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引きこもりのお飾り妻は悪妻になって離婚したい  作者: 赤城ハルナ/アサマ


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4/15

舅がやって来ました(ゲゲ~)

 フィンは一応仕事を持っている。王宮儀式の運営に関わっているらしい。だからフィンは一年中首都住みで、領地へ行くことは滅多にないそうだ。

『今日は仕事だから』と言ってときどき王宮へ行くけれど、詳しいことは知らない。儀式の運営係だから知り合いが多いのか、元々社交的でモテ男なのか、その辺も知らない。

 そういえばワインや地方の名産品に詳しかったわ。ライリー家の晩餐には頻繁に名産品が供され、これはどこの何だということをシェフから詳しく説明される。


 式から一か月ほどして、領地からフィンの父(義父・舅)が首都の屋敷に突撃して来た。つまり、ライリー家当主様。結婚式には出席していなかったから会うのは初めて。ちなみにフィンの母は亡くなり、今は義理の母がいるそうです。今回は来ませんでした。

 一人息子のフィンはいずれ伯爵家当主様になるのだわ。そうすればわたしは伯爵夫人。二人で領地へ行かなければならない。

 伯爵夫人って具体的には何をするんだろう?

 普段母は何をしていたっけ?


 これはマズイ、一度実家へ帰って母から色々教えてもらおう。妻という存在が、夫の隣にいればいいだけのはずがないと思う。





 フィンの父――ライリー家当主様――は太っているわけではないけれど恰幅のよい、いかにも貴族家当主です、という感じの人だった。白髪の混じった天パ金髪に真っ直ぐ切り揃えられたあご髭、灰色がかった鋭い瞳。五十代といっても若々しく、中々のイケオジだと思う。フィンも年取ったらあんな感じになるのかな、と想像するとちょっと笑う。

 何と言っても服装が奇抜なの。スーツの袖や裾は幅の広いレース生地、魚介類みたいな謎刺繍の真っ赤なクラバット。

 こだわりのあるお洒落さんなのかも。

 フィンの場合、オーソドックスなファッションが余計彼を輝かせるのよね。九割くらいお洒落度を下げればイイ感じに地味になるのに。


 義父はめったに笑うことがなく、使用人を人と認識しない態度をとる。

 まぁこれがお貴族様の普通なんでしょうけど。わたしが前世の価値観に左右されているだけで。


 義父は社交嫌いで領地に引きこもりっぱなし、社交界に出ることはめったになく、貴族議会はたまにしか出席しないとフィンから聞いた。中央に出てきたら議会が荒れるレベルなのだそうだ。

 すごい人もいるもんだね。


 あれっ、わたしと同じ引きこもり?

 でもわたしは義務としての社交はしてもいい(お飾りですから)と思うし、周りを荒らすこともないです。


「お久しぶりです、父上。まさか結婚式をキャンセルされるとは思いませんでしたよ」

「私には領地でやることが山ほどある。今年のジャガイモと小麦の生産輸出調整を早急にまとめなければならん。フィンだっていずれは領地へ行かなければならないんだぞ。ところで、お前がマケナニー家の娘か」


 い、いきなり話を振られた!


「初めまして、アイネと申します。お義父様、これからよろしくお願いします」

 自慢の微笑みで挨拶。


「ふ~ん、ほぅ……」


 最上のカーテシーをした。いついかなる場合でも微笑むのは得意なのだ、フフン!


「お義父様だと……フハハハハッ、これがフィンの嫁か。まるっきり子供じゃないか! お前はそういう趣味だったのか、知らなかったぞ」

「いいえ違います、いい加減なことを言わないでください」


 これが久しぶりに会った親子の会話ですって。こんな下世話な会話、実家では聞いたことがありません。





 その日の晩餐で――。


「父上、首都に来るのなら、あらかじめ知らせをよこして下さい」

「忘れておったわ。ふーん、マケナニーの娘か……随分幼いが、身体は丈夫なのか? そもそも初潮は来ているのか? こんなに細いくせに息子を受け入れたのか? 子供を産めるのか? こんなボーッとした娘、社交はできるのか? 王宮儀式のことを知っているのか?」


〈ゲゲ〜ッ!!!〉


 ナニヲイッテイルンデショウカ。


 そりゃあ、わたしは社交なんてしてこなかったけど……子供は産まなくてもいいと言われたし……王宮儀式のことは知らないから、これから勉強しようかなと……。


「父上、アイネはまだ十八歳なんです。そういうことは追々でいいんですよ」

「お前の母親のように産んですぐ死なれては困る。一人目は死産だった。二人目で力尽きてしまった。嫁にはもっと栄養をつけさせなさい。ヨセフ、アレを」

「はい、旦那様」


 ――『アレ』?


 ヨセフと言う名の義父の侍従が持って来たのは、クリスマスケーキが入った箱のようなものだった。

「これを全部食べなさい。もう少し太りなさい」

 そう言って蓋を取り、義父はわたしにとびきり上等なローストビーフをまるまるひと塊差し出した。


 わたし、雌牛か何かにされるのかな?


「……ありがとうございます(そんなにたくさんは無理です、うっぷ)」

「フィンの母親は少々体の弱い女だった。まさかフィンを産んですぐ死ぬとはな。息子が二歳のとき後妻をもらったが、残念なことに子はできなかった。今の後妻は二人目だが、もう子供はあきらめている。お前は少なくとも二人は子供を産みなさい。いや、男が産まれるまで頑張りなさい」

「……」


 そんな風に言われるなんて、フィンのお母さんも後妻も可哀そう。女性に対する人権はどうなっているの?


「父上、そんなことを晩餐の席で言わないでいただきたい」

「大事なことだ。妻に子供ができなければ何人か妾を持て」


 嫁に向かってそういうことを言う?


 フィンは気まずそうな表情をしていた。わたしがいる席でそんな話題を出したからだと思っていた。


 そして嵐は去って行った。

 もう来ないで、もう来ないで、もう来ないで。





 義父が領地へ帰ってすぐ、フィンはわたしを演奏会へ連れ出した。お口直しということらしい。わたしも後味の悪い晩餐は思い出したくないし、気晴らしと思って付き合った。

 ついでにパーティー用ドレスを見繕ってもらい、いくつかアクセサリーを買ってもらったので、今回は溜飲を下げよう。


「アイネ、父のことは気にしなくていい。どうせまた領地にこもるから。父の今の後妻はぼくと同じ年だから気まずいし、会いたくないんだ」


 ……微妙な親子関係。

 フィンは父親の後妻を決して『義母』とは呼ばなかった。


 それからはときどき首都のライリー屋敷に、箱入りローストビーフが届くことになる。

※最初はフィンの父を毛嫌いするアイネですが、意外な変化が……。

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