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Our Story  作者: NeRix
地の章 第二部
35/481

第三十三話 弔いと旅立ち【ニルス】

 オレはハリスのベルを鳴らした。

これから仕事は受けられなくなるし、父さんの友人であるなら教えないといけない。


 それに・・・一人は嫌だ。


 

 「・・・なにかご入り用でしょうか?」

ハリスはすぐに来てくれた。

早いな・・・。


 「父さんが・・・」

「そうでしたか・・・」

ハリスは父さんを見ても慌てた様子は無い。

日常の中でよくあることって顔だ。ていうか・・・。

 「・・・知ってた?」

「・・・はい、あなたのためですね。・・・一応言っておきますが、あなたのせいではありません」

「うん・・・わかってるよ・・・」

「それで・・・私になにかご用ですか?」

動揺はしてないけど、悲しんではくれている・・・そんな顔だ。


 「責めたりとかじゃないんだけど・・・止めなかったの?友達だって・・・」

「・・・止めましたよ。アリシア様をお連れしようか提案もしました」

それは・・・してほしくないな。

 「なるほど・・・あなたがそういった顔をされるのでしなかったようですね」

「うん、そうだと思う。でも、ハリスは連れてくることもできた」

しなかったのはどうしてだろう?


 「・・・はい、できました。ですが、ケルト様の決意は固そうでしたので・・・あなたと同じです」

「そうか・・・」

「それと、彼の意志を尊重したいと思いました。・・・友なので」

「・・・わかった。教えてくれてありがとう」

ここまで通じ合える人、オレにもできるのかな?



