悪妻作戦その一【浪費家を演出】/美味いものを食ってやる!
高級商店街巡りはこの辺にして(何を買えばいいのか分からない)、お次は。
屋敷での朝食と夕食は豪華だけど、ランチはサンドイッチやスコーン、ビスケットなどの軽食なので、屋敷でのランチを断って外食することにしよう。
「今日はどこへ行こうかしら」
「使用人仲間に聞いたんですけど、最近西地区の商店街に新しいレストランができたらしいですよ」
「わぁ、使用人たちはそこへ行ってるの?」
「お金を貯めて行くんですよ」
「わたしも行ってみたい」
ということで、不審な顔をしているライリー家の御者に馬車を出すよう指示する。
「かしこまりました、若奥様。本日はどちらへ?」
「新規開店のレストランよ」
この御者には毎回賄賂を渡すことにして味方にする。
フィンの監視なんて、無視よ無視!
「港町でもないのにシュリンプカクテル? いつ獲ったエビなんだろう? この時代に保冷トラックなんてないよね?」
「トラックという物は知りませんけど、保冷貨車ならありますよ、鉄道の」
「それなら大丈夫なのかな? 試しにこれを食べてみる」
「いいですね」
「それと、デザートドリンクにはホイップクリーム付ホットチョコレート」
「エビとホットチョコレートですか? 何だか少し……」
「いいの、いいの、ヲ~ッホホホホ」
すっかりお腹がいっぱいになったわたしは晩餐をほとんど残し、フィンに心配されることになる。
わたしのことは放っておいて!
もう秋も近い。冬になったら外出はできない。
そしたらまた引きこもりの大人しい妻に逆戻りしてフィンに都合よく扱われてしまうので、今のうちに悪妻っぽく振舞わなければ。
買い物も外食も全部ライリー家のツケにして、わたしは毎日のようにアンを引き連れて外出した。
「……疲れた……悪妻になるのも大変だわ……悪妻って、体力がある人じゃないとなれないのかも……」
すっかり体力を消耗したわたしは、翌週になると部屋に引きこもり、疲れ気味だからと言い訳して散歩も乗馬も休んだ。
(これじゃぁ元通りじゃない。いいえ、以前よりも引きこもりになってしまう)
世に言う悪妻はエネルギーのある人なのね、ある意味尊敬する。わたしには無理かもしれない。
だったら離婚はどうするの?
いやいや、諦めてはいけない。
屋敷内に二人も愛人を囲っているクズ夫と別れるためなのだ。白い結婚だなんて言ってる裏で、夜は愛人とよろしくやっているのだ。
後ろめたいことがあるからお飾りの妻には親切にしているだけなのだ!
〈ケッ!!〉
☆ ☆ ☆
「最近毎日のように街へ行っているそうだね、アイネ。疲れ気味なのはそのせいなのかい?」
ウッカリ引きこもっていたら、フィンからの尋問を受けた。
あの御者め、わたしから賄賂を受け取りながらフィンに告げ口していたの!?
許せないんだけど!
そういえば、外出するのが忙しくてフィンとは最近あまり話をしていない。
そもそも夫婦らしい会話なんてあったかしら?
「はい、アンと買い物へ。それからレストランも」
「買い物なんて商人を呼べばいいだろう?」
「自分でお店へ行って、直接品物を選びたかったんです」
「アンと二人だけなんて危険だな。スリにでも遭ったらどうするんだ」
「大丈夫でしたよ」
「そんなに外出したいのなら、ぼくが一緒に行こう」
「は? えっ?」
「嫌なのかい?」
「気まずいです、女性特有の買い物もあるんですよ」
「まぁそう言わないで。可愛い妻の買い物なんだ、喜んでお供するよ」
買い物しにくいわ、というか、別に買いたいものがあるわけじゃなく、散財しようと思っただけ。フィンが散財したのでは意味ないのよ。
「か、買い物はもう終わりました。もう買うものは何もありませんのよ」
「へえ、それは残念」
うう~ん、悪妻の振りをするのは難しい。それならここで言うしかない、言っちゃおう!
「あのねフィン、わたし、悪妻になったのよ」
「は? そういうことを自分で言うんだ。なかなか面白いね」
「何度でも言うわ」
「何をもって悪妻というのかな? その根拠は? 悪妻と言い張るからにはそれなりの理由があるんだろう? 言ってごらん」
厶……この男、理詰めできたわね。
無駄に頭が回る男はやっかいだわ。
「フィンに内緒で高価な品をたくさん買ったわ。ランチは毎日外食なのよ。ぜんぶライリー家のツケでね」
「あぁ、あの(安物の)ネックレス……それで? 買い物は全然構わないよ、常識の範囲なら。金を持っている者がお金を使わないと経済が回らないだろう?」
ム……経済理論を持ち出したわね。
これだから頭が回る男は……。
「これからも自由に出かけてやりたいことをやるわ」
「それなら次は何をしたいんだ? すごく興味があるし、ぜひ教えてほしいな」
「ええと……観劇や演奏会へ行きたいわ、もちろん一番お高いボックス席で!」
「そんなことでいいなら特等席を予約しよう」
「え?」
翌週にはフィンと観劇へ。もちろん特等席。
翌々週はフィンと演奏会へ。もちろん特等席。
『満足しましたか、ぼくの可愛い奥様』と言って、フィンはわたしの手の甲に優しくキスし、『プレゼントだよ』とダイヤモンドのネックレスをわたしの首に飾った。
その間フィンはタレ目の憂い顔でずっとわたしを見つめていた。
す、素敵~。やっぱり王子様!
ハッ、騙されてはいけない!
……こんな男に負けるもんか!
☆ ☆ ☆
その頃社交界では、『ライリー様と奥様、ボックス席でイチャイチャ』という話題が奥様・お嬢様方の間に上り、ハンカチを噛みしめる令嬢たちがあちこちで見られるのであった。




