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引きこもりのお飾り妻は悪妻になって離婚したい  作者: 赤城ハルナ/アサマ


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12/15

悪妻を目指したら毒殺されそうになりました(お前を痛めつけて石女にしてやる)

アイネ毒殺未遂事件前夜です。前半は別邸視点、後半はフィン・ライリー視点になります。

××××××××××××××××××××

「最近フィンが来なくなったわ!」

 別邸では、ダフネという愛人の一人が苛立ちを抑えられずにいた。

××××××××××××××××××××



 もう十日以上もフィンは別邸に来ない。今までは毎夜どちらかを抱いて好き勝手に楽しんでいたくせに! どういうこと!?


「忙しいんじゃないの?

 このブリオッシュ、美味しいわ。朝からカフェオレを飲めるのも嬉しい。実家が没落してからは低級なパンしか食べられなかったから――素敵なドレスも用意してもらえるし――贅沢な暮らしができるのも、ライリー様のおかげね。日中はこうして刺繍や編み物をしていられるもの。次の生活も楽だといいけれど」


 フン! おっとりしたミケーレだから何も気にしてないのね。まぁミケーレだから仕方ないか。


「きっとあの小娘のせいよ!」

「欲求不満なの、ダフネ。自分で慰めれば? わたしは疲れなくて済むし、夜は気兼ねなくぐっすり眠れるから歓迎だけど」

「だって何だか悔しいじゃない。本当ならわたしがフィンの妻になっていたはずなのに!」

「ニール男爵家がお金に困っていたときフィンに言われたわよね、保護はするけれど妻にはできないって。いずれ落ち着き先を見つけてくれるって」

「あんなこと言いながら、わたしたちを愛人にしたくせに……」

「できれば子供を産んでほしいとは言われたけれど、わたしはそんな気はない。だから避妊しているの。それに、わたしたちには適当なことを言いながら入れて出すだけの行為しかしてないのに、愛されているなんて思ってるの? おめでたいわね」

「あの小娘とはそれさえしてないらしいじゃない。アリッサから聞いてるわ、寝室はいつも別なんだって。初夜だってなかったそうよ」

「わたしたちには好きとか愛しているとか、一度も言ったことなんてないのよ」

「それは……そうかもしれないけど」


 あんな子供みたいな女が妻ですって?

 本当のフィンを知らないくせに、笑っちゃうわ。というか、男なんて全然知らないんじゃない?

 お飾りだけの哀れな子。


「ねぇダフネ、わたしもう愛人は辞めようと思うの」

「何言ってるの、ミケーレ」

「だって本妻が来たんだもの。わたしたちはもう必要ないんじゃない?」

「大丈夫、そんなことにはならないわ」

「断言できるの?」

「あの人は後継者が欲しいのよ。あの年で子供が一人もいないのよ? 本妻よりも先にわたしたちが子供を産めばいいの。そうすれば妻になれるかもしれない」

「でも……わたしは子供よりも安定した将来がほしい。ニール男爵家は没落しただけだから、わたしたちはまだ貴族よ。後妻でも何でもいい、早く紹介してくれないかしら。そのうち落ち着き先を見つけてくれるって言ってたのに。貴族が難しかったら準男爵家とか騎士家とか地主でもいい……軍の士官や医官でも構わないわ」

「それならミケーレはそうすればいいじゃない」


 ――わたしの方が先にフィンに見初められたのに、あとからボーッとした頭の悪そうな小娘がフラフラやって来て『妻』だなんて、笑わせるわ!


 それにあんなの、伯爵家の娘という肩書きしかないじゃない。

 わたしはパーティーでフィンに声をかけられたのよ。私の方が美しいし、体だって素晴らいわ。ミケーレだって、わたしほどではないもの――。


 とにかくわたしが一番なのよ!

 フィンを悦ばせられるのはわたししかいない。わたしがフィンの妻になるはずなのよ!


