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『彩生世界』の聖女じゃないほう  作者: 月親
第一章 完全勝利目指します
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05.セネリアの魔法

「相変わらずお見通しだね、アヤコ。それじゃあ、そっちの話題に移ろうか」

 どうやら彩子の記憶は合っていたらしい。ルーセンの言葉に、美生たちは彼の方を一斉に見た。

(さて、ここからは公式の会話に入りそうだし、傍観に徹しますか)

 彩子は近くの赤ワインらしきボトルを手に取り、自分のグラスになみなみと注いだ。

 直後、考えなしに注いでしまい予想外の味だったらどうしようと一瞬後悔したが、幸い知ってる赤ワインと同じ味だったようだ。うん、美味しい。

「それにしても見事な再生だったよね。セネリアに断たれた世界が、すっかり元通りになってた」

「――そう言えば、ルーセンさんは初めて会った時から世界について「セネリアに断たれた」と言っていましたよね」

 言ってナツメが、手にしていた半分ほど赤ワインが注がれたグラスをテーブルに置く。

「俺たちの認識は「セネリアに滅ぼされた」だった。だから俺は、例え境界線が消えても、そこに在るのは荒野と化した土地だと思っていました」

「あー、あれね。世界を豹変させる魔法っていう先入観で気付けてないだろうけど、この魔法自体は実はナツメも使える奴だよ」

「え?」

「「鍵」の魔法」

「対象間に物理的作用が働くのを防ぐ空間を発生させる魔法――そういうことですか!」

「どういうことだ?」

 一人納得していたナツメに、カサハが尋ねる。

「セネリアは物理ではなく、精神の交流に鍵を掛けたということです。「在る」と認識出来なければ、俺たちは見ることが出来ない。だから、無の空間にしか見えなくなっていたんです」

「イスミナ側からは逆に俺たちが消えたということか?」

「――いえ、精神――マナは、ルシスから生じてルシスへ還ります。還ること――死ぬことが出来ない存在は同時に生きていることも出来ない。ルシスから切り離された向こう側は、おそらく今まで時間が止まっていたはずです」

「大正解。で、今言ったけど「鍵」の魔法は割と使える人がいるわけ。そこでセネリアは自身のマナから生み出したぎょくを媒体に使うことにしたみたいだね。個人の精神になんて普通は干渉出来ないから」

「それで玉が見える私が喚ばれたんですね。でも、どうして私は見えるんでしょうか」

 持っていたポトフ(仮)の器をテーブルに戻した美生が、ルーセンに質問する。

「容姿が似ている人間がいるように、精神も波長が似ている人間がいるんだ。他の境界線もミウが玉に触れれば、イスミナの街と同じように元の世界と再び繋がるはずだよ」

「境界線は幾つあるんですか?」

「場所がわかっているのは二つ。転送ポータルですぐに行けるセンシルカの街が次の目的地として適当かな。ただ、セネリアが魔法を発動させた場所まではわからないけどね」

「セネリアが魔法を発動させた場所なら、俺が知っている」

「まさかの目撃者。そっか、カサハはセンシルカの街出身だっけ」

「あの、センシルカの街は転送ポータルですぐに行けるってことは、もう一カ所は遠い場所にあるんですよね? その場合、自衛団の団長のカサハさんは暫く離れても大丈夫なんですか?」

 美生がカサハを見る。

 神殿での戦闘で、美生はカサハの強さを目の当たりにしていた。彼女とルーセン二人がかりで与えるダメージよりカサハの一撃の方が重い。一緒に行動するのは心強いが、彼が抜けることになる邸と復活したイスミナの街が彼女は心配になったのだろう。

「言い忘れていたが、魔獣は境界線からやって来る。だからここは比較的安全になった。残党くらいなら部下たちが対処するだろう」

「そうなんですね」

 カサハの返答に、美生はほっとした顔になった。

「あ、すっかり次の境界線の話になってるけど、先に何日かイスミナの街の周辺を調査をするから」

 今の間にワインをグラス一杯飲み干していたルーセンが、挙手して発言する。

「ってことで、僕たちはこれから自衛団の調査に合流するけど、ミウとアヤコはどうする? 玉は無いけど、ミウには後々のことを考えてルシスを知って欲しいと思ってる。アヤコについてはアヤコにしかわからないことがありそうだから聞いてみた」

「私もルシスについて知りたいです。連れて行って下さい」

 美生が即答する。

 彩子はカサハを見た。

(あ、この時点で一応大まかなルシス再生計画の流れは聞いてたんだ)

 反対する気配のないカサハに、彩子はそう判断した。美生にルシスを知って欲しい理由について彼が知らなかったなら、彼は神殿で彩子にしたように今度はルーセンを問い質しただろうから。

「気合い満点の返事ありがとう。でも安心して。自衛団の報告だとイスミナの街への転送ポータルも復活して使えるようになったらしいから、今日のところは気軽に行って戻って来られるよ。カサハが森の方、僕とナツメが街の方の班と合流するけど、ミウはどっちと同行する?」

 彩子は今度は美生に目を向けた。

 美生が少し考える様子を見せて、それから隣のカサハを見上げる。

「カサハさん、一緒に行っていいですか?」

「構わない」

「アヤコはどうする?」

「私はやることがあるから邸で待機してるわ。あ、でも転送ポータルは使ってみたい」

「わかった。じゃあ、そこまでは一緒に行こうか。あ、勿論ゆっくり食べて貰っていいからね」

 ルーセンが彩子への返事とは別に、もぐもぐと口の動きを速めた美生に向けて言葉を付け加える。

 美生の一生懸命咀嚼する姿が小動物のようだと思って見ていた彩子の他にも、可愛い面白い等それぞれ所感に違いはあるだろうが、皆が一様にして彼女に視線を向けていた。

 そのことに気付いた美生が、きょろきょろと全員の顔を見回す。

 そして、ポンッと音でも出そうなほど一気に赤くなった彼女は、小さく「はい……」と頷いた。


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