第十章 魔法騎士団 其の五
開けているドアから、カディオルがひょいと顔を出す。
「ああ、来てたのか。怪我もしないで無事帰ってきたろ?」
軽くミリュウに笑みを見せ、すぐ立ち去った。
ミリュウはちょっと視線で挨拶し、すぐ食事の皿に戻った。
「長居しちゃってごめんなさい。じゃ、また『学びの塔』でね」
食事を終えるとそそくさとミリュウは帰って行き、それを待っていたかのようにカディオルがまたノックをしてきた。
「なんだ、もう帰っちゃったのか。ゆっくりしてけばいいのに」
部屋を見回してそう言う。
「ここじゃ落ち着かないもの。みんな住んでるとこだから」
「そうだな。おまえも早くいい仕事について結婚することだな。騎士団に入団したそうじゃないか。破格の出世だ。ご両親に手紙は書いたのか」
「いや、まだ……」
「魔法使いは身分を問わず出世できる数少ない職業の一つだ。おまえは上に認められてるみたいだし、このまま頑張れば王室づき魔法使いになるのも夢じゃない。そしたらいい暮らしができるようになる。堂々と彼女に結婚を申し込めばいい。彼女、毎日来てたぞ。おまえが帰ってこないってそりゃ心配してた。ちゃんとしてやれ」
「そうか」
「平民出身で王宮や貴族の館に顧問として仕えてる魔法使いは少なくない。そういう道を目ざすんだろ?」
「あ、うん……たぶん」
「だったら頑張れ。私にできることがあったら応援するぞ」
「いや、大丈夫だよ」
「遠慮するな。例えば女性に贈るプレゼントはどんなものがいいかとか」
「君みたいに豪華なプレゼントは贈れないからな」
「何を言う。女心を動かすのは値段じゃない。贈り物は、いつも君を一番大切に思っているという誠意の表れだ。自分に無理のない範囲で、できるだけ相手の喜びそうなものを贈るんだ。そのためには相手に関心を持って相手が何を求めているのか知ろうと努力することだ」
ひとしきり女性談義を語るとカディオルは満足したように笑みをたたえて、ぽんとラジュエルの肩を叩くと、部屋に戻っていった。
なんだか複雑な気持ちだった。
本当に自分は、カディオルの言うように出世することを期待されているのだろうか? それとも上層部は何か別のことを考えているのだろうか。
そしてそれに対して、自分はどうしたいのか。
答えは出てこない。
ともかくも明日は師匠の手伝いで獣舎の獣たちを森に送っていく。なんとなく、それが最後の、ここでの楽しい仕事のように思えた。
日暮れていく外に、また雪がしずかに降り始めた。
急に窓を開けてみたくなり、部屋の窓を開放する。
風が吹く。
強い魔力をはらんだ、西から来る『谷間の風』。
その中にデュカスのもつ温かい力、ダッジオ師の空中で抱きとめてくれたがっしりとした腕の力、そして『白い火柱の儀式』のとき塔の上に浮かび上がりながら、周囲に渦巻いていた黒雲の中の魔物たちの原始的な力が、すべてはらまれているような感じがした。
―――――――――――――――――――
今週も読んでいただきありがとうございます<m(__)m>
分量少ないので12時にもう一話投稿します。
よろしくお願いいたします(^^♪




