国を歌う
王家の影であるライオネル公爵家は慣例として挙式を執り行わない。つまり申請書の記入より前に王陛下からの承認が下ったことで、アルハとライオットは婚姻を結ぶプロセスを踏むことなくするっと夫婦に…なっている、らしい。
脱兎の勢いで踵を返していったルルスにより届けられた婚姻証書の複写をもってそう説明しながら無感情に未完成の申請書と重ねて焼却処分し、興の醒めきった表情を向けられて困惑するアルハを眺めてふっとため息とも言えない一呼吸。寄ってぽすんと肩口に預けられたライオットの頭をアルハは慌てて支えた。
ギルスナッドが振り回す『義兄の特権』らしい過多なスキンシップに影響されてか、ライオットも時折探るように素面のまま身を預けてくる。その時折のたびに香りが、体温が、息遣いが、アルハの内心の鐘楼を掻き鳴らして血の巡りが忙しなくなるというのに。
恐る恐る髪から耳を越えた手でライオットの背を撫でれば、返答のように両手がアルハの後ろ髪を撫でて腰裏に落ち着いた。
「…おつかれさまです。」
イフスエルの頂点たる王陛下、王妃陛下、第一王子殿下の御三方は血縁もあってかライオットに良くも悪くも軽い対応をとる。学院卒業を経て成人を迎えたとはいえなんだかんだまだ青二才であろうライオットにとってその甘さは厄介であるのかもしれない。
遠慮のように空いた隙間の一部からしょうもない労わりの言葉しか差し出せなくて冷える心を、ライオットの呼吸が揺らした。
「君は、私のものだ。」
その声が滲ませたのは、うんざりとした怒りではなく渇望が癒えた温もりに思えて。
再確認であり通告のように示された言の葉が、どうしようもなく「愛している」に聞こえたから。
「はい。愛しています、ライオット様。」
いままでのように「私はあなたのものです」と答えた、つもりのアルハをライオットは確かめるように抱き寄せる。半ば覆いかぶさられて仰け反るアルハを捕えるようにじりじりと強く。応じて身を預ければ、まだ布で隔てられたままの二人の間に血が通った気がした。
互いの存在に浸ってしばらく、ガチャリと静寂を割る扉の音。ひそめた静止の声を振り切って絨毯の毛が伏す音が寄って、そのままの二人をさらにぎゅっと抱擁したのはギルスナッドだった。その様を宇宙に放り出された心地で扉際から眺めるコンラード。その横から仲良しっすね、とフォルクス。アルザ系列のナイトマン子爵令嬢マゼンダとその付き人の女性まで遠慮がちに顔を覗かせる。
彼らが通されたということはカゲの護衛方々が通してよしの判断をしたということで、ライオットがそれを許しているということで。意に介した様子のないライオットの腕の中、ギルスナッドほか複数人の気配への戸惑いと羞恥心にだんだんとアルハの顔が茹る。そこへパカンと唐突なクラッカーの音が鳴った。
「ご成婚おめでとうございます。」
淡く喜色の浮かぶ老成した声はセバストのもの。どこからともなく現れた婚姻証書の複写がマゼンダの手に差し込まれ、扉脇の傍観者連中の視線が王陛下の裁可に集まる。おおー!と素直に感嘆したフォルクスを皮切りにわいわいと蚊帳の外が湧く。
「へぇ、ようやくライオットが俺の義弟?」
「やめろ」
嬉しげにからかうギルスナッドの言葉を斬り捨てながらも抵抗はしない。ついに兄弟だ、俺たち家族だなと極まる腕で目元を擦ってから軽くタップして、そうだなと柔く同意する。そんな仲良し男子な二人をみてアルハは眉尻を下げて笑んだ。
「ライオットくーん!!」
そこへ闖入者がえっほえっほと駆け込んできた。うだつのあがらなさそうな細身の男性はラスター公爵の側近の一人。
「ラディスが!ラディスがまた消えちゃった!!探してぇー!」
