いきなりプロポーズされました/どうしてこうなった
★ここから物語がはじまります。『プロローグ』は、時系列でいうと本章の最後の方です。
★男性が女性を一方的に選ぶという時代です。それにOKを出すのは両親です。
★自立するための仕事など持っていないまだ少女だったアイネは、プロポーズを断ることすらできませんでした。
そもそもわたし、どうしてこんな【産業革命中ですよ】みたいな時代に生まれ変わったんだろう。前世は二十一世紀だったのに。
時代が逆行してるのよね。次に生まれ変わって魔女狩りに遭ったらシャレにならない。
しかもまた女だよ。
男尊女卑だよ。
参政権ないよ。
ファッ○ンガッデム!
ハァ……この世界の医療水準では、結婚しても子供なんかとてもじゃないけど産めない。帝王切開なんて望めないし、無痛分娩さえないだろうし。わたし出血多量で死んじゃうかも。
※
この結婚は今から一年ほど前。
いきなりライリー家から縁談の申し込みがあった。
わたしは去年のニューイヤー舞踏会で社交界デビューしたばかりだったので、結婚なんてこれっぽっちも考えていなかった。
お相手はフィン・ライリー。
ライリー伯爵家の嫡男。わたしよりも十歳年上のアラサー男性。
そのときわたしは十七歳になったばかりだった。十歳程度の年の差なら、良くある貴族同士の結婚なのかなと思った。
違ったのは……。
「ライリー家のご子息様はプレイボーイで有名な方ではなくて? わたくし先日のパーティーでお見かけしたわ。大勢のレディを引き連れていましたわ」
母が思い出したように言った――眉間に皺を寄せて。
「あぁ、そうだったかなぁ。だとしても結婚すれば落ち着くだろう」という、楽観的な父とは対照的だった。
――うわっ、その人プレイボーイなの!?
【激しく嫌なんですけどぉ】
万が一結婚しなければならないのなら、地味で平凡なボーイプリーズ!
目立たなくて少々つまらない程度の男性がいいな。
女性になんかモテなくていいよ。
ところがその翌週マケナニー家のカントリーハウスにやって来たのは、ゆるやかな金髪にブルーアイの高身長細マッチョな、噂通り超イケメンお兄さんだった。ほんのりタレ目っぽい。
な、なんで、超田舎者のわたしに!?
訳分かんねー。
勘違いじゃない?
誰かと間違えたとか?
――そういえば舞踏会で見かけたかもしれない。見かけただけだけど。
たくさんの女の人に囲まれていたっけ。
着飾ったレディたちの見守る中、ワインについてウンチク垂れて。彼が何か言うたびにレディたちが『まぁっ!』『お詳しいのね!』『素晴らしいですわ!』などと賛美を送っていた。
(ゲエッ)と思って踵を返したわ。わたしの嫌いなタイプなんだもん。
まさか……そのときに目を付けられた?
「初めまして、レディ・マケナニー」
「初めまして、ライリー様。失礼ですが、わたしたち、お会いしたことがありまして?」
「先の舞踏会にてお見かけし、あなたの清楚で落ち着いた姿に惹かれ、結婚を申し込みたく思いました。御迷惑でなければぜひ検討して頂きたく……」
(やっぱりあのとき?
わたしが清楚? 勘違いだよね?
わたしのブルネットとグリーンアイがそう思わせているのかな。そりゃあ、わたしはアバズレでも跳ねっ返りでもないけれど……単なる引きこもりなだけで)
清楚でも落ち着いているわけでもない、ただの引きこもりです。
大人しいと思われるかもしれないけれど、それは表向き。基本的に超がつく頑固者です。前世かかあ天下予備軍でございます。
引きこもっているから周りがそれに気付かないだけです。
いきなり結婚と言われてもねぇ。
わたしもう少し子供でいたい……というか、社交なんてしたことがない箱入り娘だし。一度だけ舞踏会へ行ったきり、パーティーへ顔を出したことはないし。
領地の屋敷にこもって絵を描いたりピアノを弾いたりしているだけ。レディのたしなみ刺繍はできませんけど。
あぁ、結婚したくない……そもそも子供を産みたくない。それにこんな、複数の女性を侍らすお兄さんと!?
あり得ない! 色々無理!
きっと取り巻きに殺される。逃げたい。
チェンジプリーズ!
「アイネはいつもボーッとしている娘なんです。末っ子だからなのか甘えん坊で世間にも疎く、社交もせず、ピアノを弾くか絵を描いているような娘でして。こんな娘でもよろしければ、ぜひお話を進めて頂けませんでしょうか」
「ありがとうございます。マケナニー家の姫を大切にお守りすると誓います」
(お~い、父! 勝手に話を進めるんじゃない!)
結局三度も相手主導の勝手なデートをさせられ、前のめりになった父によって、わたしはマケナニー家を放り出されることになったのである。
「お前のようなぼんやりした娘でも伯爵家の夫人になれるんだ。こんなにいい話はないだろう。ライリー家に感謝しなければな」
「こうなったら仕方ありません。これからは甘えないでライリー様に尽くしなさい」
両親に迫られた。
夫に尽くす?
ご冗談を。
結婚したかったわけではないのに結婚させられてしまう。断わろうにも断れない。
女性の意思が無視される世界。それってどうなの?
「ライリー家からは侍女を一人なら連れて行ってもいいと言われたの、アンを連れて行く?」
「ぜひそうして。それなら向こうへ行っても寂しくないわ。どう思う、アン?」
「も、もちろんです、わたしがご一緒してもよろしいのなら」
アンはひとつ年下、わたしの実家マケナニー領の地主の娘だ。平民といってもアッパーミドルクラス、マケナニーの遠縁にあたる。
わたしと同じブルネットとグリーンアイの、ぽっちゃりした愛らしい少女。侍女というよりは話し相手、レディースコンパニオン。
理由があって、アンが男性に色目を使うことはない。




