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第29話 鍛冶場の再稼働に向けて

 僕は朝食を食べながら昨日のことを振り返る。


 蜘蛛の解体はできたけど、錬金術と物質化の多用は魔力の消費が激しくて大変だった。

 特に物質化は魔力の消費量が多くて長時間の作業には向かないことが良く分かった。


 今後のことも考えると、蜘蛛の解体で使ったような道具は作っておいた方が良い。

 種類としては手術道具のような物で、切る、掴む、挟む、止める、持ち上げるなどの道具があった方が良い。

 そうした精密な道具は僕が錬金術で作るよりも、ルジェナに任せた方が良い物を作ってくれると思う。


 そのためにも、鍛冶場を使えるようにしたいんだけど。


「母さん、鍛冶場のことをどうするか決めてる?」

「そうねぇ、……ルジェナ、持って来た燃料と鉄でどの程度の鍛冶ができるのかしら?」

「正確に答えるのは難しいです」


 ルジェナは鍛冶師の仕事を説明してくれた。


 鍛冶師の仕事の手法は2種類あって、液状に溶かした金属を鋳型枠に入れて品物を作る鋳造と、加熱して柔らかくなった金属を槌で叩いて品物を作る鍛造がある。

 どちらの製造方法にも一長一短があるらしいけど、鋳造は鉄を液状にまで溶かす必要があるから、燃料の消費量が多い。


「作る品物や金属の種類とかで違うですから、確実なことは言えないですが、おのが用意したのは、長剣を6本作れる量です」


 僕は『鍛冶場の具合を見られる量の倍』と言ったんだけど、長剣で例えられてもさっぱり分からない。


 鍛冶場の試験と村で少しだけ鍛冶仕事ができる程度の量があれば良いと思って、そう指示したんだけど、作る物と製造方法で違うとなると、村の人たちから依頼されても仕事をこなせるだけの量があるのかも分からない。


 取り合えずでも稼働させてみるしかないか。


「母さん、僕から村長さんに話しても良い?」

「アルが?」

「うん。ルジェナの主は僕なんだから、僕が話した方が良いでしょ?」


 母さんが村長さんに許可を取りに行くのを躊躇っているのは、以前の話し合いの影響が残っているんだと思う。


 村長さんが言った『寡婦』という言葉は、死別にしろ離婚にしろ『結婚した男と離れた女』という意味を持つ、この世界では女性を蔑視する言葉だ。

 つまり、村長さんはそんな目で母さんを見ていたと公言したってことだ。

 だから、母さんは村長さんに会いたくないんだと思う。


 それなら、今後は母さんの代わりに僕が村長さんの対応をする。


「これも経験、でしょ?」


 オプシディオ商会の時に交渉も経験した方が良いと母さんは言っていた。

 それに、今回はそんなに危ない話し合いにはならないはずだから、今回も経験した方が良いと思う。


「分かったわ。じゃあ、お願いね」

「うん、任せて」



 僕は午前中の畑仕事を終わらせてから、ルジェナを連れて村長さんの家に来た。


「久しぶりですね、アル君」

「お久しぶりです、フレイチェさん。今日は村長さんにお話があって来たんですけど、会えますか?」


 フレイチェさんは村長さんの奥さんでおっとりした印象の女性だ。時々お菓子をくれるから村の子どもにとても人気がある。


「ええ、書斎で書き物をしているから、呼んで来るわね」


 フレイチェさんは、僕たちを応接室に通してから村長さんを呼びに行った。


 応接室と言ったらソファーにローテーブルだけど、村長さんの家の応接室は少し大きめのテーブルに6脚の椅子があって、作りはダイニングと変わらない。


 それから少し待っていると、村長さんが応接室に入って来た。


「村長さん、こんにちは」

「ああ、こんにちは。今日はどうしたのかね?」


 本心はどうだか分からないけど、表面上は怒っている様には見えない。

 あれから時間が経って落ち着いたかな?


「今日は新しい家族の紹介と鍛冶場の使用について話しに来ました」

「‥…家族に鍛冶場」


 村長さんはその言葉を聞いて、僕の後ろに立っているルジェナに視線を向ける。


「初めましてです、ルジェナです」

「……ドワーフ、それで鍛冶場か。だが鍛冶場は男爵様の所有だぞ?」

「はい、僕もそう聞いてます。ルジェナを迎えた時に『鍛冶ができるなら村の役にも立つだろう』と母さんが男爵様と交渉して使用許可を取ってくれたんです」


 そう言ってから、僕はトゥーニスさんから渡された鍛冶場の使用許可証を村長さんに見せる。

 この許可証はガラスの情報の対価として貰ったんだけど、ガラス事業のことを村長さんに話す必要はない。


「そうか、男爵様が許可したなら、わしが拒否をしても意味はない、か」


 村長さんは『拒否をしても意味はない』と言った、本心では拒否したいということだろうか?


