運命と運命
「マデュラ、マデュラはいるか?」
イシュケルは、謁見の間にある王座に腰を据えながら言った。
間隔を置いて、マデュラが部屋から戻ってきた。
「お呼びですか? イシュケル様。傷の方は……」
「マデュラよ、心配ない。この通りだ」
イシュケルは両手を広げ、傷が完治したことをアピールした。
◇◇◇◇◇◇
一方勇者サイド
暁とウッディを追っていたイセリナは、ようやく二人に追い付いた。
「ハァ……ハァ……待って」
イセリナに気付いた暁とウッディは、後ろを振り返った。
「暁、ウッディ、ごめんなさい。言い過ぎたわ」
暁は大きな瞳を細め、イセリナに言った。
「僕の方こそ、ごめん。イセちゃんの気持ちも知らないで……。イシュケルのことが好きなんだよね?」
「えっ? それは……その……」
「顔に書いてあるよ。イシュケルはきっと生きてるよ。現にモンスター達がざわめき始まってる。これは魔王が生きてるって証拠だよ」
暁の最もな意見に、今度ばかりはイセリナも同調した。
そして、更に暁は続けた。
「でもね、イセちゃん。イシュケルは僕らが倒すべき相手。交わっちゃいけないんだよ……」
暁は、いつもより優しい口調でイセリナに言った。
傍にいたウッディは、二人から少し離れ会話が聞こえないフリをしている。
「暁……それはわかっているわ。でも、私思うの。理由はどうあれ、本当の悪だったら、私達を助けたりしないんじゃないかなって」
「そうかも知れないけど……」
納得のいかない暁は、腕を後ろに組み頬を膨らました。
「私、信じたいの。運命は変えれる……って」
その真っ直ぐな瞳を見て、暁はイセリナを信じようと思った。
「わかった。イセちゃんを信じるよ。じゃ、仲直りのハグっ!」
不意に暁はイセリナに抱き付き、またもや頬にキスをした。
「ちょっと、暁……」
「テヘッ。サービスだよ。言っとくけど、僕はレズじゃないからね。だって、好きな子がいるもん」
その会話が耳に入ったウッディは、ダッシュで暁のもとに近付いた。
「好きな男って、誰だよ」
「教えな~い」
暁は顔を赤らめながら、先に駆け出した。
呪いの館からだいぶ寄り道をしながら、ようやくレインチェリーの街に戻ってきた。
雨が止み、人々は久しぶりに洗濯物や布団を干し、笑顔が戻っていた。
街を徘徊していた荒くれ者も、真面目に働き、街は復興に向けて大きな一歩を踏み出したようだ。
「だいぶ、街も賑やかになったようね」
「なぁ、イセリナ。今夜はこの街で、宿をとらないか? ずっと戦い続けてたから、休息も必要じゃね?」
「僕もその意見に賛成~。家、壊されたし~」
「仕方ないわね~」
イセリナは二人に根負けし、レインチェリーで宿をとることを決めた。
「あまり、高いとこは駄目よ」
「高いも安いも、この街に宿屋は一軒しかないけどね。そして、ここがその宿屋だよ」
さっきから、目に入っていた大きな建物が、この街唯一の宿屋だった。
見るからに、高級そうで料金も高そうだ。
イセリナは財布の中身を確認し、溜め息を付いた後、二人にハメられたことに気付いた。
「もう、二人とも意地悪……」
そう言いながらも笑顔になっていた。
イシュケルが生きている。
モンスター討伐をしていれば、必ずまた会える。
そう思うとイセリナは、元気が湧いてきた。
「暁、ウッディ。ありがとう。あなた達のお陰よ」
三人は街で唯一の宿屋に入った。




