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第30話 武力徴発

 村長さんとの話し合いが終わった帰り道、村の様子を見ながら少しだけ遠回りして帰ることにした。


 理由は村長さんの言葉に腹を立てているからだ。


 どうにも、村長さんは立場の弱い人に対して、横柄な態度を取る癖というか習慣のようなものがあるような気がする。

 村長という立場上、指示や命令することがあるから威厳は必要だと思うけど、母さんと僕やステファナとルジェナに対して『従って然るべき』と言った態度で接するのは(おご)りだと思う。


 以前の話し合いで母さんが男爵家と繋がりがあることを知ったから、そうした態度を見せないようにしているんだろうけど、言葉の端々に出てくるんだよね。


「アルテュール様は本当に5才です?」

「……もうすぐ6才」

「いや、変わらないですよ?」


 なんだかんだと、交渉の場には毎回ルジェナがいるから、そう思われるのは仕方がない。

 だけど、『言うべきか言わざるべきか』なんて悩む気はない。


「ふふん、僕だからね」

「……なんです、それ?」


 どうでも良いんだよ。自分の前世がどこの誰でどうだったとか。

 僕にとって一番大事なのは母さんだから。


「そんなことより、今日の話は理解できてる?」

「当たり前です。おのはアホの子じゃないです」


 そんな意味で聞いたんじゃないけど、理解しているなら良いか。


「畑の方はまだ時間がかかるから、鍛冶場の準備はゆっくりしていこう」

「早くはしないです?」

「ルジェナには悪いけど、最初はなるべく時間をかける。慎重にという意味じゃなくて、こちらの裁量で進めると分からせるために」


 村長さんに話してからすぐに準備を始めると、急いでいる印象を与えてしまう。ゆっくり準備をすれば、鍛冶場がついでの仕事なんだと分かりやすく示すことができる。


「アルテュール様は神経質です」

「そう?」


 まあ、自覚はある。ちょっと人間不信な部分があるから、人と話す時に『相手の裏』ばかり考えてしまう。これは子爵家にいた頃からの癖なんだよね。


「まあ、いいや。鍛冶場の準備をするときは僕も手伝うから、畑仕事が終わったら教えてね」

「アルテュール様はどうするです?」

「そりゃあ、糸の研究を始めるよ? 早くしないとせっかく採取したのに、ダメになっちゃう」


 今日の朝に確認したら、まだ液状だけど表面に膜が張ってた。

 これが空気に触れたから固まったのかそれとも別の要素があるのか、調べるのは楽しそう。


「ニヤニヤして気持ち悪いです」

「――っ、ニヤニヤなんてしてない!」


 まずい、主としての威厳が。いや、そんなのは始めからないか?