「鍛冶場を使うのはダメですか?」

「――っ、いや、ダメと言うことではなく、……私には決定権がないという話だ。それより、鍛冶場が稼働すれば今まで行商人に頼っていた品物を依頼されるやもしれぬぞ?」


 そう、それが一番面倒なんだよね。


 鍛冶場が閉鎖された理由は、鍛冶師が生活できるだけの仕事がないからだと母さんは言っていた。


 この村は流通経路から外れた辺境の田舎村だから、重量がある鉄や燃料を運んで来ると、余計な経費がかかってしまい品物の値段が上がってしまう。

 そんなことをするぐらいなら、出来上がった品物を持って来た方が行商人は運ぶ量が増えるし、買う方も品物の値段が安くなる。

 その結果『すぐに必要』というもの以外は行商人から購入するようになり、鍛冶師の仕事が無くなって鍛冶場が閉鎖されてしまった。


 ここまでの話だと、鍛冶師が戻っても問題はないように見えるんだけど、これは普通の鍛冶師の場合であって、今回はルジェナが奴隷だということが問題になる。


 奴隷には賃金が発生しないから、『奴隷に鍛冶をさせるなら行商人から購入するよりも安くなる』と村の人たちが思い込んでしまった場合、正規の値段を払ってくれない可能性もあるし、奴隷なら命令すれば良いと思ってしまう可能性もある。


 それらは、その奴隷の主の特権であって他の人たちには関係がない話なんだけど、助け合いを基本とする村社会では、そうした特権すらも分け合うものだと考えがちになってしまう。


 日常の助け合いは良習だけど、度を越せば悪習でしかない。


 そうならないように、先に手を打っておく必要がある。


「ルジェナは鍛冶師だけど冒険者でもあるし畑の手伝いもあるから、鍛冶ができるのは1週間に1日か2日ぐらいだと思うんです」


 実際にはどの程度の鍛冶をさせるかは決まってないから、ルジェナを鍛冶に割り当てられる日数で伝える。


「つまり、そのドワーフを『村のために使う気がない』ということかね?」


 私欲から出た言葉ではないと思うけど、『使う』という発言はいただけない。


「勘違いをしないでください。ルジェナは僕の()()です。村の役にも立つからと母さんが鍛冶場の使用許可を取ったけど、村の人たちからの依頼は『ついで』でしかありません」


 さすがに『ついで』と言うのは傲慢な発言だけど、ここで弱気を見せたらつけ込まれるかもしれない。


「それは、どう言うことだ?」

「言葉の通りです。ルジェナは商売として鍛冶をする訳ではないんです。僕たちの手伝いの一環として鍛冶をするんです。その『ついで』に村の人たちの依頼を受けるだけなんです」


 あくまでも、ルジェナの主な仕事は僕たちの手伝いだと伝える。


「だから『ついで』か、では、どんな依頼なら受けるのだね?」

「簡単に直せる程度の修理です。それもルジェナが鍛冶をする時に『ついで』に修理するだけですから、依頼されてもすぐに作業することはありませんし、お金もちゃんと払ってもらいます」


 ここで正確に伝えないと、なれ合いから悪習になってしまうかもしれない。


「それで、村の者たちが納得するか?」

「納得してもらうしかないんです。どのみち鉄と燃料は足りないんですから」


 結局のところ、流通経路から外れたこの村に鉄と燃料を運んでくるのは効率が悪いんだよね。


「それで納得ができないなら、自分で鍛冶師を連れて来て、鉄と燃料を持って来れば良いんです」

「まあ、それは無理だな」


 ひとまず村長さんは納得してくれたけど、実際にどうなるかは稼働するまで分からない。


「今は畑仕事が先だけど、それが終わったら鍛冶場を稼働させますね」

「分かった。村の者には伝えておく」

「ありがとうございます」


 これで、いつでも鍛冶場を稼働させられる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 村社会のいい所であり悪い所だよな〜
[一言] 面白かったので星置いておくわ
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