EYEから降る雨
ー現在ー
「うっわ~なにあの子暗ッ!!」「髪で片目隠れててなんか怪しくない??」
そんなことを入学式早々に囁かれているのは…凪だった。
凪は、もともとあまり騒ぐたちではなく静かに過ごしている子だった。
こげ茶がかった髪がまっすぐに胸まで伸びていて、前髪がないためどうしても目に髪がかかってしまう。
そこから見える顔は整っているが、髪のせいで怪しくしか見えない。
中学を卒業して、極々普通の進学校・五十嵐高校に進学した凪はひとつ不満なことがあった。
その原因は。
「うっわ、あのひとすごいイケメンじゃない?!」「背高いし、制服かっこよく着こなしてるよね~!」
凪への囁きとはまったく違う色をしている、ピンク色の囁き。ようはチヤホヤの囁き。
「うわ、やっぱり一緒の高校に入学してしまった…。」そうつぶやき、凪の見た先。
それこそ不満の原因の、樹だった。
もともと昔から顔立ちが良かった樹は、成績優秀で運動神経抜群。そして誰にでも優しく振舞っているため、中学でもそうとうモテていた。もちろん凪は樹の裏の顔を知っているし、樹も絶交後凪には一切話しかけずにいる。だからずっと「優しいなんてはったりだ。」と凪は思っていた。
合格発表の日。偶然見つけてしまった茶髪のふわふわ髪に、まさかとは思った。
なんで。あの裏切りものが…。何度も考え直したが答えは見つからぬまま今ここにいる。
樹はもっとよい高校から、推薦が来ていた。と聞いた。しかし、それをやめての五十嵐高校なのだ。
あの日から、凪は樹を理解できずにいた。
「よく一緒の高校にこれるわよね。」
思い切って話しかけた言葉は、妙に嫌味を帯びていた。樹もびっくりした顔をしていた。
3年ぶりの、2人の会話。お互いの目を見るのも、3年ぶりだった。
「凪。」いつもの笑顔に打って変わって、何かにおびえるような樹の顔は絶交直後と同じ顔をしていた。 「あんなふうに集を追い詰めて。わかってるの?自分のせいで集が私たちの前から消えていってしまったってゆうのに…!!」あの時を思うと、凪の目には未だに涙が浮かぶ。今だって、そうだ。
樹を責めながら、大粒の涙が零れ落ちていく。そんな凪を見ながら、樹は凪の横を通り抜けようとして、
「お前はまだ、集のためにしか泣かないんだな。」そう呟いていった。
その現場を見て泣く男子新入生がもう一人。その男子の眼鏡は春の日に照らされて、きれいに光っていた。