引きこもり妻は鬼嫁になってざまぁするのだ!/『……』
この回でストーリーは終わりです。長い間ありがとうございました。
デキる妄執こじらせクズのお守りをするアイネ、百本釘こん棒を振り回すおバカっぽくて可愛い妻を溺愛するフィン。二人に幸あれ。
「あふあふ……ゲロ~」
「うわっ、どういうことだ、服の上に吐かれたぞ!」
「乳飲み子なんだから、しょっちゅう吐くのよ。抱っこするときは気を付けないとね」
とうとうわたし、幸せをつかんだわ。家族って素晴らしい――と、可愛い息子ちゃんを抱きながら浮かれていたわたし。
ところがその後、予期せぬ出来事が起きたのです。
そろそろ引きこもり妻を返上して社交を再開してもいいかしら、次のパーティーはいつかしら、また知識を詰め込まないと――と思っていたときのこと。
「アイネ、最近没落した子爵家の令嬢を保護することにしたんだ」と、一歳になった自分の息子を愛おしそうに眺めながらフィンが告げた。
な、なんですってぇ~!
おまえ~!
自分の子をあやしながらまた捨てネコを拾ったのか!
「もう愛人は持たないんじゃなかったんですか!」
「愛人ではない。可哀想な令嬢を保護するだけだよ。今度はちゃんと報告したろう?」
「……ぐぬぬ(知ってた、知ってたよ……)」
「あのときのようなことは決して起こらないと誓う。令嬢には夫人と関わらないという誓約書を書かせた。彼女には絶対手を出さないよ」
「……信用してもいいんですか?」
「もちろん信じてほしい。彼女が落ち着いたら嫁ぎ先なり働き口なりを紹介しようと思う」
同じ手口じゃない!
もはや『いい働き口を紹介する』詐欺師だわ!
「浮気したら許さない! そしたらこっちだって考えがあるんだから!」
「だから、保護しているだけだよ」
なぜ。こうも。
この男は相手の言うことをサラリと受け流すのか!
こうなったら【百本釘バット】を用意してやるんだから!
※
――あれから数ヶ月。
令嬢の嫁ぎ先は?
働き口は?
どうなったの?
情が深いフィンは捨てネコを手放すことができないのだわ。そもそもあんな別邸(捨てネコ屋敷)があるからいけないんだ!
アレを建てたのは誰よ!?
こうなったら本気で【百本釘バット】を用意するしかないわ!
何の動きもなかったので、フィンが長期地方出張している間を狙ってわたしは義父に断りを入れ、令嬢を領地へ送る(左遷する)ことにした。
令嬢は『お願いします奥様、せめてライリー様にご挨拶してから……』と嘘泣きしていたけれど、『もうフィンは来ないわ!』と突っぱねた。
鬼嫁と言われようが構うもんか!
何たってわたしは【ライリー家当主様/裏ボス】の承認を得ているのだ。
『妾にする気がない令嬢を夫が保護しています。
首都の狭い屋敷にいつまでも置くわけにはいきませんので、領地で何とかできませんでしょうか。それから、森の中の別邸は古くなりましたので建て直すことは可能でしょうか、崩れそうで危険なのです。
もしも可愛い跡取り息子が被害を受けたとなれば、後悔しきれません。わたしは死んでも死にきれないでしょう』
といった内容の手紙を義父に送った。
すると。
『令嬢を迎える準備を整えるからすぐにでも寄こしなさい。別邸を建て直したいのなら構わない。大事な孫のためにも嫁の願いをかなえよう、好きにしなさい。費用はすべて私が出す』
という返事が来たから。
意外!
言うことはゲスな舅だけど、ちゃんとわたしの意見を聞いてくれる。嘘をついたりごまかしたりしないだけフィンよりもいい。
愛はなくても妻や後妻を大事にしていたのかもしれないわね。
別邸の囲いは業者を呼んで取り除き、家具は全てオークションに出した。ライリー家の裏ボスが生きている間に別邸は破壊するつもり。
建て直すのなら雰囲気のいいログハウスにして、わたしのアトリエにしよう。
引き抜いた釘で【百本釘バット】を作ってやる!