 「出られますか・・・」

「うん。やっと夢が叶うんだ」

旅立つことを伝えた。

ここに誰も住まなくなったら、ハリスが来ることも無くなる・・・。


 「・・・仕事の依頼はもうできませんね」

「まあ、そうかな。でもその前に・・・一緒に父さんの弔いをしてほしい。家のそばがいいんだ」

オレができることはしてあげたかった。

この人を呼んだのは、寂しいのもあったけど必要な人でもあるからだ。


 「・・・弔いなどなんの意味もありません。死者は流れ、自然へ還る・・・。亡骸になってしまった命に気を遣う必要はないでしょう」

ハリスはあんまり乗り気じゃないみたいだ。

でも、一緒がいい・・・。


 「・・・ハリスの考えは否定しない。それなら父さんの為じゃなくて、自分のために弔いをしたい」

「ふふ・・・お若いのにわかっていますね。それならば、私も自分のために手伝いましょう」

「なんだ・・・断られると思ったよ」

「失礼な方ですね。私にも情はありますよ」

父さんはもう話せない。実は弔ってほしくなんかないのかもしれないけど、結局わからないからな。


 だから、弔いは生きている自分のため・・・悲しみに区切りをつけるためにやるんだ。

たぶん、なにも無い戦士の墓地に通う人たちも同じ気持ちだと思う。


 「私は・・・棺を運んできます」

「すぐに用意できるの?」

「頼まれていたのです。寝心地のよさそうなものを・・・取りに行くだけなので。・・・ニルス様はケルト様をお願いします」

ハリスが影に沈んだ。

悲しさとか、殺してるのかな・・・。



 オレは父さんを背負って家まで歩いた。

力は完全に抜けていて、まるで物を背負っているって感じだ。


 「痩せすぎだよ・・・精霊鉱のせい?」

「・・・」

「答えてよ・・・」

この亡骸に、もう父さんはいない・・・。


 「命・・・」

寂しさを感じて、できたばかりの胎動の剣を触った。

 「そうだった・・・一緒に旅立つ・・・」

剣の方が父さんを感じる。


 『精霊鉱は、僕の命でできている・・・』

だとしたら、たしかに弔いに意味はないのかもな。



 「頑丈そうだ・・・」

「一等の棺です」

「そういうのあるんだ・・・」

父さんの亡骸を棺に寝かせた。

あとは埋めてやろう・・・。


 「どこに掘るのですか?」

「・・・家も見えるし、陽当たりもいいからここ」

「土の下に行く者が景色を気にしますか?」

「嫌味なこと言うなよ。自分のためだからここでいいんだよ」

陰とか森の中とかはなんか嫌だ。

ちゃんと光の当たる場所に・・・。


 「頑張ってください。日暮れ前には終わるのが望ましいです」

ハリスが外にある椅子に座った。

おい・・・。

 「・・・一緒に掘ろうよ」

「一人で充分でしょう。・・・あなたはあまり悲しんでいないように見えますね」

「そうだね・・・。ここにいるからさ」

剣は父さん・・・そう感じた後から悲しみが無くなった。

深く・・・深く掘ろう。



 「・・・ケルトが精霊鉱を使い切ったようだな」

父さんの亡骸を大地に埋め終わった時、オレたちの前に背の高い見知らぬ男が姿を現した。

わかる・・・こいつも人間じゃない・・・。


 「父さんを知ってるの?」

「・・・知っている」

「ニルス様、おそらくケルト様と契約した火山の精霊でしょう」

ハリスが立ち上がった。

・・・工房と精霊鉱を父さんに授けたのはこの精霊か。


 「・・・イナズマだ。精霊鉱を与えた者が、どうなったのかを見に来た」

イナズマは、感情の見えない目で埋められた場所を見ている。


 「・・・悲しいのですか?」

ハリスが近付いてきた。

 「なにか思うところが?」

「最後の一つを使うとは思わなかった・・・。今までに無かったことで驚いているのだ」

・・・表情が変わらないからわかり辛いな。


 「使い切ったのはケルト様だけなのですか?」

「・・・授けたのは十一人。その中でケルトだけだ」

父さんを入れて十一人・・・なんか気になる。


 「じゃあ、精霊鉱で作られたものっていっぱいあるの?」

「いや、ケルトのものだけだ。使い切ればとわに残るが、そうしなかった場合は、授けた者が流れれば共に消える」

「そうなんだ・・・。父さんは、オレのために使うって言ってくれた・・・」

「命と引き換え・・・それができるほどお前を愛していたのだろう」

イナズマの声に優しさを感じた。

 慰めでも・・・ちょっと嬉しい。

・・・もう少し話を聞きたいな。


 「父さんとの契約は無くなったの?工房も使えなくなる?」

「使いたいなら使えばいい。俺と契約せずとも鉄くらいは問題なく扱える」

なるほど、精霊鉱の加工のために契約が必要だったのか。


 「そうだ・・・。オレは魂の魔法を教えてもらった。なにか罰がある?」

「ケルトの息子なら心配はないだろう・・・」

許してくれるのか・・・。

 「誰かに伝えるのは?」

「ケルトはなにか言っていたか?」

「しっかり見極めろって」

「そういうことだ・・・」

イナズマは胎動の剣を見つめた。


 つまり、愛のある人ならいいんだ。

父さんを裏切らないように、伝える時は思い出そう。


 「私も質問をしてよろしいでしょうか?」

ハリスがイナズマの隣に並んだ。

何を聞くのか興味あるな。


 「・・・言ってみろ」

「精霊銀のある場所をご存じでしょうか?」

ああそうか、精霊なら手がかりを知っているかも。

 「いや・・・わからない」

「そうですか・・・」

ハリスは肩を落とした。

いつも飄々としてるのに、今回は本気で落ち込んだみたいだ。


 「たしか・・・ハリスだったな」

「お会いしたことは無かったと思います」

「ケルトに近付く者は知っている。少ないが、全員見ていた」

イナズマは空を見上げた。

じゃあ、アリシアも・・・。


 「まあ・・・お前の存在はここに来る前から知っていたがな」

「そうでしたか・・・当然と言えば当然ですね。ケルト様が仰っていましたが、契約後は一度も姿を見せていなかったと・・・」

「守っていただけだ。お前もリラを・・・」

「だから探しているのです」

ハリスがイナズマの言葉を遮った。

探しているってのは精霊銀?・・・リラ?


 「熱くなるな、邪魔をするつもりは無い。・・・精霊銀は、とても小さな塊が一つだけ。見つけるのは骨が折れるな」

「もう何本も折っていますがまったく見つかりません・・・。こちら側には無いのでしょうか?」

「・・・俺が見たのは三百年ほど前だ。あれは愛を好む・・・必ずあるさ」

「・・・ありがとうございました」

二人だけがわかる話、オレが入る隙間はなさそうだ。

たぶん、聞いても教えてくれないだろうな。



 「・・・さらばだ」

イナズマが消えた。

本当に見に来ただけだったのかな?


