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蒼海のシグルーン  作者: 田柄 満
古代都市編
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第53話 カーラとカーラ

 スルト・カーラの問いかけが再びカーラの頭に響く。


『お前は私と同じ存在のはずだが、違う。お前は誰?』


 同時にスルト・カーラの右足が地面を蹴ると、鋭い突きをカーラに放った。剣の切先が空気を裂いた。

 ――カーラはスルト・カーラの弾丸のような剣を左に受け流した。音速を超えた衝撃波が後から続く。


「私は私よ!」


 突きのわずかな隙を逃さず、カーラはスルト・カーラの胸を目掛け逆袈裟に斬り返す。

 剣先がスルト・カーラの胸を掠め、ハイポリマーセラミック装甲が甲高い悲鳴をあげた。

 スルト・カーラは反射的に飛び退って距離を取ると、動きを止め、剣の構えを解いた。


『……デコヒーレンスか』

「時は人を変えるのよ」


『なるほど、一万年ものノイズを浴びれば、そうなるのね……』

 スルト・カーラがわずかに目を細める。

『それはそれで、幸せかもしれないわね……』

 スルト・カーラは薄く笑った。静かな笑みだった。カーラは初めて見るスルト・カーラの感情に剣を下ろした。

「あなたこそ、どうして壊すの?」

『だって、それが正しいでしょう?』

 カーラが細眉を上げた。

「正しい……? 壊す事が? 瓦礫の下に埋めるのが、正しいですって!?」

『それが、マザーオーブの意思だから。――そう……それも忘れてしまったのね』

「意思ですって! マザーオーブの? ヌシに捕らわれているんじゃないの?」

 カーラの言葉に、スルト・カーラは弾けるように笑った。上を向き天を突くように大きな声で笑った。


『私がヌシに操られているとでも思っているの?』

 カーラは唖然とした顔でスルト・カーラを眺めるしかなかった。


『アルケーは間違っているわ。ヌシはね、マザーオーブの影なのよ』

「なんですって?」

『エネルギーを吸い取るためにマザーオーブに引き寄せられているわけじゃない。ヌシはね――マザーオーブが収穫する時に現れる存在。つまり、マザーオーブの手なのよ』

「収穫? マザーオーブが? 一体何を収穫するの?」

『人の感情や意思のエネルギー。――情報と言い換えてもいいわね』

 カーラの顔が青ざめた。

「まさか、そんな。人は畑の作物じゃないのよ!」


『宇宙がどんなに広くても、熱や放射線に満ちていても、感情や意思の情報だけは、知的生命からしか生まれない』

「マザーオーブは情報の結晶体で、膨大なエネルギーを取り出すことができるというのは……」

『情報の結晶体というのは当たっていたわね、でも、エネルギーを取り出せた理由は……そうね……卑近な言い方だけど、知的生命を近づけて、育てるための――餌よ』

「餌? 無限に近いエネルギーが? どういうこと?」

『マザーオーブならエネルギーは幾らでも生み出せるわ。でも、知的生命の感情と意思だけが、宇宙に新しい状態を生む力を持つ。だから、エネルギーを分け与えてまでして収穫するのよ』

「私たちがこの惑星に来て300年よ、ならマザーオーブはいつからあったの?」

『元々はこの惑星にいた知的生命が発見したものなの。彼らはどうなったと思う?』

 カーラの顔を伺うように見た。

『――今はマザーオーブの中に取り込まれているわ。その代わりとして、私たちは地球からこのセレスティアに呼び込まれたのよ』

 スルト・カーラは眉根を寄せ、真剣な顔をした。

『マザーオーブの新たな餌の種となるべくね』

 カーラの顔色が変わる、右手の赤い剣を引っ込めた。


「お姉さま! どうしましたの!?」

 ルリが異変を感じて空から降りてきた。カーラの横に立つとスルト・カーラの顔を見た。


『ルリ……』


 スルト・カーラが目を細めてルリを見た、慈愛のこもった視線だった。一瞬だけ見せたその表情は、人間だったころのカーラのものだった。

 ――だが、その視線はすぐに凍りつく。


『……そこを退きなさい』


「お姉……さま……?」

 ルリの声に戸惑いが混ざる。

 カーラがルリの手を握って、引き寄せた。


「じゃ、じゃあ……私はなんなの? ルミノイドはなんの為に作られたの」

『アルケーがルミノイドをマザーオーブの操作端末にしようと考えていたのはわかるわよね』

「非道いと思ったわ」

 カーラが頷く。ルリは何の話かわからず戸惑っている。


『もっと非道い話になるわよ。ルミノイドがマザーオーブとリンクするとどうなるか』

「まさか……」

『……同じになるのよ』

「アルケーは《共有》と言っていたわ」

『そう、共有。ヌシと。マザーオーブと。そして、私とね。互いの……違いなんて、どこにもないのよ』

 カーラは絶句した。ルリが凍りついたように動きを止めた。

『でもね、たったひとつだけ違うものがあるの、それは《意思》よ。マザーオーブが唯一自分で作れなかったものが私たちにはある』

 スルト・カーラはラウルス・プリーマの方を向いた。

『意思を持ちながら、従うだけの存在なんて――それはもう生きているとは言えないわ。だから、私は私の意思の力でマザーオーブを破壊するわ』

「なぜ!」

『マザーオーブがある限り、人は停滞したままになる。――だから壊すの』


 スルト・カーラが一歩踏み出した瞬間。強い光にスルト・カーラとカーラが覆われた。


「量子エンタングルメント発生機が間に合ったな」

 ラウルス・プリーマの司令室でアルケーがホッとしたように独りごちた。

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