今回の事で舅を見直したわ。行動力があって頼りになるし、わたしの訴えをちゃんと聞いてくれる。可愛い孫のためなら何でもしてくれそう。相変わらず箱入りローストビーフを送りつけてくるけれど。
長男を産んだわたしは伯爵家の嫁として認めてもらっているしね。
男子を産んだ嫁は最強なのだ!
わたしは百本釘バットに似せた【百本釘こん棒】を庭師のオジサンに作ってもらい、『打倒フィン・ライリー!』と叫びながら別邸の窓を次々と壊した。
「ここでイチャイチャして、傷だらけになれ!」
ガシャーン!!
「どうしたんですか、アイネ様!? 正気を取り戻してください!」
「わたしは正気よ、アン。こんなものがあるからいけないのよ!」
「坊ちゃんに見られたらどうするんですか!」
「構わないわ、アンは避難していて!」
ガシャーン、ガシャーン!!
※
「いつの間にか別邸の塀が壊され、令嬢が見当たらない。何か知っているのか、アイネ?」
出張帰りの夜、軽くお酒を飲みながらフィンに尋問された。『お飾りではない妻』になってからは寝室が一緒なのです。
「さぁ? お義父様に聞いてみてはいかがでしょう」
「……もしかしたら令嬢に嫉妬していたのか?」
「さぁ?」
「別邸の窓が粉々なんだけど、泥棒でも入ったのかな? あぁっ、可愛い手が傷だらけじゃないか、ちゃんと手当てをしているのかい?」
「……さ、さあ?」
「アイネ……令嬢のことは誤解だよ……こんな風に自分を傷つけるような事はしないで……」
どうやらフィンは、すり傷だらけのわたしの両手を見て、わたしが自傷行為をしたと勘違いしたらしい。
「嫉妬してくれて嬉しいよ。今までぼくに執着してくれたことなんてなかったろう?」
器用な合わせ技でフィンがわたしをベッドに転がして覆いかぶさった。
「あっ、ちょっ……」
この男、寝技が上手すぎる。
ダフネが狂った理由が分かる気がする――可哀そうな人。
そういえば、フィンには『愛してる』とか『好き』とか言ったことはなかったっけ。
好き――ではあると思う。こんなに優しくわたしを包んでくれる人はいないから。
愛――は、分からない。
フィンからもそんな言葉は聞いていない――あれっ?
あれえっ???
ま、まぁ、お見合い結婚みたいなものだから……フィンがわたしにプロポーズした理由も知らないし?
これからはわたしがフィンを見張らないと、ライリー家は捨てネコ屋敷になってしまう。そんなことはさせない、わたしの可愛い息子のためにも。
絶対ダメ!!
「アイネに負担にならないように愛し合えばいい。ぼくの最愛の奥様……」
あ、『愛』って二回も言った~!
「えっ、アノ、ちよっと待って。いろいろ準備が……」
「そんなものは必要ないよ」
「……えぇ」
「ぼくに子供を与えてくれてありがとう、生きていてくれてありがとう、アイネ。ずっとぼくの隣にいてくれるだろう? もう二度と離婚などという言葉を口にしてはいけないよ」
「そ、それなら、フィンもずっとわたしのそばにいてくれるの?」
「もちろんだよ」
――ということでわたしは、面倒でややこしい、時に愛が重い、デキるクズ/フィン・ライリーの監視付きお守りをすることになったのです。
百本釘こん棒をどこに隠したかはヒ・ミ・ツ。
※イメージ画像(Gemini AIで作成)は百本釘バットを振りかぶってオ◯タニサンポーズのアイネ(森の端に野生のジキタリスがあるらしいので、処分した方がいい)と、舞踏会で令嬢たちに囲まれながらワインのウンチクを垂れるフィン・ライリーです。このときアイネはゲエッと思い、フィンは妖精のような(に見えた)アイネを追っていました。フィンの視線の先にはゲエッなアイネがいるはず。
★このときから義父(裏ボス)をまじえた三角攻防戦がはじまりまりました。次回で最終回です。




