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血湧く月輪
「弱い者は喰われ貪られる。それが世の常だ。誰が天下を収めようがそれは変わらん」
炎が燃え盛っている。
こちらとあちらを隔てる吊り橋の下では、煮立った湯釜のごとく、血の河がごぼごぼと煮えたぎり、黒く墨を固めたような天には、やはり血肉の如き月輪が脈打つように燃えている。
吊り橋の向こう側では、骸の軍勢を率いる赤い妖狐がこちらを睨んでいた。顔には笑みとも、悲哀ともつかぬ、凄絶な覚悟が湛えられている。
「ならばせめて、誰もが生きているという真の充足の得られる天下戦乱、戦獄の世を、この俺が築いてやろう」
邪悪な笑みを浮かべる男が、太刀造りの二尺七寸を振るった。吊り橋の縄がばさりと落とされて、こちらとあちらを断ち切る。
必死に声をかけようとするが、喉は糊を詰めたように固まって、まるで動かない。体を動かそうにも、金縛りにあったように、指一本たりとも曲げることもまかり通らなかった。
「そこで見ていろ、燈真。貴様に俺は止められん」
そう言って、かつて兄のように、友のように慕った東雲嶺慈は、勁烈な覚悟を背負い踵を返した。
赤い陣羽織には、狐の牙を模した紋所が黒く染められ、炎に照らされて翻っている。




