おまけ~登場人物解説&史実との対照~
注意!!! 本編のネタバレを含みます。本編読了後にお読みいただくことをお勧めします。
●パトリシア=プラム 聖暦1218年生
本作の女主人公。プラム朝ベルトラム王国国王・サミュエル=プラムの次女として生まれたが、7歳の時に父に代わって女王に立てられ、8歳で結婚させられ、夫に王位と国を譲らされ、父と一族の者たちを殺され、母を奪われ、19歳で離縁される。ザ・ドアマットヒロン。
治癒魔法の才能があり、離婚後は神殿で傷病者の治療と貧民救済に尽力する。
そんな中、かつての幼馴染・タリアン=レロイと再会。愛を育むが、義理の父でもある宰相シュラウドの目を憚って、一歩踏み出すことが出来ずにいた。
しかし、第一次アンゴルモア戦役(聖暦1247~1248)で手柄を立てたタリアンに公開プロポーズされ、ソランという息子とケイトという娘をもうけ、満ち足りた後半生を送ることとなる。
史実よりももうちょっと長生き。
≪史実では≫
李仏金(李昭皇) 1218~1278
李朝大越第八代皇帝恵宗こと李旵の次女として生まれたが、7歳の時に父に代わって女帝に立てられ、8歳で結婚させられ、夫に帝位と国を譲らされ、父と一族の者たちを殺され、母を奪われ、19歳で離縁される。元祖ドアマットヒロイン。
離婚後、どのような生活を送っていたのかははっきりしないが、少なくとも他の男性と再婚した形跡はなく、おそらく仏門に入っていたのではないかと思われる。
しかし、モンゴル帝国の第一次侵攻(1257~1258)に際して手柄を立てた黎秦に下賜され、琮という男児と珪という女児を産む。その後半生は満ち足りたものだった……と思いたい。
●タリアン=レロイ 聖暦1217年生
本作の男主人公。プラム朝に先立つレロイ朝の王室の血を引くレロイ伯爵家世子。後に爵位を継承しレロイ伯となる。
女王だった頃のパトリシアの「御学友」の一人で、パトリシアの初恋の男性。知勇共に優れ、人となりは温厚で誠実。でもやる時はやる。
亡き妻の忘れ形見である一人息子クリスをパトリシアに救ってもらったことから、幼い頃の恋心を再燃させるも、シュラウドの干渉を恐れる彼女に対し、あと一歩踏み出すことが出来ない。ヘタレと言うなかれ。
アンゴルモアの第一次侵攻の際、ビェルゲンからの撤退戦において殿軍を務め、その任を全う。自らも無事生還して、反撃のきっかけを作る。
戦後の論功行賞で勲功第一等とされ、褒美としてパトリシアとの結婚を願い出る。
アンゴルモアとの和平交渉などの難題も無事こなし、晴れて夫婦となる。
≪史実では≫
黎秦 生没年不詳
李朝に先立つ黎朝の帝室の血を引く。生年は不明だが、おそらく李仏金とは同世代かと思われる。
モンゴル軍の第一次侵攻の際、平厲源からの撤退戦において殿軍を務め、その任を全う。自らも無事生還して、反撃のきっかけを作る。
戦後の論功行賞で勲功第一等とされ、褒美として御使 大夫の官職と、「黎輔陳」の名を賜り、同時に仏金も賜って妻とする。幼馴染だったかどうかは知らん。
戦後のモンゴルとの和平交渉に際しても、使者の一人となった。
●シュラウド=チャリオン 聖暦1194年生
本作における主人公たちの敵役。カイン王の父の従弟。プラム朝の外戚の立場から、幼いパトリシアを女王に擁立し、従兄の子に王位を譲らせて王朝を簒奪した。
その際、前国王サミュエルを死に追いやり、その妻であり自身の従妹でもあるレティシアを我が物とする。
性格は冷酷非情だが、政治家としての能力は極めて優秀で、政敵たちを蹴落として権力を独占するも、最後はクーデターを起こされ獄中で自害する。ざまぁ。
≪史実では≫
陳守度 1194~1264
陳朝大越の事実上の建国者。李朝の外戚の立場から、恵宗を退位させて幼い仏金(李昭皇)を女帝に擁立し、又従兄の子である陳煚に帝位を譲らせて王朝を簒奪した。
その際、恵宗を死に追いやり、その妻であり自身の又従妹でもある霊慈国母を我が物とする。
政治家としては非常に優秀。実子に関しては記録が見当たらない。70歳まで生きて、どうやら天寿を全うしたらしい。まったく、現実ってやつは。
●カイン=チャリオン 聖暦1218年生
叔父のシュラウドに擁立され、チャリオン朝初代国王となる。パトリシアを妃としていたが、シュラウドに命じられるままに、彼女と離縁しその姉であるシフォンと再婚。パトリシアとの間には子は出来なかったが、シフォンとの間にはホアン王子をはじめとする子供たちをもうけた。
決して無能ではないが、シュラウドの完全な操り人形。我が子ホアンにクーデターを起こされ、強制的に退位させられる。ざまぁ。
≪史実では≫
