戦いで得るもの
イシュケルは、ラック達から視線を反らさず、イセリナに作戦を告げた。
「スピードは、俺達に軍配がある。まずは、ドーガの馬鹿力を封じたい。俺がドーガを足止めしているうちに、ドーガを攻撃しつつ、ラックを相手して欲しい。出来るか?」
「やってみなきゃ、わからないわ」
「やってもらわなくては、困る」
「そうね。それしかなさそうね」
イセリナは、決断が固まると、剣を強く握りしめた。
「ドーガよ、俺が相手だ!」
イシュケルは、スピードタイプに素早くチェンジし、ドーガへ向けダッシュする。
「望むところだぁ!」
ドーガもまた駆け出し、斧を振り上げる。
剣と斧が火花を散らす横から、すかさずイセリナがドーガを斬り掛かる。
そんなイセリナを黙ってラックが見過ごす訳もなく、その横からラックがイセリナに斬り掛かる。
イセリナは、体勢を崩しながらも、ラックの攻撃を盾で防ぎ、ドーガにも見事斬り付けた。
「ふっ」
イシュケルは、イセリナの戦いぶりに、ほんの少し笑みを浮かべた後、ドーガの斧を押し返した。
よろめくドーガに、イシュケルは左手で鋭い爪を繰り出しつつ、右手に持った剣で斬り上げた。
更に、イセリナもドーガの足元を狙い掬い上げる。
「野郎~!」
ドカッと、尻餅をついたドーガは、血眼になり奮起した。
だが、そんなドーガにラックは、言う。
「諦めろ、ドーガお前の負けだ。どう頑張ってもお前の敵う相手じゃない」
「ちっ、ここまでかよ。お前ら、本当に強くなったな……」
ドーガは、イシュケルとイセリナの顔を見て、満面の笑みを浮かべた。
「さて、ここからは、イセリナ一人で私と手合わせ願いたい。初代勇者から受け継ぐ、技を伝授しよう」
ラックは、以前イシュケルと戦った時に、見せた技をイセリナに伝授しようと持ち掛けた。
そう、『天地壮烈斬』である。
「あの技は、俺が以前打ち破った。ジュラリスに通用するとは到底思えん」
天地壮烈斬を打ち破ったイシュケルは、そう言う。
「イシュケル、そう慌てるな。私とて歴代勇者の一人。いつまでも、破れた技にしがみつく気はない。新たに習得した、真・天地壮烈斬を伝授しようと言うのだ」
「真・天地壮烈斬だと?」
「いかにも。以前のような隙はなく、圧倒的破壊力だ」
イシュケルの問いに、ラックはそう答えた。
「やってみます。私、やります」
「いい心掛けだ。だが、簡単にはいかないぞ。イセリナよ、私との戦いの中で、見て、肌で感じ取り、体に叩き込むのだ。わかったな?」
「ええ。わかったわ」
「いい返事だ。ならば、早速行くぞ!」
ラックは、低い姿勢から剣を構え、イセリナに剣先を向ける。
命懸けの、技の習得にイセリナは身震いした。
まずは小手調べと言わんばかりに、ラックはイセリナに剣を連打し叩き込む。
イセリナも負けじと、回避しながら押し返す。
「どうした? 逃げてばかりでは、私を倒せんぞ」
尚も、ラックの激しい攻撃は続く。
懸命にくらいついていくイセリナ。
「さすが、伝説の勇者……本気を出さないと無理のようですね」
「まだ、余力を残していたか。それは楽しみだ」
イセリナは、全ての力を開放し、目にもとまらぬ速さで、ラックの剣を弾き返し鎧を引き裂いた。
「やるな! いよいよ見せる時が来たようだな。真・天地壮烈斬を」
ラックは、深く息を吸い込み、疾風の如くイセリナに斬り掛かった。
剣は残像を残し、何十本もの剣がイセリナを襲った。
イセリナは、盾を急いで構えるが、斬り付けられながら、吹き飛び壁に叩きつけられた。
「イセリナ――っ!」
たまらず、イシュケルは声を上げる。
ガラガラと崩れ落ちる壁の下敷きになり、イセリナの返事はない。
「これで、立ち上がれぬようでは、それだけの器だったと言うことだ」
ラックは、手加減なく非情な振る舞いをした。




