19/79

戦いの果てに

　イシュケルは力を解放し、パワータイプにチェンジした。

　赤い髪に変化したイシュケルは、嘆きの剣に語り掛けた。

「嘆きの剣よ。頼んだぞ」

〈承知。たが、血が欲しい……。鉄クズはマズイ〉

「もう少し我慢してくれ」

　嘆きの剣は、イシュケルの背丈を越す大剣に変化した。

「凄い剣ね、形状を変えられるなんて」

「イセリナよ、集中しろ！　敵は向こうだ」

「ご、ごめんなさい」

　イセリナはイシュケルに叱咤され、慌て剣を構える。

「貴様ら、全員皆殺しだ！　おら、おらぁ！　死ね！」

　デスナイトは怒号を響かせ、両手に持った剣を不規則に振り回して来た。

　イセリナは右から、イシュケルは左からデスナイトを取り囲むように駆け寄った。

「隙あり、隙あり～」

　二人が引き付けているうちに、暁は頭上遥か上を飛んでいた。

　暁の槍先は、デスナイトの背中付近を捉えようとしていた。

しかし、さすがは魔シン族特攻隊長。

それを察知し、紙一重で交わし攻撃に転じた。

「甘い！　甘過ぎるわ！」

　デスナイトはイセリナを払いのけながら、暁を斬り付けた。

「うぅ……」

　あれほど大量の魔シンを倒した暁が、デスナイトのたった一撃で踞ってしまった。

「暁ぃ！　大丈夫か？」

「大丈夫だ……ウッディ。僕のことより、自分の……仕事を……しろよ」

「わかった……」

　ウッディの返事を聞くと、暁はニコリと笑った。

時折ウッディにだけ見せる、素の笑顔。

「デスナイト！　覚悟しな、俺のとっておきを見せてやるぜっ」

　ウッディは素早く二つの魔法を詠唱した。

右手からは、燃えさかる炎の塊、左手からは稲妻を帯びた塊を発生させ、それが交差し、デスナイト目掛け飛んで行った。

「こんなもの……弾き飛ばしてやるわ。つぁぁぁ」

　デスナイトは弾き返そうと試みるが、ウッディの魔力の方が一枚上手だった。

「うぐぁぁ……」

　デスナイトの左腕が、金属音を立てながら床に転がった。

それと同時にウッディは、暁にもたれ掛かるようにヘナヘナと尻餅を付いた。

「情けねぇな、ウッディ」

「暁、お前もな……」

　戦線離脱した二人の穴を埋めるべく、イシュケルとイセリナは健闘していた。

　デスナイトは左腕を失ったとはいえ、攻撃力はまだ衰えない。

　イセリナもイシュケルも、かなりの体力を消耗していた。

それほどまでにデスナイトは強敵だったのである。

「やっぱり、あの目を狙わないと駄目かしら？」

　イセリナの問いにイシュケルは首を横に振った。

既に何度も、その赤い目を狙おうとしていたが、デスナイトの守りは頑強でそれを許さなかったのだ。

「やむを得えん、暁その槍を貸してくれ」

「あ、あぁ……」

　イシュケルは暁から槍を受け取ると、スピードタイプにチェンジした。

「イセリナ、頼みがある。一人で、奴を引き付けていてくれないか？　その隙に俺が、この嘆きの剣と槍のダブルで、奴の目を貫く。出来るか？」

「任せて」

イセリナはイシュケルにウインクしながら、それに答える。

その後、剣を構え直し誘導するかのように端へ端へと追いやった。

「イセリナ、サンキュー。どけて、くれ。喰らえ、ポンコツにしてやるぜっ」

　風を切る早さで、嘆きの剣と暁の槍はデスナイトの目を捉え、貫いた。

「ば、馬鹿な……。魔シン族が破れるとは……」

「おい、デスナイト。死ぬのは勝手だが、その前にレインチェリーの雨を止ませてくれないか？」

「あれは……あの雨は、我々魔シン族の命の源。すなわち、雨に嘆く人の悲しみや怒りが我らが動力。……我が死ねば、雨も止むだろう……」

「ならば、死ね」

「かはっ……」

　イシュケルは、無抵抗のデスナイトに止めをさした。

「何ということを……無抵抗の敵に」

「イセリナよ、やらなきゃ俺達がやられるんだぞ。甘い考えはよせ。さぁ、地上へ戻るぞ」

「何故なの……」

　ここに来て、初めてイシュケルとイセリナの意見が別れた。

更に追い討ちをを掛けるように不運は重なった。

〈血だ……血が欲しい。イシュケルよ……もう我慢出来ん……あの女の血で良い……〉

嘆きの剣はイシュケルに血を催促した。

「もう少し我慢するんだ……んぐ、んぐ。イセリナよ、逃げてくれ。嘆きの剣が血を欲しがっている。俺はお前を斬り……たく……」

嘆きの剣に洗脳され、イシュケルはイセリナに向かって剣を構えた。

「皆、イシュケルの様子がおかしいわ」

　イセリナは逃げもせず、呆然としてた。