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引きこもりのお飾り妻は悪妻になって離婚するのだ!  作者: 赤城ハルナ
プロローグ/若奥様殺人未遂事件

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若奥様が毒を飲んだようだ/使用人大困惑

夫婦物のストーリーを考えました。ちょっとした悲喜劇にしたいと思っています。読者の皆様が想像する内容とは違うかもしれません。

一話は第三者視点です。

「キャーッ、わ、若奥様! 若奥様が!」



※



「若奥様は毒を飲んでしまったようです」と、残念そうな表情で医者が言った。


 屋敷の執事やメイド長はじめ使用人たちは、全員困惑している。


 ライリー家の跡取り息子フィンの妻、アイネがベッドに横たわっていた。

 もともと華奢な身体の上、毒物の影響が激しかったのか、ぐったりとして目は虚ろ、呼吸もわずかだった。

 意識も混濁している。


「そ、そんな……そんなはずない……アイネ様が自分で毒を飲むなんてこと、するはずないです! それなら毒はどこにあるんですか!? 誰かが毒を飲ませたんではないのですか!?」

 アイネの実家マケナニー家から来た侍女のアンだけが、くずおれてひたすら泣いていた。


「そんなわけないでしょう、誰が若奥様にそんなことをするというのです!?」

 若奥様が毒物で倒れてしまい、メイド長は胃が痛い。


 誰の責任になるのか?

 その前に、若奥様は助かるのか?

 もし万が一のことでもあったら、使用人全員の首が飛ぶのではないか?


 夕刻になり、夫のフィンが上機嫌でクラブから帰って来た。

 屋敷のエントランスに入るなり妻の様子を医者から告げられたフィンは、これまでになく取り乱した。


「あ、あり得ない! どういうことだ!」

 今にも医者の首を絞めそうだ。


「なぜもっと早くぼくに知らせなかった!? 一体どうしてこんなことになったんだ!? 生きているのか、大丈夫なのか、どうして毒なんか……」


 最近妻と疎遠になっていた夫のフィンは、心配と絶望が頭の中でぐるぐる回りながらも、ハットを放り投げて妻の部屋へ急いだ。



※



 二段抜きで螺旋階段を駆け上り、ころがるようにして妻の部屋へ駆け込んだフィンは、あらためて中を見回した。


 オフホワイトの暖炉、薄ピンクのレースカーテン、ホワイトレースのティーテーブル、エンジ色のプリンセスチェア。

 全体的に明るく、奥様向けというよりは令嬢向けの内装。メイクルームには意匠を凝らした豪華な化粧台。どれもフィンが妻アイネのために用意したものだ。


 ティーテーブルには飲みかけのティーカップとお菓子が載った小皿。小ぶりのデスクにはスケッチブック、窓辺にあるキャンバススタンドには描きかけの油絵があった。出窓から見下ろした庭園の絵だった。

 妻には絵の才能がある、ピアノも上手い。素晴らしい芸術家なのだとフィンは思う。けれどもそれを披露することはないし、伯爵家の若奥様にそんな必要はない。


 フィンは扉が開いたままの寝室でぐったりしている妻を見つめた。

 まだあどけなさの残る、男を知らない少女。フィンが思い描く理想の妻そのもの。

 アイネはフィンが見つけた、文字通り清楚で庇護するべき女性だった。


「お前たちは今まで何をしていたんだ! 一体どうしてこんなことになったんだ! 説明しなさい、ドクター!」


 フィンは何回も叫んだ。



※



 憂いを帯びたブルーアイで穏やかな容貌をしている、ライリー伯爵家の一人息子フィン。王宮でのちょっとした仕事のほかに、クラブ、狩猟大会、競馬などに顔を出す、ごく普通の貴族だ。


 違うのは、父とは異なり社交的だということ。


 自分に近づいてくる女性を冷静に値踏みしながら、大人しく清楚で周囲の男になびかない女性を妻に迎えようと日頃考えていた。

 昨年のニューイヤー舞踏会で見かけたマケナニー家の令嬢こそが自分の理想に見えた。

 まだ十七歳という若さにもかかわらず何物にも臆することのない姿、同格の伯爵家、凛として物静かな佇まい、男とは無縁の無垢な姿。


 とうとう見つけた。

 ぼくの理想の唯一。


 誰にも汚されてはならない存在。


 プロポーズから結婚まで――いや、今まで何の問題もなかった。


 結婚後、アイネの部屋はフィンの部屋から少し離れた三階角部屋にし、寝室を共にすることはない。だからといって嫌っているわけではない。むしろその逆で、一輪の花のようにそばにいてくれるだけで心が休まった。

 この屋敷で孤立しては心細いだろうと、侍女はマケナニー家から呼んだ。それがアンだった。


 晩餐を共にし、一緒にパーティーへ行き、年の差もあって話が合うわけではないが、それなりの夫婦になったつもりでいた。アイネは名目上『妻』であれば、フィンは満足だったのだ。


 結婚前からライリー家のタウンハウスには、家族ではない二人の女性がいる。敷地内の別邸に『没落貴族の令嬢を保護』という理由で住まわせており、フィン以外の男性が入れないよう徹底的に管理している。

 妻には余計な気遣いをしてほしくないので、そのことは知らせていない――手違いでバレたが。


 ところが結婚して半年ほどたったとき、使用人たちからアイネについての不穏な噂が流れた。


『浪費家』

『我儘』

『悪妻』


 にわかには信じられなかった。

 あのアイネが?


 噂の真相を探っていた矢先に――夫は妻が何を訴えているのかまじめに聞こうとしなかった――アイネの服毒という陰惨な事件が起きたのだった。



 ~続く~

※皮肉の効いた話にできるといいなと思っています。

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