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9 タロー仮面

9 タロー仮面


 小学生が母親と話をしている。

「ねえ、タロー仮面を買ってよ」

「何、そのタロー仮面って」

「お母さんも知っているでしょう。あの「タローを探せ」のタローのお面だよ」

「タローってインターネットの世界だけじゃないの。人の顔がタローに置き換わっていくんでしょ。どこが楽しいのよ、あんな不細工な顔」

「お母さんだって、ぼくが寝た後にスマホでタローを探していることはバレバレなんだよ」

「あれは、たまたまじゃない。ママ友たちがみんなしているっていうから、どういうものか試してみただけよ」

「翌朝、お父さんに佐渡島でたらい舟を漕いでいるタローを見つけたって自慢してたじゃないか」

「たらい舟を漕ぐタローは世界で初めて私が発見したのよ。お父さんだってビックリしていたんだから」

「そうしてみんな「タローを探せ」にはまり込んでいくんだよね」

「でも、ケンちゃんはどうしてタローのお面が欲しいの。そんなの本当に売っているの?」

「来週から世界同時発売するんだ。予約しないと手に入れられないんだ」

「タローのお面なんか買って、どうするの?」

「もちろん、クラスのみんなで被って遊ぶんだよ。全員買うんだよ」

「本当? あんな冴えない顔のどこが面白いのよ」

「冴えない顔で大人も遊んでいるじゃないか。顔で人を差別しちゃあいけないよ」

「差別はしていないわよ。でも、あなたたちはどんな遊びをするのよ」

「ぼくのクラスはホームルームで、全員でお面を被って登校しようということに決まったんだ」

「タローがぞろぞろと登校するの? 何か不気味じゃないの」

「その不気味さが面白いんじゃないか」

「あなたたちの考えていることがよくわからないわ」

「みんな被ったら、被らない奴が目立っちゃうんだよ。もしかするとそいつだけが誘拐されるかもしれないんだよ」

「いくらなんでもそんなバカなことはないでしょう」

おお

「親を脅迫するの。恐ろしい子ね。でも、確かにタローの面をつけた子供の中に一人素顔の子供がいたら目立っちゃうわね」

「そうでしょ。だからタロー仮面を買ってよ」

「いくらするの?」

「4,980円」

「それは少し高いわね」

「そんなことはないよ。自転車のヘルメットよりは安いんじゃない」

「ヘルメットは頭を守るもんでしょ。ヘルメットと比べてはいけないわよ。しょせん、祭りの夜店で売っているようなセルロイドのちゃっちぃお面なんでしょ」

「ううん、結構精巧に造られているみたいなんだ」

「あなた、本物のタローを知っているの」

「知らないけど、クラスの友だちに聞いたら、広告の写真を見たらタローに見間違えるほど似ていたそうだよ」

「タローは動画でしょう」

「たまに週刊誌にタローの写真が載っているじゃない」

「あれはインターネットの動画から抜き取ったものでしょ。タローのお面は動かないんでしょ。インターネットの動画はディープフェイクで動くのよ」

「タローのお面も将来は1,000種類くらい発売される予定なんだ。1,000あったら動きも表現できるそうだよ」

「タローのお面が1,000もあってどうするの」

「1,000個買ってくれって言わないからさ。スタンダードタイプの一つでいいからさ。本当は喜怒哀楽の4枚セットが欲しいんだけど、普段の表情のスタンダードタイプ一つでいいからさ。買ってよ」

「商魂たくましいわね。どこの会社で発売しているの」

「サンテン堂だよ」

「えっ、大手じゃない」

「公認タロー仮面らしいよ」

「だれが公認したのよ。まさかタローが公認したって言うんじゃないでしょうね。タローは誰だかわからないんでしょ」

「そんな難しいこと言わないでよ。サンテン堂はタローの本物を知っているんじゃないの」

「タローについては色々な説があるじゃない。一つは架空の人物。もう一つは過去に存在した人。他にはいろいろな人の顔を合成した写真だとも言われているわ。あっ、一番バカバカしいのが、車のディーラーっていうのがあったわね。たまたま似ているだけで、タローの本家本元と名乗っているそうね」

「そんなことどうでもいいから、タロー仮面を買ってよ。買ってくれないと、誘拐されるか、いじめられるよ」

「普通はタロー面なんか被ってる方がいじめられるでしょ」

「みんな被るから、被らないと少数派になって目立っちゃうんだよ」

「困ったわね。変なものができて。タローもバーチャルな世界だけに限定して欲しかったわね。現実の世界にまで持ち込まないでよ。それで、登校の時だけに被るのね」

「これは内緒だけど、授業中も被って、先生にあてられるのを防ごうとも考えているんだ」

「そんなことしたら先生困っちゃうでしょ」

「うん。だけど、これでえこひいきがなくなるかもしれないよ」

「先生がえこひいきしているの」

「うん。勉強ができない子は手を上げても、あてられないもの。授業が進まなくなるからじゃないかな。たまにあてられることがあるんだけど、それは先生がむしゃくしゃしている時に、怒るためなんだって。気晴らししているんだよ」

「ひどい先生ね」

「先生だってストレスが溜まっているんだよ」

「それで他にはお面で何をしようと考えているの」

「サッカーの時もお面を被ってサッカーをしようって、みんなで話しているんだ」

「だれにパスしたらいいかわからないでしょう」

「動きを見れば、俊敏な奴が誰かはすぐにわかるようになるよ。純粋にサッカーのうまい奴が選ばれるようになるんだ」

「それじゃ、いままではどうだったの」

「パスしないと怒るような奴にパスしていたんだ」

「こどもの世界もいろいろと気をつかって大変ね」

「タロー仮面は新しい秩序を形成するかもしれないんだよ」

「あんたたちそんな難しいことを考えているの」

「ぼくたち子供だって仲間内ですでに色がついているからね。先生の先入観だけでなく、友達同士でもね。それを一回リセットできるかもしれないんだ」

「タロー面は顔がなくなることなのね」

「瞬間的にはね。だけど、すぐに服装や行動、態度によって人格が現れてくるはずだよ」

「子供たちもいろいろなことを考えているのね」

「ねっ、ねっ、だからタロー仮面を買ってよ」

「いいわよ。それなら3つ買いましょう。お父さんとお母さんの分もね。タロー仮面を被って3人で食事をするのよ。そしてディズニーランドに行きましょう。面白いでしょ。我が家にも新しい秩序が生まれるかもしれないわよ」


                                   つづく

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