「少し懲らしめてやるわ、子供を産めないようにしてやる!」

「だめよ、そんなことやめて!」

「ジギタリスの花を絞ってシュガーに混ぜたものをアリッサに渡すわ。最近流行しているダイエット用のシュガーを手に入れたから、ぜひ奥様のティーに入れてと言えばいい。あの女を痛めつけてやる!」

「そんなものどこで見つけたの!? というか、よくそんな毒草知ってたわね」

「森の隅に野生してたわ。少量だから誰にも分かるはずない」

「そんなこといっても、シュガーポットに入っているものしかないじゃない。騙せるわけがない」

「アリッサは馬鹿だから見分けなんてつかないわよ」

「ダフネ……それは犯罪よ……お願いだからやめて……怖いわ」

「ミケーレも共犯だからね!」

「そ、そんな……」


「明日から二日間、アンとかいうあの小娘の侍女が休暇をもらうって、アリッサから聞いてる。そのときがチャンスよ!」




☆ ☆ ☆




「旦那様、少々お話が……」


 首都のライリー屋敷のメイド長モリーが、気まずそうにぼくに話しかけた。

 何事だろう?


「何だ、メイド長。今日は王宮の仕事があったから疲れているんだ。手短に頼むよ」

「申し訳ありません……奥様のことなのですが……こんなことを申し上げるのは心苦しいのですが……最近様子がおかしいのでは。外出が多いですし、お金使いも荒くはありませんか?」


 もちろんそんなことは知っている。アイネの動向については執事、最近では護衛からの報告がある。

 それに彼女が使う金額などたかが知れているし、ほんのはした金だ。ぼくの妻は無駄遣いできない性格をしている。家計をよく理解している、ぼく以外の男に目移りをしない良妻なのだ。

 ある程度の散財は仕方ないが、金遣いが荒い女性など面倒なだけだし、ぼくが妻にするわけがない。


「何を言っている、アイネの買い物など可愛いものだ。購入したアクセサリーは安物で、あとはほとんどが雑貨。服や小物は既製品。観劇やコンサートへはぼくが取り仕切った」

「し、しかし……伯爵家の奥様が毎日外出など、外聞が悪うございませんか?」

「そのうち飽きるよ、元々そんな活発な性格ではないから。今はたぶん外に出ることが楽しいんだろう」

「し、しかし……先日のお茶会へはかなり露出の多い、相応しくないドレスで参加したそうではないですか」

「それは……お茶会に慣れていないからだろう。とにかく、そんな他愛もないことで妻を非難するんじゃない」

「ですがここのところ晩餐のメニューやアフタヌーンティーのお菓子にも文句を言われまして……」

「食生活は大事だ。アイネに合うメニューを考えてもいいんじゃないのか? 今後そのようなことを言ったら減給の対象にするから、そのつもりで仕事をするように」

「も、申し訳ありません……」


 たかが使用人が伯爵家の奥方を批判するなどあってはならない。よくない傾向だ。

 いつからこんなことに?


 ささいな事のように見えた問題。

 いや、問題にすらならないと思っていた。アイネは結婚後ずっと屋敷に籠っていたから――敢えてそうさせていたこともあるが――外の世界に興味を持ったんだろうと。

 だがそれにも限度がある。そろそろ外出を止めさせ、理想の妻に戻ってもらわなければ。


 このことをもっと重要視していればよかったと気付いたときには遅かった。


 そんな矢先、あの陰惨な事件が起きたのだった!





「あぁ、アイネ……」


 妻が死んでしまうなどということは、あってはならないのに……なぜこんなことに……。



☆ ☆ ☆



【ということで、プロローグに戻る】

※時系列としては、このあとプロローグその一→プロローグその二→12話になります。


※フィン・ライリーの華麗なる世界崩壊の予感がします(アイネと愛人に自分の理想を押し付けていた男)。


※土地や財産を失って没落しても、貴族籍を返上しなければ(もしくは国家への反逆を行うなどして剥奪されなければ)貴族の称号は残るのだそうです。その後復活するかどうかはその家の頑張りだとか。

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