24 賭けの再確認
「さて、勝負の前に、賭けの内容はあれのままでよろしいんですの?」
ルイスが紅茶のカップを置き、こちらを真っ直ぐに見つめてきた。
「ああ、それでいい」
俺は迷わずに答えた。
勝って、絶対にルイスを手に入れる。これほどのセンスを持つ人材、俺の開発チームにぜひとも加えたいからな。
「……ちょっと。賭けってなによ?」
隣で話を聞いていたフラムが、怪訝そうな顔で口を挟んできた。そういえば、こいつには詳しいことを何も説明していなかったな。
「いや、今回の決闘、もし俺が負けたらルイスの奴隷になるんだよ」
「はあああああ!?」
フラムが椅子から跳ね上がりそうな勢いで大声を出す。
……うるせえよ。耳元で叫ばれる身にもなってくれ、鼓膜が痛いだろ。
「ちょ、ちょっと! 人聞きの悪い言い方はやめてくださいまし。あくまで、わたくしの商会で働いていただくだけですわよ」
ルイスが慌てて訂正を入れる。まあ、呼び方はどうでもいい。
「逆に俺が勝ったら、俺のゲーム作りに協力してもらう。俺の開発チームに入れ。……それでいいな?」
「ええ、いいですわ。お引き受けしましょう」
ルイスは不敵に、そして優雅に微笑んだ。
「ちょっと、あたしの知らないところで勝手に決めないでよ!」
フラムが詰め寄るように声を荒らげる。まあ、確かに必要以上に心配をかけたかもしれないな。
だが、これは俺が受けて立った勝負だ。今さら引き下がるわけにはいかない。
「絶対勝ってよ。カイトがシャルロット商会で働くなんて、あたしは絶対に嫌だからね」
フラムが真剣な、それでいてどこか不安そうな瞳で俺を睨む。
「ああ、もちろんだ。任せておけ」
俺が力強く宣言すると、それを見ていたルイスがくすくすと上品に笑った。
「あらあら、嫌われてしまいましたわね。シャルロット商会は給金は弾みましてよ。それに休日だって……多少はありますわよ?」
(多少かよ……)
真っ先に多少なんて言葉が出てくるあたり、ブラック企業の予感しかしない。
俺は心の中でそっとツッコミを入れ、盤面に意識を戻した。
「それではカイトさん。先手どちらを選びますか? 姫? それとも賊?」
ルイスが盤面を指し示しながら、試すような視線を向けてくる。
正直に言えば、俺はどちらでも良かった。実際に一度動かしてみないことには、このゲームの本質は見えてこないだろうからな。
だから俺は、本当に深い意味はなく、なんとなく隣のフラムに話を振ってみた。
「なあフラム。どっちがいいと思う? 俺はお前の選んだ方にするよ」
「えっ、なによそれ。私、さっきのルール説明を聞いてたけど、いまいちピンときてないわよ?」
フラムは戸惑ったように眉をひそめる。
本当に、俺としてはどちらでも構わないんだ。彼女の直感に任せても、俺の勝率に影響はない。
「本当に、どっちでもいいのよね? ……じゃあ、姫。なんとなく、姫の方が逃げやすくて有利そうだし」
「よし、決まったな。ルイス、俺は姫側から始めるぞ」
俺が即答すると、ルイスは口元を手で隠すようにして、楽しげに目を細めた。
「うふふ、分かりましたわ。それでは、一回戦はカイトさんが姫、わたくしが賊ですわね」
ルイスが手際よく駒を並べていく。
「姫側は、中央の赤いマスに姫を置き、その周囲の六マスを騎士で囲んで始まりますわ。対する賊側は、外側の隅にある六つの黒いマスと、その内側の灰色のマスに、それぞれ一駒ずつ。合計十二体を配置してスタートですわね」
ルイスは手際よく駒を並べ終えると、盤面の端に埋め込まれたパネルに指先を触れた。
「では、わたくしはこちらで罠を設定いたしますわ。少々お待ちくださいまし……」
ルイスが手慣れた手つきでパネルを操作すると、盤面がわずかに淡い光を放ったような気がした。
「……設定完了ですわ。うふふ、それでは楽しみましょう」
「ああ。お手柔らかに頼むよ」
俺がそう返すと、ルイスはいたずらっぽく微笑む。
「ちなみに、先手は賊側からとなりますわ。それとこのバンディット、お互い交互に指していくのですが『パス』はありませんの。必ずどれか一駒を動かしていただきますので、ご注意を」
「分かった。どれかを必ず動かさなきゃいけないんだな」
俺が深くうなずくと、これまで静かに控えていたルイスの隣のメイドが、スッと背筋を伸ばした。
「では、僭越ながら私が進行を務めさせていただきます」
彼女は凛とした声で、対局の始まりを告げる。
「バンディット一戦目。姫側・白番カイト様。賊側・黒番ルイス様。――対局、開始いたします!」
メイドの声が広く静かな遊戯室に響き渡った。
こうして、俺の将来の開発メンバーを懸けた、大事な第一戦の火蓋が切られた。
ちょっと体調が良くないため更新未定でお願いします。
すみません。




