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引きこもりのお飾り妻は悪妻になって離婚したい  作者: 赤城ハルナ/アサマ


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11/15

最近妻の様子がおかしいのだが(心配でハラハラする)

挙動不審な悪妻ヅラをしているバカっぽいアイネに翻弄される、大人の男性フィン・ライリーです。

「ダニー、アイネはどこにいるんだ?」


 夕方競馬から(少し儲けたのでアイネの大好きなチョコレート菓子を買って)帰ると、妻はいなかった。珍しいこともあるものだ、引きこもり妻がまさか外出を?

 首都のライリー屋敷への手紙は執事のダニーが一旦チェックする。パーティーの招待状をアイネに渡すことはない。それならどこぞのお茶会? あの社交ベタが?

 お茶会に出席するときはぼくに断わりを入れるよう言ってあったはずだが……。


「奥様はアンと街へ買い物とのことです」と、執事が答えた。

「二人だけで買い物?」

 買い物へ出かけるなんて今までなかったのに。日中アイネは屋敷から出ることはなかったので、護衛を付けるということが頭からすっぽり抜けていた。


 気になったぼくだったが、後日アイネが怪しい雑貨屋で購入し、ライリー家に届けられた品物を見て苦笑した。

「安物の雑貨。こんな大量のゴミをどうするつもりなんだ。孤児院へ寄付? まさか自分の部屋に飾る? いくら何でもあり得ないな」

 仕方ないので商品をチェックしてからアイネの部屋へ届けさせた。


 ある日の晩餐で、安ピカ物ネックレスを誇示しているアイネを見たときは、笑いを堪えるのに苦労した。


(クッ、ぼくの妻は何て愉快なんだ……妹がいたらこんな感じだったのかもしれないな……結局妹はできなかったが……)


「アイネ、その無駄に青くてキラキラしたネックレスは……」

「あら……気が付きまして? ホホホホ……先日思い切って買いましたの。非常に珍しいカットジュエリーの高級ネックレス(店員の受け売り)ですわ」

「アクセサリーが欲しければ鑑定書付きの品物をプレゼントするから、安物はやめたほうがいい。ライリー家はアクセサリーを買う金もないのかなんて言われたら、アイネも嫌だろう?」

「ちょ……な……」

「親しい宝石商がいるから、さっそく明日にでも見繕ってもらおう」

「あ……の……これが気に入っているんです!」

「伯爵家の、しかも王宮儀式に関わる家の若奥様なのだから、それなりの宝飾品を身に着けなさい」

「は……い……」





「ご主人様、奥様はアンを連れてランチへお出かけのようですが、二人だけで行かせてよろしかったのでしょうか?」


 あれから数日後、執事がぼくに告げた。今度は何だ?


「ランチ? 一体どこで……」

「御者の報告によると、繁華街の末端の、庶民が行くレストランらしいです」

「庶民……」

 アイネと侍女だけで街へ出かけ、しかもその辺の怪しいレストランに入るとは。おかしな料理を食べてお腹をこわしたらどうするんだ?


 外出などすぐに飽きるだろうと思っていた……が、こうも続くのなら目立たないよう護衛を付けなければならない。


 最近のアイネはどうかしている。

 散歩も乗馬も断られた……健康のためなのに。

 しかも先日のパーティーには出席さえしなかった。新たに王宮御用達になった品物の試食会だったのに……。


 外の世界に興味を持ったんだろうと思い、ぼくは年若い妻を観劇や演奏会にエスコートし、大人に見えるダイヤモンドのネックレスをプレゼントした。





「ご主人様、奥様がお茶会へ行ってしまわれたようなのです」

「は?」

 なじみのクラブで知り合いと政治・経済について議論していたとき、アイネに付けていた護衛がぼくに伝えた。どことなく慌てている様子だ。


「奥様が心配なので、できれば迎えに行って頂けませんでしょうか……」

「お茶会に出席するという報告はなかったぞ」

「それが……アンを連れて勝手に行ってしまわれたようなのです……アハーン家のお屋敷です」

「アハーン! なんということだ!」


 アハーン家には何年もぼくに執着している令嬢がいる。一回だけキスしたにはした……そうしないと死にそうな顔をしていたからね。だがその一回だけで、ほんの挨拶だった。その後マロイ家のパーティーでアイネが絡まれていたのを目撃したのだが……厄介な事になっているとまずいな。


 アハーン家へ急ぎ、サロンのお茶会にいたアイネを見たぼくは、その場でひっくり返りそうになった。


 ――どうして、なぜ、お茶会なのに、胸と背中がぱっくり開いた赤いイブニングドレスに黒い手袋?