陳太宗 1218~1277
諱は煚。父の又従弟の陳守度に擁立され、陳朝大越初代皇帝となる。
本作における最大の被害者(笑)。実際には初代皇帝として国の礎を築き、モンゴルの侵攻に際しても陣頭指揮を執った偉人なのだが。
とは言うものの――。陳守度に明確に逆らったことが確認できるのは、反乱を起こした兄の陳柳を助命した時くらいで、それも意地の悪い見方をすれば、兄を殺すまでの覚悟が出来ていなかったとも言えるわけで。まあ、うん。
史実では息子の聖宗こと陳晃への譲位は平和的なものであったようだ。
●エイミー 聖暦1221年生
神殿に入り神官となったパトリシアに付けられた神官見習いの少女で、実はシュラウドのスパイ。
下級貴族が側室に生ませた娘で、実家のしがらみでパトリシアを監視する役目を負わされ、最初はパトリシアのことを聖人ぶった世間知らずのお嬢様と見做して内心で嫌っていたが、次第に感化される。
ファンドールが担ぎ込まれた時に治療の手伝いを拒んだのは、シュラウドを憚ったというよりも、すでに手遅れだと診断した上で、パトリシアがこれ以上シュラウドの不興を買わぬよう気を回したため。しかし、パトリシアの必死の治療でどうやら救えそうだと見ると、憎まれ口を叩きながらも手伝うことにした。
フェイスには初対面時の悪印象から最初は嫌われていたが、次に会った際に謝罪したらあっさり許され、あまつさえ惚れられてしまって困惑するも、まんざらではなかった様子。
還俗してフェイスの妻となり、内助の功を発揮する。
≪史実では≫
架空の人物。太宗に離縁された後の仏金にも当然お付きの者はいたはずで、それが陳守度の息がかかった監視役でもあった、というのは十分あり得る話だと思うが、さすがにそれを裏付けるような史料は残されていない。
●ファンドール=チャリオン 聖暦1228年生
カインの兄であるリューエルと、パトリシアの姉であるシフォンとの間の子。幼い頃はやんちゃ坊主だったが、成人後は知勇兼備の名将となり、対アンゴルモア戦でもめざましい活躍を見せる。
ただし、やんちゃな面も健在で、幼馴染で恋仲だったシータ王女に対し、婚約者がいるにもかかわらず夜這いを掛けて既成事実を作ってしまう。
そのせいでシュラウドに謀殺されかけるが、パトリシアの懸命の治療のおかげで一命を取り留めた。
ホアン王子によるクーデターの首謀者。新王ホアンの下で政治軍事の実権を一手に握るも、私欲に溺れることなく、歴代国王の信頼と国民の尊敬を集めたまま終わりを全うする。
第二次、第三次のアンゴルモア侵攻に際しては、総大将に任じられ、苦しみながらも敵を撃退し国を守り抜いた。
≪史実では≫
陳国峻 1228~1300
陳興道の名で知られる。太宗の兄・陳柳の子だが、母親は善道国母という女性。
王室の女性(史書には「太宗の妹」とあるが、娘との説が有力)・天城公主を、婚約者がいるにもかかわらず寝取ってしまう。きっと前々から愛し合っていたんだよ。知らんけど。
第二次、第三次のモンゴル(元)侵攻に際しては、総大将に任じられ、苦しみながらもゲリラ戦術を駆使して敵を撃退。第三次侵攻の際は、白藤江の戦いにおいて元の水軍を殲滅するという華々しい勝利も収めている。
ベトナム史上屈指の英雄の一人である。
●シータ=チャリオン(作中では言及のみで登場は無し) 聖暦1233年生
カインが側室に生ませた娘。ちなみに、その頃はまだパトリシアとは「本当の夫婦」になっていなかった。中々のクズや……、こほん。
従兄のファンドールのことを前々から慕っていたが、シュラウドの意向で王族内の有力者ジンド公の息子・フェイスとの婚約が決められてしまう。しかし、ファンドールが夜這いを掛けてきたのを受け入れ、無事結ばれる。
その後一悶着ありつつも、正式に結婚が認められ、幸せな生涯を送ることとなった。
空から降ってきたり、物体を宙に浮かせる青い石を持っていたりはしない。
≪史実では≫
天城公主 1235~1288
史書では太宗の妹と記されているが、娘との説が有力。でないと陳国峻と叔母甥婚になってしまうからね。
帝室内の有力者である仁道王の子・忠誠王と婚約していたが、夜這いを掛けてきた国峻と結ばれ、生涯寄り添うこととなる。
●シフォン=プラム=チャリオン 聖暦1212年生
パトリシアの姉。カインの兄・リューエルの妻だったが、夫の子を身籠っているにもかかわらず、離縁させられカインと結婚させられて、リューエルが反乱を起こすきっかけとなる。
リューエルとの間にファンドールら、カインとの間にホアン王子らの子供たちをもうける。
おとなしい性格で、運命に流されて生きてきたが、母がシュラウドにぶたれた際には一世一代の気概を見せた。