ラディスとは、メイディアナ陛下がライオネル公爵ラスターに産腹との生殖行為を強いて産ませた男児の名。実両親に養育放棄されているラディスは主にメイディアナ陛下のもとで養育されているが、ラスターの側近たちもが弄ぶように世話を焼いている。ライオネル家傘下の中でも特に隠匿能力の高い側近方が各々気まぐれ好き勝手に連れ出すのでメイディアナ麾下をもってしても所在の把握が難しく、かつ這いまわりはじめた赤子のラディスがうまいこと行方をくらませてしまうのだと。継いで生まれ持った隠匿の異能が側近方を凌ぐ異常に加え、胎に置いてきた聴力のせいで名呼びでの隠匿解除が効かないらしい。
勝手を働いては不手際を晒す側近たちも、そんな彼らを仕置いたあとのメイディアナ陛下も、慧眼を持つライオットへ捜索という尻拭いを頼みに来る始末。
「だってよ。行ってこい!」
「ラ、ライオット様、あの、お気をつけて。」
ギルスナッドにべしんと背を叩かれて、アルハにさえ暗に見送りの言葉をおくられて、逡巡短くライオットは衆目に晒していた抱擁をほどいた。無言で腹違いの弟の捜索を引き受ける感情はいたって平たい。すたすたと歩きだしたかと思えば扉際の面々とすれ違うこともなく姿は消えた。駆け込んできた側近もセバストもすでに。
「消え…すっげぇ。やっぱライオネルぱねぇっスわ…」
アルハ以外のライオネル人員が去ったことで扉際にいた三人が遠慮がちに寄ってきて、フォルクスが感心のまま続けた。
「てかライオット様ってすでに一児の父感でてません?」
「ライに父親感? 冗談だろ。」
「そうかしら。この成婚などラディス様の養育がためにも思えますし。」
「オルガイア殿下に仕えるライオットを見慣れているとはいえ、兄や父といった印象は中々結びつかないな。ラディスの世話と婚姻は関係ないと思うよ。」
そうなのか、と問う視線を浴びたアルハはわたわたと言葉を紡ぐ。
「どんな理由があろうとなかろうと、子を成すにあたる両親の責任や権利を掠め取る行為は正当化されてほしくなくて、ですね。だから、私は、母親には成り得なくて、ライオット様には良き兄として…兄? 確かに、オルガイア殿下に対しても兄っぽさは無いですね…?」
だよなぁ、と迷走を見かねて同意を挟んだコンラードへアルハは誤魔化し混じりに苦笑う。対して養母や継母を批判するようなアルハの口ぶりに眉を歪めた面々へギルスナッドが釘をさした。
「王様だってそのへん潔癖だろーが。つか義弟にわざわざ親面する必要ねぇし。」
「そう、王陛下もラディスの件では王妃陛下に苦言を呈したそうだしね。それに、書国では産腹から買った赤子をさも自分で産んだかのように半裸で抱いて自己陶酔に浸る男もいたんだってさ。嫌悪に至る事例があるんだよ。」
二人に庇われてアルハはようやく己の失言に気が付き血の気が下りる。
「お、男が?産めるわけねー野朗が生母のフリ?なにそれキッショ…」
「なんておぞましい…出産の労に唾を吐くような真似、非人道が過ぎますわ…!」
「だろう? 非嫡出子を商いで生産し取引すること、その親を買ってでることを忌んだとして、彼女は庇護を要する存在を蔑んだりはしない。ね、アルハ。」
「は、はい!それはもちろん!そのとおりで...っ!」
弁明の隙なく共感で埋められてしまい、詰めの呼びかけに五体投地の心地でアルハは是の意を表明した。やっぱり小公爵夫人の立場は無理めいていますと内心滂沱の涙を流すも、すでに手遅れというか賽は投げられたわけなので今後もノルウェットとメイディアナ陛下による実地訓練にて精進の道を這いずり回るしかないのだろう。挫けたい。
「慣れておくといい。ライオット曰く、オルガイア殿下の妃は貞淑を重んじるイエロライズ国から迎えられる。」
「へぇ、イエロライズ国って、身分問わずの一夫一妻主義じゃなかったでしたっけ。」
「ええ。つまり、第一王子殿下はお一人しかお召しになられないおつもりかしら。世継ぎが心配になりますわね。」
