。


 二人は車内で仲睦(なかむつ)まじく談笑していた。 すると、真裕が希海に思いも寄らない質問を投げかけた。


 「ところで希海さんは、その……好きな男の子とかいるの?」


 真裕の突然の質問に希海は目を丸くすると、学校で自分に言い寄ってくる男子達の(ほお)けた顔を思い浮かべた。


 「ハァ? 居ないわよ、そんなヤツ!」


 希海がしかめっ(つら)をしてそう言い放つと、真裕は「でも、希海さん男子からモテるんじゃないの?」と(ひか)えめな笑顔を向けた。


 「うーん、モテるっていうのがどういう事か分からないけど、二年、三年の男子共には『付き合ってくれ』とは良く言われるわ。 しゃあしいし、断っているけど。

 同級生の男の子なんてね、“LEEN(リーン)”の友達登録をしてくれってしつこいの。 一度登録してあげたら『デートしよう』だの迷惑メール入れて来るから速攻で解除してあげたわ。

 それがモテるっていう事なら、私は別にモテなくても全然構わない」


 希海はその容姿から学校の男子生徒に人気があるようだ。 だが、男子達の好意を希海は全く意に返していないようだ。 つっけんどんに話す彼女の様子に真裕は思わず笑ってしまった。


 「ふふっ、希海さんはやっぱりモテるんですね♪ 私なんか全然……。 好きな人がいるけど、その人には勇気が無くてなかなか声が掛けられなくて……」


 真裕は好きな男の子がいるらしい。 同級生なのか先輩なのか分からないが、彼女がもともと呪術に興味を持ったのは、その好きな男の子を振り向かせたい為だったようだ。


 「だから私……毎日”おまじない”していたの。 あの人が私の事を好きになってくれるようにって」


 真裕が恥ずかしそうに希海に告げると、希海は神妙(しんみょう)な顔をして真裕の手を握った。

 

 「真裕、そんな“不正な手段”で相手を振り向かせようなんて事したらダメよ!」


 希海は真裕の行いを断罪(だんざい)すると、彼女にこう言い聞かせた。


 「祈りは想い。 想いが祈りとなり、言葉を(つむ)ぐの。

 

 真裕がその人を好きだという想い、その想いがあれば祈りを捧げなくてもきっとその人に届くはず。 どんな言葉であってもアータの想いをぶつければ、その人も分かってくれるはずよ」


 真剣な眼差(まなざ)しを向ける希海に真裕は呆気(あっけ)に取られた。 希海は真裕の様子に構わずに握っている真裕の手に少しだけ力を込め、言葉を続けた。


 「飾られた言葉なんて考える必要はない。 本当は祈りなんて捧げる必要もないの。


 だって、想いこそが祈りなんだから。


 だから、貴方の想いを真っ直ぐその人に伝えるの。 大丈夫、想いは祈りとなって貴方の言葉に力をもたらす。 きっとその人に貴方の想いが伝わるわ」


 銀色に(きら)めく希海の瞳。 真裕に言い聞かせるよう語る彼女の言葉は、真裕の心に真っ直ぐ響いてきた。


 「有り難う、希海さん。 私、勇気を出して今度その人に告白してみるね」


 「そうよ、頑張って! 私が応援してるわ!」


 希海は真裕の返事に目を輝かせた。


 二人はそれから話し疲れたのか眠ってしまった。 目的地まではあと一時間ばかり……。 希海と真裕は互いに寄り添いながら気持ちよさそうに眠っている。


 新幹線の車内は平日であるせいか閑散(かんさん)としていた。 数人の会社員が希海達より前の座席で眠っているだけで、二人の座席の後方には誰も座っていなかった。

 ところが、いつの間にか通路を挟んで斜め向かいの後部座席から二人の様子を見つめる人影が現れた。 人影は通路側の座席で気持ちよさそうに寝ている希海の横顔をジッと見つめていた……。

 その瞳は灰色がかった暗い瞳であった。 しかし、彼女を見る眼差しに敵意はない。 むしろ、彼女に対して愛情さえ感じるような優しげな眼差しであった。


 希海はそんな怪しげな人影に見つめられている事など露知(つゆしら)らず、うっすらとヨダレを垂らしながら、初めて出来た友達との旅を満喫(まんきつ)していたのであった。


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