 若いころのぼくは女性関係が少々賑やかだった。来る者拒まずくらいには。なにしろ、来るのだから仕方ない。レディの望みを断るのも可哀想だしね……レディが泣くところを見ると胸が苦しくなるんだ。


 しかし結婚相手となると、そんな軽い女性は避けたい。もしも子供が産まれたとして自分の子かどうか分からないじゃないか。

 妻は身持ちの固い、そばにいて安心できる、自分だけを見てくれる女性でなければダメだ。そもそも妻に子供は産ませたくない。ぼくの母のように出産で死ぬなどあってはならないのだ。


 没落した貴族家から放り出された二人の女性を保護し、別邸に住まわせてはいる。世間的にはそれを愛人というが、ぼくは愛人とは思っていない。そこに愛情はないから。女性たちとの間に子供ができたら妻との子にするつもりだ。自分の子なのだから、貴族でさえあれば母親は誰でもかまわない。


 ぼくの理想の唯一。

 

 いまだ少女のようなアイネを汚したくはない。





「わたし、悪妻になりましたのよ、ホホホ……」

「アイネ、もう何度も聞いたよ」


 最近の妻の口癖だ。どこからそんな言葉が出るんだろう、誰かにそそのかされたんだろうか。そういえばアイネの部屋に何冊か安っぽい三文小説があったな。


「なので離婚して下さいな」

「アイネ……ロマンス小説の読みすぎなんじゃないか? 役所の書類を真似た紙に『り・こ・ん』と書けばいいのか?」

「そういうことじゃなくて!」

「フゥ、愚痴があるのなら晩餐のあとに聞くから、そんなことを気安く言葉にしてはいけないよ。特にパーティーでは気を付けること。お茶会は禁止だ。しばらくは外出も禁止する」

「えぇっ……そんな……」

「アイネはいつものようにピアノを弾いたり絵を描いたりしていればいいんだ」

「あの……だから……り、り、りこ……りこ……」


 アイネは両手を上下し、観賞魚のように口をパクパクさせている。そんな可愛い仕草をして離婚と言われても。この娘は言葉の意味を分かっているんだろうか――ぼくは父のように、何度も妻と離婚して再婚するような人間にはなりたくない。


 ハァ……目下のアイネの興味は『悪妻』と『離婚』らしい。そのうち『断罪』『追放』なんてことを言い出すかもしれない。いや、それよりも『虐げられた妻』なんていう戯言をパーティーで持ち出されたらマズイな。

 彼女はこんなに奇妙な想像力を持った、虚言癖のある娘だったのか? 少女を相手にしているようで頭が痛い。間抜けな三文小説ばかり読む幼稚な妻をどうしたものか。


 ――可憐で清楚な妻は、まだまだ子供だった。


 そんなことがあった数日後。

 使用人の間でアイネが『浪費家』『我儘』『悪妻』だという、とんでもないデマが上がっているというではないか。

 確かにここ二日三日のアイネの様子は変だった。料理やお菓子に苦情を言ったりして。メイド長からは、奥様から文句ばかり言われていると苦言を呈された。今までこんなことは一度もなかったのに。


 今アイネは自室で大人しくしている。最近挙動がおかしいので外と接触するのを避けさせているのだ。何が原因でこんなことになってしまったのか見当がつかない。

 だが、一ヶ月ほど屋敷で大人しくしていれば周りも落ち着き、すべて元通りになるだろう。

 そういえば彼女のことが気になって最近別邸を訪れていない。結婚してからは毎日のように通っていたのだが……そろそろ行かなければ。


 アイネのためにも……。



☆ ☆ ☆



 その頃社交界では、『悩めるライリー様』という話題が奥様・お嬢様方の間に上り、それっぽい肖像画が高額で出回るのであった。

※次回はアイネ毒殺未遂事件前夜です。フィンがアイネを軟禁したタイミングで事件が起きました。犯人が出てきます。あの人です(ミステリー小説ではありません)。

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