上流階級の井戸端会議を眺めながらアルハは胸を押さえた。イフスエルは家門のために、人手の足しに、産腹という存在が認められた文化にあること。そして、王陛下が漉した釣り書きの束から見知らぬ都合の良い伴侶を選定するオルガイアの姿が浮かぶ。
迎える妃には平等に心を配りたい、なら一人であれば調整の必要はない。一妻が当然の国であれば一妻による重責を説く手間も要らず、聖教圏内であり政教の均衡が聖教会に傾いていることも好都合。側妃を娶らせたい国内貴族達の世継ぎ懸念は直系王統のまま公爵に座すウィルオストの存在で緩和させられるのだと。条件を繋げた線が重なって浮かび上がる絵を勘案するような、人格を置き去りにした縁結び。
慣れていかなければならないのは誰なのか。自問してアルハは答えを握りしめる。価値観の類似があるからと妃候補の姫君を補佐するよう王陛下直々に内示されていた。改めて公爵夫人という地位が、婚姻の事実が、重くアルハの肩を叩くような。それでも幸いにして周囲には恵まれているのだから、ライオットというパーフェクトボンボンボーイの伴侶を畏れ多くも許された以上は精一杯にがんばるしかない。
「あ、ライオット様おかえりなさいっす。」
「ラディス様は無事に見つかりましたかしら。」
「ああ。」
「じゃあ、早速だけど_」
戻ってきたライオットに来訪の本題を話しだしたコンラードの声がくぐもる。背後からアルハの耳を覆った両手の主はそのまま鼻歌交じりに筋肉質な腹で丸まりがちな背中を押しやり、離れたカウチに押し込めた。隣に深く腰かけて義妹を独占できたぞとご満悦な義兄に、釣られていいのかとライオットに目を配れば了承の一瞥。
「任せときゃいーの。アルハはもっと義兄様や夫くんを頼れるようにはならねえとな!」
「あいや、私は助けてもらってばかりで…」
「助けてもらっとけ。いくらでも助けてやるから。」
頼もしく言い切って甘えるように凭れ掛かってくる。
アルハに書庫の物語をねだっていたギルスナッドは聞き耳での限界と新作や続編を求めるあまり漫画産業を興した。実務を麾下に丸投げした貴族の道楽にアルハを巻き込んで兄妹事業と謳い紛争処理以降も頻繁に顔を合わせるための口実にしている。打ち合わせと称した歓談は前世の学生時代のように気軽で楽しく、アルハの柔いところを緩ませてくれる。
がんばらなければ。そう、ほぐれた口元の裏でアルハは改めて己に言い聞かせた。過ぎた力みを窘めるように頭を撫でくるギルスナッドの手のひらの温かさに抗いながら。
ライオットとアルハの成婚から四か月。
麗らかな午後、王城の奥庭のガセポには手を付けられた茶器と甘味が並ぶ。にっこにこのオルガイアが連れ立って参じたライオットとアルハを元気に手招いた。傍らのメイディアナが抱える不自然な空白はラディスだろうか。隠匿が癖になっているらしくアルハには姿が見えない。
「引きこもりの愚弟に爵位を預けておく理由はないもの。ライオネル公爵、これからもオルガイアを頼むわね。」
すまし顔のライオットではあるが、その眼差しはおおいに白けている。
ライオットの様子とメイディアナ陛下の言葉とを咀嚼したアルハは、成婚の次は襲爵をしてやられたのだと察した。連動して公爵夫人になっただろう己の身の丈に視界の焦点が遠く霞んでいく。
「嗣子はそのうちラディスに作らせればいいわ。ラディス自身はオルガイアのカゲに仕上げるつもりだから。」
「…ええ。」
「式典準備は滞りなく?」
「ええ。」
素気無い返事に頬を膨らませるメイディアナ陛下だが、自ら空気を抜いて微笑む。これから行われるオルガイアのための祝典が喜ばしいのだろう。浮足立つように席を立ち、オルガイアも続く。
