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20 ある小学校の小さな解放

20 ある小学校の小さな解放


 ある小学校の教室では、いつものようにクラスの児童全員がタロー仮面を被って授業を受けていた。先生も淡々と授業をしていた。児童も私語をすることなく、授業は淡々と進んでいった。

 ホームルームの時間に入っていた。

先生「では、学芸会の桃太郎の役はタロー12でいいですね」

全員「はい」

先生「キジの役は誰がいいですか?」

タロー9「それはタロー7がいいと思います」

全員「賛成」

先生「イヌの役は誰がいいですか?」

タロー3「それはタロー22がいいと思います」

全員「賛成」

 こうして全員の配役が順調に決まっていった。

先生「では、キジとイヌ、サルはお面を被ってくださいね」

タロー「このままではいけないのですか」

先生「このままと言うと、素顔のままということですか、それともタロー仮面のままということですか」

タロー「タロー仮面のままということです」

先生「それでは、キジやイヌ、サルには見えませんね。桃太郎はタロー仮面のままでいいですけど。それ以外の鬼も含めてそれぞれの配役の仮面をつけないと全員がタロー仮面のままだと劇にならないでしょう」

タロー「いえ、そんなことはないと思います。桃太郎には桃太郎の衣装があって、セリフだって役によって違うから混同することはないと思います」

先生「みなさんはどう思いますか」

タロー「みんなタロー仮面に慣れてきて、何も困ったことがないので、このままタロー仮面を付けて劇をした方がいいと思います」

タロー「おそらく全員が同じ仮面をつけて演じられた劇はこれまでなかったと思うので、とても新鮮だと思います」

タロー13「ぼくは仮面を脱ぎたいな」

タロー「えっ、突然なんてこと言い出すんだ。どうして脱ぎたいんだよ。13は村人Cの役でその他大勢でセリフもないからなのか」

タロー13「いや、そんなことはないよ。だって、どうせ配役を決めても後でみんなで入れ変わるじゃないか。ぼくは今日13だけど、昨日は5だったからね」

タロー「人が入れ替わることなんて先生だって知っているんだから、ここで口に出すことじゃないんじゃないか。暗黙の了解って言葉を知らないのかい。デリカシーがないな。どうしてタロー仮面を外したいんだよ」

タロー13「だって、飽きちゃったんだよ」

タロー「それは少し飽きっぽいんじゃないの。そんなの理由にならないよ。全員でタロー仮面を付けるようになって、まだ半年しかたっていないよ。ぼくたちだけじゃなく、先生や親だって慣れてきたところじゃないか。もう少し続けようよ」

タロー13「だって、毎日、タロー、タローって何回呼んでいるんだよ。もうタローの名前を呼ぶのも飽きちゃったよ」

 タロー13はいきなり仮面を取った。全員が「ああ」と声を上げた。

先生「きみ、誰だっけ」

タロー13「ケンタですよ。半年で名前忘れちゃったんだ」

タロー「ケンタだっけ? ぼくもきみの名前を忘れちゃったよ」

タロー「おれも」

タロー「わたしもよ」

タロー13「ケンタです」

タロー「一人だけ仮面を取ったら目立っちゃうんじゃないか」

タロー13「目立ってなんぼのもんでしょう」

タロー「でも、13はずっと目立たなかったんじゃないか。仮面を付ける前だって目立っていなかったよな。ケンタって奴、思い出さないもの」

タロー「そうよ。思い出さないわ。違うクラスの子じゃないの?」

タロー13「ひどいことを言うよな。ぼくはこのクラスの子だよ」

先生「たしかにケンタという名前が名簿の中にあります」

タロー13「そうでしょう。ずっと陰が薄かったけど、みんながお面を取らなければ、ぼく一人で目立っていいや。前からずっと目立ちたかったんだ」

タロー「そう言えば、思い出したぞ。きみがタロー仮面を付けようと提案したんじゃなかったっけ」

タロー13「そうだよ。ぼくがクラスで一番陰が薄かったから、みんなも同じように陰を薄くしたかったんだ。それでタロー仮面を被ることを提案したんだ。陰が薄いこともリセットされるだろう。そしてその後で、一人だけ仮面を取れば目立つだろう」

タロー「仮面を取るタイミングを見計らっていたの?」

タロー13「そう。ぼくはケンタです。もうタローなんて呼ばないでね」

タロー「一人だけ浮いたらいじめられるよ」

タロー13「いじめられても結構だよ。ぼく一人だけ違うんだから、いじめられても本望だよ」

先生「では、学芸会は13だけ素顔で出て、他の方々はタロー面を被るということでよろしいでしょうか」

タロー「ぼくも素顔で出たいな」

タロー「私も」

タロー「そうだな。そろそろ飽きた頃だしね」


全員、タロー仮面をとった。仮面の下からは、何かから解放された安堵の表情が現れた。

タロー「ああ、空気が美味しい」


                     完


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