史実よりは少し早生まれかつだいぶ長生き。
≪史実では≫
順天公主 1216~1248
諱は氏莹。陳柳の妻だったが、夫の子を身籠っているにもかかわらず、離縁させられ太宗と結婚させられて、陳柳が反乱を起こすきっかけとなる。
なお、陳国峻の生母ではない。
太宗との間に、のちに陳朝第二代皇帝となる陳晃らの子をもうけるも、30過ぎで若くして死去。
●レティシア=チャリオン 聖暦1195年生
パトリシアたちの母でサミュエルの妃だったが、夫を殺され、従兄でもあるシュラウドの妻とされる。
アンゴルモア侵攻の際、王都ハーノイを放棄するにあたって、王族や貴族の子女のみならず、王都の市民たちの避難も誘導し、食糧や財宝の類まで運び出させて、アンゴルモアの手に落ちないように図った。地味に作中MVP。
≪史実では≫
霊慈国母 ?~1259
仏金の母。恵宗の妃だったが、夫を殺され、又従兄でもある陳守度の妻とされる。
モンゴル侵攻の際、首都昇竜(現在のハノイ)を放棄するにあたり、帝室や貴族の子女たちを避難させるとともに、食糧や財宝、武器類を運び出させ、モンゴルの手に落ちないよう図った。大越勝利の功労者。
●フェイス=チャリオン 聖暦1228年生
王族内の有力者ジンド公の次男。
カイン王の庶子であるシータ姫に初めて会った時に一目ぼれする。チョロい。
彼女との婚約話が持ち上がって歓喜するも、シータ姫にはすでに好きな男がおり、彼にかっさらわれてしまう。そのためファンドールを恨んでいたが、第一次アンゴルモア戦役の際に危ないところを助けられ、恨みは捨てる。あまつさえ、信奉者になってしまう。チョロい。
エイミーに対し、初対面時にはファンドールの治療を拒んだため印象は最悪だったが、次に会った時に謝罪され、あっさり許す。そして何度か会ううちに、すっかり惚れこんでしまう。チョロすぎる。
タリアンの公開プロポーズ時に真っ先に拍手したのは、純粋に二人のことを尊敬していたからで、全く他意はなかった。
無理を押し通し、エイミーを正妻として迎え入れる。
結婚後は、しっかり者の姉さん女房の内助の功もあって、大過なく過ごす。
第二次アンゴルモア戦役に際しては、同時期にアンゴルモアの侵略を受けた隣国チャパム王国に特使として赴き、長年確執のあった同国との同盟締結という大功を立てる。
ちなみに父親のジンド公は、政治スタンスとしてはシュラウド寄りであり、したたかな政治家でもあるのだが、人が良すぎる次男坊に対しては少々甘い。
≪史実では≫
忠誠王 生没年不詳
帝室内の有力者である仁道王の子で天城公主の婚約者だったが、陳興道に婚約者をかっさらわれる。その後の消息は不明。和解してともにモンゴルと戦った……のだといいのだが。
まさか、七百数十年後に異国のWeb小説で玩具にされることになるなどとは、夢にも思わなかっただろう。
●ハーヴォン 聖暦1201年生
ベルトラムの将軍。下級貴族の出身だが、近隣諸国との紛争において軍功を重ね、将軍にまで成り上がる。リューエルが起こした反乱を鎮圧した立役者でもある。
勇猛で有能な武人だが、生き残るためには手段を選ばない一面もあり、政界で生き残るためには、たとえ腰巾着と謗られようとも、シュラウドにすり寄ることも厭わない。
しかし、パトリシアと関わり合ううちに次第に感化されていく。
ちなみに、パトリシアの様子を探りに行ったのは、自身の判断である(シュラウド的には、すでに彼女の側に間者は送り込んでおり、わざわざ将軍に行かせる理由は無い)。
第一次アンゴルモア戦役において、政治的立場は違えど優秀な武人として将来を期待していたファンドールを、シュラウドが私怨から使い捨ての駒にしようとしたことが、彼から心が離れる決定的な要因となる。(ただし、作戦上誰かを犠牲にせざるを得ないという認識もあったので、異は唱えなかった。)
タリアンの公開プロポーズに賛意を示したことがシュラウドの不興を買い、中央から遠ざけられる。
しかしそのことが、ファンドールたちがクーデターを企て、成功させた原因の一つとなった。
シュラウド亡き後はホアン王に呼び戻される。
第二次アンゴルモア戦役に先立って他界したが、彼が鍛えた将兵はベルトラムの勝利に貢献した。
≪史実では≫
架空の人物。名前は対モンゴル追撃戦で武功を挙げた何俸という人物から採ったが、これは大越軍全体の指揮官などではなく、一介の土豪がたまたま近くを敗走して来たモンゴル軍をぶっ叩いた、といったところらしい。
以上です。もっと詳しくお知りになりたい方は、拙作『越南元寇録』&『女王様はロマンの塊』第四話「李昭皇」をよろ~^^