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19 クララが帰ってきた

19 クララが帰ってきた


 クララがフルタのアパートに戻ってきた。

 「ただいま」

 「おかえりなさい」

「やっぱりこの部屋が落ち着きますね」

「ミルマーに行ってたわりには日焼けしていませんね」

 「えっ、そんなとこ行っていませんよ。ミルマーって東南アジアのミルマーでしょ。私、暑いとこ苦手なんです。日に焼けますから」

 「だって、インターネットで見たよ。にこって微笑んで、ウィンクしてVサインまでしていたじゃないの」

 「ミルマーに行っていませんって。だって、ミルマーはいま内戦状態なんでしょ。危ないじゃないですか」

 「だからビックリしたんじゃないの。クララさんが市民と一緒に戦っているんだもの。新宿アルタの下で大勢の人と一緒に見てたんだから」

 「えっ、あのアルタの大型ビジョンに私が映ったんですか?」

 「そうですよ。みんなが「クララ万歳」って叫んだんですから」

 「わたしそんなに有名人でしたっけ」

 「アダルトビデオのクィーンでみんなに知れ渡っているんですよ」

 「アダルトビデオのクィーンの知名度はそんなに凄いのですか。知りませんでした。それはともかく、わたしはミルマーに行っていませんけどね。別の方じゃないのですか?」

 「兵隊がライフル銃を水平発射する中を、カメラに向かってにこっと笑ってウインクしてVサインしたんですから。かっこよかったな」

 「わたしがそんなことしていたんですか。わたしも見たかったな」

 「本当にあれはあなたじゃないんですか」

 「私、ちょっと北海道にお仕事ついでに避暑に行っていたんです」

 「アダルトビデオの撮影にですか、それとも内閣府のお仕事ですか」

 「さあ、どっちでしょう」

 「クララさんが、ミルマー国民の顔をタローとハナコの顔に変えて軍隊から守り、兵隊たちの顔を暴き、「将軍を探せ」を仕組んだんじゃないのですか?」

 「いったいそれ何のことですか? わたし北海道の山の中にいて、テレビもインターネットも見ていなかったから、この一ヶ月は世情に疎いんですよ」

 「一連のディープフェイクを仕組んだのはクララさんじゃないのですか? 私の顔を使って色々と実験をし、「タローを探せ」を制作して大儲けをしたんじゃないのですか?」

 「私は自分の顔をアダルトビデオの中にスーパーインポーズしただけですよ。他に難しいことは何もしていませんわ」

 「私と同居したのも、私のいろいろな表情を撮って、ディープフェイクの質を向上させるためだったのじゃありませんか」

 「しばらく会わない間に、フルタさん、ずいぶん賢くなったんじゃありませんか。でも、すべてはフルタさんの単なる妄想ですよ」

 「それで、どうして戻ってこられたんですか。もうお互いのアリバイを証明する必要もなくなったんじゃありませんか」

 「だから戻ってきたのですよ。互いを見張るなんて窮屈じゃないですか。お互いを監視せずに同居できるようになったんですよ。二人で美味しい空気が吸えるじゃないですか」


                               つづく

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