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『彩生世界』の聖女じゃないほう  作者: 月親
第一章 完全勝利目指します
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04.二つの異世界

「私と美生への反応、意外と薄いわね」

 邸の食堂へやって来た彩子は、既に丸テーブルの席に着いていたルーセンの左隣に座った。

 用意が出来ていると言ったナツメの言葉通り、テーブルの上には料理とワインボトル、それから人数分の取り皿が置かれていた。

 水差しもちゃんとあって良かった。ルシスに未成年の飲酒を禁止する法律は無さそうだが、美生は飲まないし飲めないだろう。

「僕がルシスを再生するためにここに来たのは知られてるけど、まさかその手段が異世界人を喚ぶものだなんて誰も思ってないからね。アヤコたちのことは普通に、僕が王都から呼び寄せた助っ人だと思ってるんじゃないかな」

「なるほどね」

「ルーセンさんは王都から来られたんですか?」

 美生が彩子の左隣に座りながら、ルーセンに尋ねる。

「そう。僕は先月ここに来たんだ」

「そうなんですね。てっきりずっとここに住んでいる方だと思ってました」

「俺も時々、ルーセンは俺より長く居るような錯覚を起こすな」

 美生の感想に、彼女の隣に座ったカサハが苦笑した。

 カサハの隣にナツメが座り、テーブルの席が埋まる。

「カサハさんは五年ほどになりますね。センシルカの街で暴れていたのを俺が連れて帰ったんですよ」

「ナツメ、妙な言い方をするな」

「妙? 両手両足合わせて十カ所以上骨折してるのに魔獣と遣り合っていた貴方に、俺はこれ以上適切な表現なんて思い浮かびませんけどね」

「一掃した後で治療した方が効率的だと判断した」

「それなら貴方以外の兵士なりを餌にして、万全の貴方が一掃した後で餌にした人間を治療させた方が、余程効率が良かったと思いますよ」

「はいはい、物騒な発言はそこまで。僕はもう慣れたけど、ミウがびっくりしてるから」

 ルーセンが言葉を挟み、ナツメが「すみません」と美生に謝る。

「というか、アヤコも全然動じてないね」

「ナツメだしね」

「ここでその一言が出てくるとか、そりゃ動じないわけだ」

「もう食べていい?」

「そのクールさ尊敬レベルだね、どうぞ!」

「ありがとう、いただきます」

 許可を得て早速食事を始めた彩子に合わせ、男三人も食べ始める。彩子は手にした木製フォークで、魚料理っぽいものを一口食べてみた。

「うん、美味しい。サーモンのムニエルに近いかな。美生も食べてみて」

「あ、はい。それじゃあ、いただきます」

 美生が彩子に倣って食べるのを見て、彩子は今度は野菜と何かの肉が煮込まれたスープへと手を伸ばした。

 彩子とて得体の知れない料理に抵抗はあったものの、それ以上に美生が不安げな表情をしていたなら、ここは年長者が先陣を切る場面だろう。

「これはポトフが近いかな」

「そうなんですね」

「アヤコの例えが通じるんだ?」

「美生の世界は、私の世界を模して描かれたものだからね」

 ルーセンの問いに、彩子は今度はサラダをフォークでつつきながら答えた。

「あー、そう言えばアヤコから見てミウや僕らは物語の登場人物なんだっけ」

「そう。「美生が異世界に召喚された物語」を、私は私の世界で見ていたの」

「では「ミウさんが異世界に召喚された物語を見ているアヤコさんが出てくる物語」を見ている人もいそうですね」

「余計にややこしい話にしなくていいから、ナツメ!」

「美生の話が聞きたいわ。物語だと、食堂で美生が自分の話を色々したって一文が書かれていただけだったから」

 ナツメとルーセンは放っておいて、彩子は美生に話を振った。

「私の話ですか? えっと、そうですね……私は一人っ子で、両親と一緒に暮らしていました。両親はとても仲が良くて、とても優しくて大好きです。家族でよく動物園や水族館に行っていました」

「それって街の施設か何か?」

 聞き慣れない単語に、ルーセンが興味を見せる。

「はい。動物園と言うのは――」

 美生は彼に、動物園と水族館について説明した。彼女は小動物が好きなのだろう、小動物について話す時には特に詳しくなっていた。

「へぇ~」

 美生の話に相槌を打つルーセン同様、カサハとナツメも熱心に彼女の話に耳を傾けていた。

「獰猛な動物を多数囲うとは、有事の際にも対応出来るほどの部隊が王都以外にもいるのか」

「生態系の異なる魚を一所で飼うわけですか。設備もさることながら、管理する人間の知識も素晴らしいですね」

 とてもレジャー施設の紹介に対するものとは思えない感想が二人から飛び出し、美生が曖昧に笑う。

「安定した平和な世界だったんだね。ってことは、アヤコのいた世界も似たような感じ?」

 やはり少々ずれた感想をルーセンが述べて、彼は彩子に話を振ってきた。

「世界観的にはほぼ同じね。ただ、私は美生と違って一人暮らしだったから、家族と和気あいあいって日常では無かったけど」

「そうなんだ。でも動物園と水族館ってのは、一人で行っても楽しそうだよね」

「そうね、私も昔は近くまで行ったらフラッと一人で寄ったりもしたけど、ただ最近は殆ど家から出ない生活をしてたわ。仕事の入りも不規則だし、夜中に連絡が来ることもあるし、納期変更も多いからずっと家にいた方が対応しやすいのよね」

「家でずっと仕事をしてたってこと?」

「大体は。依頼の返事も完成品の納品も、家から出来る仕事だしね。最近は買い物もほとんど宅配で受け取る生活だから、外に出るのはたまに打ち合わせに行くときくらいだったかも」

 そう言えばこんな長い夢を見ていて時間は大丈夫だろうか。目覚ましが鳴ればちゃんと起きれるタイプだと、自負しているけれど。

 現実世界に思いを馳せていると、何故かこちらを可哀想な人を見るような目で見ているルーセンと目が合った。

「……アヤコ、元の世界で軟禁されてたの?」

「アヤコの世界も大概大変だったんだな……」

 気付けばカサハにも同情の眼差しを向けられていた。

「いや、そういうわけじゃないからね?」

「いっそルシスに永住しては如何ですか?」

「ナツメ、貴方はからかってるだけなのわかるから。――ほら、私のことはいいからそろそろ本題に入りましょう。ルーセン、境界線の話をするんじゃないの?」

 確か美生は初日の食堂でこれからの予定を聞かされたはずだ。彩子はそう思って話を締め括り、ルーセンに目を向けた。


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