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「アウレリウス殿下。貴方の過去三年間における個人的な浪費、ならびに無計画な式典開催による損失額の合計は、二千四百万ディーナです。
フラヴィア嬢。貴方が王宮に入り込んでからの半年間で『おねだり』と称して購入させたドレス、宝飾品、高級スイーツなどの総額は、八百万ディーナです。
カシウス卿。粗悪な装飾用鋼鉄を不正価格で購入し、軍事予算を差配したことによる損害額およびキックバックの合計は、五百万ディーナです」
「な、なんですって!?」
フラヴィアがキンキン声で叫んだ。
「八百万ディーナ!? そんなの知らないわよ! 私はアウレリウス様におねだりしただけで、お金を払ったのはアウレリウス様なんだから、私には関係ないじゃない! 私はお買い物を楽しんだだけの被害者よ!」
「お前……! フラヴィア、今なんと言った!?」
アウレリウスが信じられないといった様子でフラヴィアを凝視した。
「お前はあの時、『アウレリウス様のおかげで世界で一番幸せです、一生ついていきます』と言っていたではないか!」
「そんなの、貴方がお金持ちの王太子様だったから言ったくに決まってるじゃない! お金のないただの金髪無職男に用なんてないわよ! 触らないで、貧乏がうつるわ!」
「なっ……! 貴様、この泥棒猫め! 私を騙していたのか!?」
「騙される方がバカなのよ! このおたんこなす!」
「これ! 控えぬか二人とも! 御前であるぞ!」
カシウスが間に入ろうとするが、フラヴィアは「アンタも役立たずのくせに威張らないでよ! 折れるような安物剣ぶら下げて恥ずかしくないの!?」と一蹴され、カシウスはグサリと胸を突かれたように沈黙した。
……哀れなものだ。お金と欲望で繋がっていただけの関係など、予算が底をついた瞬間に破綻する。これだから感情に流される人間は計算が予測できなくて困る。
「喧嘩はそこまでにしてください、時間の無駄です」
私は冷淡にパンパンと手を叩いた。
「どうやって返済するかですが。当然、現在の王家および貴方様方の個人財産はすべて差し押さえられておりますので、現金の持ち合わせはありませんね。したがって――労働による返済(労働相殺)を行っていただきます」
「ろ、労働だと……!? 私は王族だぞ! 汗を流して働くなど……!」
「黙りなさい債務者001。労働を拒否する場合、帝国の法的基準に基づき、不法占拠および大規模詐欺罪として強制労働施設(鉱山)へ送られます。あちらは生存率が年に四十パーセントほどですが、どちらになさいますか?」
アウレリウスの口がぐうの音も出ないほど塞がった。
「では、配属を発表します。
まず、フラヴィア嬢」
「い、いやよ! 私は可愛い女の子なのよ!? 泥仕事なんて絶対に嫌!」
「貴方には、王宮内にある全百二十箇所のトイレの素手による清掃、ならびに厨房から出される生ゴミおよび汚水の処理業務を命じます。労働時間は一日十四時間。時給は十ディーナです。八百万ディーナの完済まで、約九十一年ほど不眠不休で働いていただきます」
「きゅ、九十一年……!? 嫌あああああ! 私の輝くお肌が! 私のネイルが汚れちゃうーっ!」
フラヴィアは髪を振り乱して泣き叫んだが、容赦なく帝国兵につまみ上げられた。
「次に、カシウス卿」
「くっ……殺せ! 騎士の誇りを奪うくらいなら、私を殺せ!」
「死んでも債務は消えません。身内に取り立てが行くだけです。カシウス卿には、先ほど壊れたあのガタの来たギロチンをはじめとする、王宮内のすべての鉄くずを手作業で研磨し、再利用可能な建築用釘に叩き直す作業を命じます。一日あたり千本の釘作成がノルマです。期限内に達成できない場合、食事のランクが下がります」
「騎士の……この私が……釘打ち職人に……!?」
カシウスはガックリと膝をつき、己の手を見つめて絶望に打ちひしがれた。
「そして最後に、アウレリウス殿下」
「ヒッ……! 私は……私は何をさせられるんだ……!?」
アウレリウスがガタガタと震えながら私を見上げる。私はにっこりと、本日一番の営業スマイルを向けてあげた。
「殿下には、王宮の広大な庭園をすべて素手で開墾し、国民のための大規模なジャガイモ畑にしていただきます。土を耕し、肥料を撒き、害虫を手で一匹ずつ駆除してください。収穫されたジャガイモ一キログラムにつき、百ディーナを返済金として充当いたします」
「ジャ……ジャガイモ!? 私が、あの不格好で泥くさい根菜を育てろと言うのか!? 私の繊細な指先が荒れてしまうではないか!」
「ご安心ください。二千四百万ディーナ分のジャガイモといえば、およそ二百四十トンです。順調にいけば、今から二千四百年後には完済できる見込みとなっております。どうぞ長生きしてくださいね」
「に、二千四百年……!? 無理だ! 絶対に無理だあああ!」
アウレリウスは泡を吹いてその場に倒れ込んだが、帝国兵たちは容赦なく彼の両脚を掴み、引きずり出していった。
「ルキッラ! 助けてくれルキッラ! 私はお前を愛していたんだ! 頼むからやり直そう!」と惨めな叫び声が廊下に遠ざかっていく。
愛していた、ねえ。
台帳の数字すら正しく読めない男の「愛」など、1ディーナの価値もないわ。
静まり返った『太陽の間』で、私は大きく息を吐き出した。
「ふう……胸がすっといたしました。長年の無駄遣いに対するストレスが、一気に解消された気分です」
「くくっ……まったく、君という女性はどこまでも徹底しているな」
低く心地よい笑い声が聞こえ、振り返るとルシウス大公が歩み寄ってきていた。
彼は私の肩にそっと手を置くと、労うように優しく微笑んだ。
「素晴らしい手腕だったよ、ルキッラ。私情を挟まず、かつ最も効果的に奴らの自尊心を打ち砕き、労働力として再利用する。完璧なCFOの仕事だ」
「恐縮です、大公閣下。ですが、これはまだ準備運動に過ぎません。これからが本当の地獄……いえ、再建作業の始まりです。アルビオン王国の地方領主どもの裏金、貴族たちの脱税、そして不正な特権意識の全撤廃に取り掛かります」
私が意気込むと、ルシウスは少しだけ困ったような、だが愛おしそうな表情を浮かべて、私の頬にそっと触れた。
「ああ、期待している。……だが、少しは自分の身体も自愛してくれ。君が根を詰めすぎて倒れでもしたら、私という『最大株主』が大損をすることになる」
「あ……」
頬に触れる彼の指先が熱い。
いつもは冷酷無比な「帝国の死神」と恐れられている大公が、私にだけ見せるこの甘い眼差し。
計算高く生きつづけてきた私の脳内コンピュータが、この時ばかりは処理オーバーでフリーズしそうになる。
「さあ、ルキッラ。今夜はまず、君の着任を祝して最高の夕食を用意させよう。……仕事の話は抜きで、な?」
「……善処いたします、閣下。ただし、夕食の予算が適正範囲内であるかどうかのチェックだけはさせてくださいね」
「ハハハ! 本当に君には勝てないな!」
こうして、愚か者たちへの容赦ない「復讐」を完了させた私は、最高に優秀で少し意地悪な新しいパートナーとともに、破産国家の完璧なる再建へと歩み始めたのだった。




