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蒼海のシグルーン  作者: 田柄 満
古代都市編
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第57話 トラップ

 シューッという空気の抜ける音がして、頭の奥が締め付けられるような痛みがし始める。

「侵入者防止トラップか!」

「なるほど、空気ごと抜かれたら防毒マスクも意味がない」

「死なせずに無力化出来るって事か」

「真空までは抜かないはずだ、まだ時間がある。諦めるなよ」

「もちろんだ、もう一回トライするぞ!」


 三枚のピッキングプレートを扉にあてると、タイミングを合わせて観測する。

 しかし、扉は全く反応しなかった。

 3回やっても同じ結果で、空気だけが薄くなっていった。

 後ろではみんなが、壁に寄りかかりぐったりしている。

「このままでは全滅するぞ」

 ハンスも目の奥に感じる刺すような頭痛と吐き気を必死に抑える。つい声を荒げてしまった。

「何か他の方法はないのか!」


 後ろから、高校生ぐらいの赤毛の男の子が恐る恐る手を挙げた。

「あの、いいでしょうか?」

「君は?」

「あ、ケイビーといいます。高次物質科学研究機構でインターンをやってました」

「高科研って、ルミノイドを作った所じゃないか?」

「ええ、室長のやり方がちょっとね……」

 そう言うと、ハッキング班のスキンヘッドの男から受け取ったプレートを操作しはじめた。

「何をしている?」

 メガネの男が頭痛に頭を押さえながら、ケイビーの操作する指先を怪訝そうに見ている。

「別のルートを見ています」

「ルート?」


 ハンスの横で座っていたクインがぐったりして動かなくなった。

「おい! しっかりしろ!」

「クインが意識を失った!」

 ケイビーに向かって声を上げる。

「まだか? もう持たないぞ!」

「あった! ここだ!」

 プレートの上で指を滑らせると、集積回路より複雑なフローチャート図面が立体映像で映し出された。その一部を拡大していき、数値を書き換えた。

「これで、いけるはず」

 エンターキーを押す。――変化はない。

 空気は、まだ抜け続けている。

 ケイビーの顔に汗が滴る。

 視界の周囲が暗くなり、頭の中に霧が掛かったように意識が薄くなっていく。


「しっかりしろ! バンチが2つズレてる」

 ハッキング班のメガネの男が指摘する。

「ここか!」

 もう一度エンターキーを押すと、カチッと何かが切り替わる音がした。


 その場の全員が耳を澄ませた。人の呼吸音以外の音は聞こえてこない。


「空気の抜ける音が消えた?」


 ケイビーはその場にへたり込むと、息を切らし、激しく喘いだ。

「と、トラップのリセットタイマーを書き換えました。……気圧は戻っていくはずです」

「確かに、少しずつ楽になってきている」


 頭を振りながらクインが起き上がった。

「……なんとか時間は出来たみたいね」

「この隔壁を開けなきゃ、なにもできん」

 ハンスが手で隔壁を叩くと、重く鈍い音がする。

「とても、手で開けられるとは思えないがな」

「あまり楽観は出来ませんよ」

 ケイビーがプレートのモニターを見ながら話に入った。

「リセットタイマーの修正をしたらロックが掛かったようです。次に同じ事が起こっても止められるか分かりません」


 ハッキング班のスキンヘッド男が呟く。

「チャンスは一度か……」

「飽和作戦はダメだな」

「別の手を考えなくてはならんか……」

「しかし、こんな隔壁に量子暗号なんて厳重なモン使うか?」

「それだけ重要な物があると言うことだ」


 ひげ男の目が光った。


「やっぱり、ルミノイドか?」

「そうだな……間違いないだろう」


 スキンヘッドの男が、手のひらでバンバンと隔壁を叩いた。

「なら、なおさらコイツを開かねえとな」


 ずっと考え込んでいたケイビーが頭を上げた。

「あの、量子暗号を無理に突破するのではなくて、通り抜ける存在を模倣したらいいんじゃないでしようか? 鍵がないのなら、鍵そのものを再現すればいい」

「それが出来たら苦労はしないな」

「その鍵の手掛かりすらないぞ」

 ひげの男がうんざりしたように答えた。

「ルミノイドか?」

「……はい。ルミノイドしか、通れないなら」

 ケイビーは一瞬、言い淀んでからきっぱりと言った。

「ルミノイドになればいい」


 誰も、すぐには返事が出来なかった。

 三人の男が顔を見合わせた。

 誰ひとり、納得している顔ではない。

「にいちゃん、確かにルミノイドならフリーパスで通れるだろうよ、でも、そのパターンはどこにあるんだい?」


「ここにあります」

 ケイビーはポケットからメモリークリスタルを取りだした。リップスティックほどの大きさのケースの中で、小さなクリスタルが光を反射してキラキラと輝いていた。


「それはなんだ?」

「ルミノイドシステムの緊急起動メモリのようなものです」

「ホンモノか?」

「高科研にいたときに、こっそりバックアップを取ってきたんです」

「本物なら、お前どえらいモノを取ってきたことになるぞ」

「今は、取り締まる警察も居ませんから、心配ないでしょ?」


 ケイビーはクリスタルをピッキングプレートに翳した。


「もし違っていたらどうなる?」

「その時は、また空気が抜かれるでしょうね……」

 ひげの男が大きく唸った。

「こんな、どこから持ってきたのか分からんものに賭けるしかないか……」

「他に有効そうな手段がないからな」

「というか……あのシステムとの接続の仕方、絶対やばいだろ」


 ピッキングプレートがクリスタルメモリーとリンクした。

 プレートの上に青白い光が浮かび、やがて像を結び始めた。


「これは!」


 その場にいる全員が息を呑んだ。

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