内外に披露される立太子の礼と婚約相手。オルガイアは初対面の二つ年下の女の子をまもなく華々しく迎える。前入りしているのでアルハは既に面識を持ったが、可愛らしさも心持ちもしっかりしたお姫様だった。そのままの感想をオルガイアには伝えてある。
「アルハ、ライオネル夫人として未来の王太子妃をも支えなさいね。」
「は、はい! がんばります!」
「そうね、礼儀作法を教わればいいわね。」
「その通りで…。」
「ふふ、たのしみだなぁ♪」
前世、で予々不思議に思っていた。なぜ彼らはそれを受け入れて子を成して次代に同じレールを敷けるのか。他人との生活、他人との子作り、そのはじまりに愛がないなんて。
私は好いた。愛しいと思ってしまった。でもそれを唯一の正解とは思わない。大流を重んじることがすなわち支流の否定にならないように、伸びた枝葉の傍らに枝の末端や切り口があることに気づけば、ありのままの世界を受け入れられる。
信頼で足りたのかもしれない。情が芽吹いたのかもしれない。悲しみや憎悪さえちりばめられて、いろんな形の結果が命を継いでいる。
できるだけ自然な形を求む理想は変わらないけれど、とりあえず誰もが幸せであれば。
連れ立って入った飾り立てられた王城のエントランスで別れ、二大公の夫人として単身でノルウェットと合流する。
「ようやく同じ土俵ね、ライオネル公爵夫人?」
「いやはやそのようで。あの、頼りにさせていただきますローズ公爵夫人。」
「…ったくもう、仕方ないわね。よく見てついてきなさいよ。」
ノルウェットの動きと式典の進行に従いながらいくらか遠い王太子の姿を探す。いまだ可愛らしくも威厳さえ纏うオルガイアを感慨深く眺めていると、今まで納めた言葉が胸を巡った。
「どんな仕組みも、決まりも、やがて侵食されます。どれだけ環境の完璧を目指そうが、結局は人の采配が全てだからです。つつましやかな幸せは柔く儚く、遭遇する災禍に容易く折られます。平和を愛する傑物は争いを忌み、横暴な利己主義者は牙を研ぎあっては往々にして幅を利かせます。」
アルハの警告に、そうだね、と穏やかに応じたオルガイアが続けた。
「だからこそ良き人格を育むこと。人を正しく強く育てること。足るを知り、羨みしも妬まず満ちる者を称え、乏しい者に気を配る。罪に靡かず否を突きつける強い心を皆が持つこと。みんなが国を愛すること。自らを誇れる心が律する心に繋がるように。手足が自立していれば頭が惑っても踏みとどまれる、頭が冴えていれば手足を正しく導けると信じて。」
穏やかで寛容、善良でありながら屈強。無辜を助け、禍を挫く。故国の積み重ねた称賛や理想をよりわけて捏ね合わせたような、そんな国が。
そんな、なんてことない善良に満ちた世界がライオットの瞳を温める日がくることを二人で望んだ。
歓声が上がってアルハは我に返る。
バルコニーに現れたイフスエルの未来を担ぐ微笑ましいふたりへ年若い二大公が傅いた。儀仗隊が旗槍を掲げ、参列している大臣達や貴族の面々が来賓方へ見せつけるように膝を折る。着飾った子女婦人方も貴きふたりに捧げるかのように華やかなドレスの裾を拡げ床に花を描いた。アルハとノルウェットも然り。思い切り身を伸ばして思うままに沸いているのは城外を囲む大衆だけだろう。
不意に、世界の音が止んだ。
訝しんで持ち上げた視線をオルガイアがゆっくりと捉え、神々しく微笑む。事前の取り決めなどなく、以心伝心の心得もない、全く意図がわからない。ただなんとなく「やれ」という空気を吸い込んだアルハは敬意をもって起立して胸に手を添えた。
なにかに促されるままゆっくりと諳んじてみせる。
戴きたる君よ、愛しの君よ
千代に継がれきた世を八千代へ継ぎゆきましょう
細石たるわれらを大きく和え、巌へあらしめしませ
やがて苔生して、岩肌を削る風雨さえ親しめる永久をともに