「さっさと帰るよ」

「え、遠回りしたのはアルテュール様ですよ?!」


 ルジェナのことは放っておいて、僕はさっさと走り出した。

 まあ、すぐに追いつかれたけどね。



 家に帰ったら母さんとステファナが何かを話していた。


「ただいま」

「おかえりなさい」

「何かあったの?」


 2人とも表情が暗い、何か言いづらそうにしている。


「ヘイノさんが戻って来ないらしいの」

「他の人たちは?」

「帰って来ているわ」


 猟師のヘイノさんは罠を使って獲物を捕らえる猟師でウサギやヘビなんかの小動物を捕まえている。

 普段は朝に罠を見回って昼過ぎには帰って来るけど、今日は夕方になってもまだ帰って来ないらしい。


「でも、何で母さんたちが知っているの?」


 まだ、帰って来る予定の時間から3時間ぐらいしかたってない。この程度の時間だと本腰を入れて捜索はしていないはずだ。

 それなのに、母さんたちが知っていることがおかしい。


「先ほど、自警団の方が来て、戻って来なければ明日の朝から捜索をするらしく、私にも参加するように言われました」

「はぁ!? 何それ? ファナは自警団とは関係ないでしょ?」


 自警団はアウティヘルを筆頭に専属の団員が5人と兼任の団員が5人、それで足りない時は引退した予備の団員が加えられる。

 それでも足りない時は領都に出兵要請をする。


「それで、何でファナに参加するように言ってきたの?」

「私が男爵様の奴隷だと思われているからです」

「わたしも訂正はしたのだけど、最後には『武力徴発』と言ったのよ」


 武力徴発というのは自警団が『武力が不足する』と判断した時に、村長が許可すれば村の人たちを武力として自警団に組み込むことができる。

 そして、これを断ることはできない。


「でも、武力徴発はやり過ぎじゃないかな?」


 帰りが3時間遅くなった程度で武力徴発までするのはやり過ぎな気がする。

 まずは正規の自警団で探索するべきだと思う。


「フルネンドルプのことがあったから、神経質になっているのでしょう」


 フルネンドルプは鬼種の群れによって壊滅した。それを考慮すれば異変に対して迅速な行動とも言える。


「……あれ? ルジェナは?」

「ルジェナは鍛冶師として見られているみたいで、何も言われなかったわ」


 冒険者としてのランクだったらルジェナの方が高いんだけど、ドワーフとはいえ見た目が少女だからステファナより強いとは思ってないんだろう。


「バルリマスはまだ村にいるよね? 彼らに依頼したのかな?」

「していないのよ。冒険者に捜索依頼を出すと高額になるから」


 なるほど、冒険者に依頼すれば、探索で1人あたり銀貨5枚、発見すれば発見報酬、救助すれば救助報酬と金額が上がっていく。

 だけど、武力徴発でステファナに協力させれば出費は少ないってことか。


「おのも参加するです?」

「それはダメです。ルジェナはティーネ様とアル様を守りなさい」


 2人に何かあったら僕たちの護衛がいなくなる。

 今まではステファナがいつも一緒にいたから何事もなく生活できたけど、母さんに護衛がついてない状態になったら別の意味で危ない。


「ファナは大丈夫なの?」

「ええ、大丈夫ですよ。ヘイノさんの行動範囲は聞きましたが、それほど遠くまで探索することはありませんから」


 ステファナを1人で行かせるのは心配だけど、ルジェナまで行かせるわけにはいかないし、かと言ってステファナを行かせなければ『武力徴発』に逆らったとして、罰を受けることになる。


「……ルジェナ、今から鍛冶場を開けるよ」

「はいっ?! 今からです?」

「ルジェナの銀でファナの剣を作る、用意して!」

「おお、おのの銀です。気合を入れるです」


 久しぶりに鍛冶仕事ができるのが嬉しいみたいで、ルジェナは走って倉庫に行った。


「母さん、ファナ、僕はルジェナと一緒に鍛冶場に行きます。明日の朝までには帰ります」

「アル、大丈夫なの?」

「作るのはルジェナだけど、2人でやれば大丈夫だよ」


 本当はそんな自信はない。


 ルジェナから聞いた話の内容から『できる』とは思っている。でも、試して初めて気が付くこともあるから絶対とは言えない。

 それでも作るのは、ステファナの剣が鉄製で良くも悪くも普通の剣だからだ。

 本当ならぶっつけ本番ですることじゃないんだけど、フルネンドルプでのことを考慮するなら、より良い剣を使ってほしい。


「ファナ、剣を」

「ですが」

「僕は剣も魔法も使えない、だけど物を作ることはできる。家族が戦いに行くなら、最高の装備を用意するのが、僕の役目だと思う」

「――、アル様」


 ステファナに抱きしめられるのは久しぶりだ。

 最近はルジェナと一緒にいることが多くて、ステファナといるのは朝の稽古の時ぐらいだから。


「ファナ」

「はい、お願いします」


 剣を受け取って要望を聞いた。

 ステファナの剣は片刃の短剣で剣先の方が細い作りになっている。

 重心は刃元から拳2つ分先で刺突と切断を優先してほしいと言われた。


「アルテュール様、準備できたです」

「分かった、すぐ行く」


 ルジェナに返事をしてから2人に向き直る。

 そして、『行ってきます』と言ってからルジェナと一緒に鍛冶場へ向かった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 現代日本の村社会の現状をよく知っておられる。 村社会って本当にこんな感じなんですよ。
[一言] 村長、越権行為ばかりしてる気がする。男爵の奴隷は男爵の持ち物なんだから勝手に使ったら不味いやろ。鍛冶場も男爵の許可の詳細知らないと違う利用方法だと問題がある可能性がある。腕がある程度ある鍛冶…
[一言] 村に住みながら、村の安全は勝手に安全にしてくれという考え方は日本人ぽい
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