 「あいつ・・・いい精霊なんだね」

「・・・そうですね」

イナズマが去った跡にはたくさんの花が咲いていた。

オレたちと同じ・・・弔いに来てくれたんだろう。


 初めて精霊ってのを見たけど、あんまりオレたちと姿は変わらない。

父さんにはどういう感情を持ってたのかな・・・。


 「・・・ニルス様、その剣を見せていただけますか?」

ハリスが胎動の剣を指さした。

 「うん、いいよ。・・・はい」

父さんの友達だし、それくらいはどうってことない。


 「む・・・重いですね、支えきれません。申し訳ありませんがニルス様がお持ちになってください」

「ああそうか・・・家族以外は持てないって言ってた」

オレは剣を抜いて、ハリスが見やすいように前に出した。

 

 「・・・恐ろしい剣です。これを私には向けないでいただきたいですね」

ハリスは刃を一目見た途端に顔色を変えた。

 「不死・・・なんでしょ?」

「ええ、死はありませんが・・・消されるのは別です」

父さんは「なんでも斬れる」って言ってた。

不死者であってもそれは関係ないのか。


 「ふふ・・・」

「なにがおかしいの?」

「いえ・・・ケルト様はこういうのが好きでしたね」

ハリスが微笑んでそこを指さした。


 『愛する家族へ』

言葉が刻まれていた。

アリシア、ルージュ、そしてオレに向けたもの・・・。


 「ありがとうございました。ニルス様・・・いつ出られるのですか?」

「・・・明日の朝にする。もう夕方だし・・・」

「精霊銀・・・記憶の片隅でかまいません」

ハリスにおでこをつつかれた。

 どこかにあるっていうのがわかっただけでも救いだったんだ。

たしかにあるかないかわからないものを探すのは、想像もつかないほどの根気がいるだろうからな。

 

 「大丈夫、憶えてるよ。人間が触れると緑」

「ええ、獣だと赤、魚だと青、触れる者によって変わります。イナズマ様のような精霊の場合はそのままらしいですが・・・頼みましたよ」

ハリスが影に沈んだ。


 「一緒にいてくれないのか・・・」

父さんの話、色々聞きたかったんだけどな・・・。


 ・・・仕方ない、準備をしよう。



 オレは旅支度を始めた。


 干し肉なんかは持ってった方がいいな。


 あ・・・生ものはこのまま置いてくと腐ってしまう。森に捨てて獣に処理してもらおう。


 そうだ、扉に張り紙とかしておかないと行商さんが困るよな・・・。

ああ・・・片付けの方が大変そうだ。


 目を瞑っても一周できるくらい慣れた家・・・離れてしまうのか。

父さん・・・オレはいい息子だったのかな?



 朝の陽ざしで目が覚めた。

晴れ・・・いい日だ。雨でも出たけどね。



 「出発・・・」

きのうの内にまとめておいた荷物を背負った。

・・・心臓が大きく揺れている。


 高鳴る鼓動を抑えずに外へ出て、大きく息を吸い込んだ。

父さん、もう話はできないけど一緒に行こう。オレに勇気が出たら・・・ルージュに会わせるよ。


 「心で・・・」

顔を上げると強い風が吹いた。

 『風は心でできてるんだって』

本当にそうなら、悲しいことや大切な人への気持ちは一度預けよう。 

忘れるわけじゃないけど、オレの思いを全部・・・遠くまで運べ・・・。


 『誰に運ぶのかな?』

父さんなら笑って聞いてきたかもしれない。

そうだな・・・いつかルージュに届くようにずっと強く吹いていてくれよ。


 「じゃあ、行こうか父さん」

返事はない。

背中も押してもらえない。


 だけど・・・幸せな旅立ちだ。



































































 「あの、旅の方ですか?」

さっそく変な人と出くわしてしまった・・・。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。


次回から新しい章に入ります。

引き続き読んでいただけると嬉しいです。



どうでもいい話 4


第二十話は地の章の中で、一番書くのが面倒だった話です。

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