緊張で震えながらも階を一段一段確かめるように上っていく音階に、見かねた真っすぐに通る澄み声が並んでくれる。抽象的な詩は如何様にも解釈されるけれど、根っこは祝言にて親しまれていたもの。荘厳な伴奏の欠けた穏やかな言祝ぎを周囲は不思議なほど静かに聞き入れていた。
苔の三歩を登りきった音の高みからゆらりひらりと木の葉のように舞い降り終えて、アルハとノルウェットは視線を交わす。小さく弧を描いたふたつの口元をオルガイアの拍手が温かく讃えてくれた。忠誠を示し終えた面々が立ち上がりオルガイアに倣っていく。邪気を払うともされる音が浄化の異能を増幅させたかのように波及し、重なった響きは歓声に押し上げられて一層盛大に沸き立った。
その様が、視界いっぱいが、輝いて見えた。青と見紛う紫金の盛装を纏ったオルガイアがバルコニーから飛び降りて金色の野を歩いても違和感がなかったかもしれない。神の祝福とはたぶんきっとこんな光景に違いない。私が讃えたのは貴女ではない、と小さな反抗心も抱えながら。
式典を仕上げる聖教会の鐘の音が喧噪を包みこんでようやく、夢心地から覚めた。
「コクイキ主義者め」
ノルウェットの小さな悪態を苦笑いで受け止める。国粋だよだなんて訂正は今世では無粋だろうか。言語互換の加減がわからない。それにしても、最近の子(?)もちゃんと歌えはするのかと感心しながらアルハは安堵の息を吐いた。
「この世界を私達が変えてしまったのね。」
「たった二人で世界は変わらないですよ。」
ノルウェットのぼやきに軽口を叩けばお前が言うかと顔面で強く訴えられた。けれど、アルハとしては真面目に自分達がこの世界を変えたとは思わない。自分たちはあくまできっかけで、選んだのはこの世界なのだと思っている。人か、神か、天使かはさておき。
「書庫で前世チートするんでしょ。」
「無理です無理無理。」
書庫から取り出す可能性の種を、この世界の人々が選び取ってこの世界のしあわせを実らせるものに育てあげていく。歴史という縦糸に人々という横糸が差し込まれては営みが織られていく。アルハが紛れ込ませた糸屑のような前世の一端が、今世の営みの一部となって紡がれて織り込まれていく。継がれていく。この国へ、この異なる世界へ。
「アルハ」
余所者の内緒話を遮るように名前が割って入る。此度のやらかしにもはや呆れもしないライオットがアルハを迎えに来た。続いてウィルオストがノルウェットの手をとって唇に寄せている。
「あの歌は。」
「こ、国歌です、書国の。まずかったですかね?」
「構わない。よくやった。」
「ならよかったです。ありがとうございます。」
「…君たちはずっとそんな感じなのかい。」
「ウィル、馬に蹴られるわよ。」
ライオネル公爵夫妻のやりとりにウィルオストが思わず零したが、ノルウェットが制した。その言葉でローズ夫妻は軽快なキャッチボールをはじめながら王城奥の晩餐会へ向かっていく。仲睦まじいローズ夫妻から視線を切ったアルハの目前にはエスコートを示す麗しい手のひらが。
「道すがら今一度聞かせてくれないか。」
「よ、喜んで…」
重ねた指先からじわりと上がる体温にほんのりと酔いながら、要望に応じるべくフッと羞恥心を吐き出して思い描く。愛した我が主と、やさしい我が君と義兄とその友と。縁付いた人達に同郷の朋も加えて、前世と今世を撚り合わせながらこの場所に生きていく自分を。
一歩寄ってぶつかる腕と腕。視線を持ち上げて小さな二つの水面を覗いた。
心の内を捲るように口遊みながら。
※文中の国歌がアルハ的意訳ですが、アルハとノルウェットは正規の歌詞で歌っています。※
完結となります。ふんわり設定やあいまいな時間軸等拙い部分が多々あるなか、長い間完走までお付き合いくださりありがとうございました。
送っていただいた感想、誤字のご指摘、とても嬉しかったです。励みでした。ありがとうございました。




