第37話 エリザの話
とりもちトラップはとても良かった。
相手の動きを阻害する事が出来るので、被害に遭ったプレイヤー達の気持ちを「スカル・レッド」にも思い知らせる事が出来る。
なおかつ、ライフがなくならならいのも相まって、プレイヤーに窒息で無限に苦しませる事も出来るから良い。
顔の前でちらつかせるだけでやらなかったが、町に散っていた連中の方はそれで心折れたようだ。
リーダーの方は、ミントシティーの鐘付き台にくくり付けておいた。
定時になるたびに町中に自動で時刻を知らせる鐘の音を間近で聞くのは、相当堪えるだろう。
それに加えて、鐘付き棒が当たる位置に調整して置けば打撃の衝撃も定期的に入れられる。
ミントシティの時を告げる鐘の音が若干鈍くなるかもしれないが、町の治安と比べれば安い物だ。
そういうわけで、おおよその始末はつけ終わった。
「スカル・レッド」の下部メンバーはともかくギルドリーダーの回収は、そのうち行う事にした。
括りつけた当時はまだ威勢が良かったので、干物になるまで待つ必要がありそうだったからだ。
問題があるなら後で他の連中が何とかするだろう。
ウィーダからは、
ウィーダ「俺、絶対お前だけは敵に回したくねぇわ」
その際にそんな言葉を聞かされたが、誉め言葉としてもらっておいた。
追加で増えた用事を片付け終わったユウ達は、ギルドホームへと戻る事になった。
そして、現実の時間と同期しているこの世界の空が、夕暮れを表現して赤く染まりっ始めた頃。倒れていた少女が起き上がった。
自己紹介をしたあと、保護した少女エリザは口を開く。
エリザ「助けていただいたんですね。私はエリザと言います。フィールドで気を失ったところまでは覚えていたんですが……。町まで運んでくださってありがとうございます。でも……」
目を覚ますなり礼儀正しく礼を口にしたエリザは、この世界の状況を知る者なら、決して口にはしないだろう疑問の声を発した。
エリザ「どうしてログアウトしなかったんでしょう」
見ている限りはちゃんと意識もあり、問題なく会話もできるようだった。
だが、ユウ達とエリザの間には致命的な情報齟齬があるようだった。
それが分かったのは、日付の確認をした時だ。
エリザ「私が覚えている時から、三年も経ってる……。そんな、システム画面の表示エラーじゃな無かったなんて」
彼女の記憶は三年前で止まっていた。
つまり彼女は、現実世界に帰ってこれなかった、未帰還者の一人だったのだ。
とりあえず、あの場で倒れる事になった原因を訪ねていく。
寝かされていた寝台からダイニングへ移動して、アルンの用意したココアの入ったカップを握りしめるエリザ。彼女は俯きながら話を続けていく。
エリザ「ええと。気が付いたら、滝の近くにいて……それで、モンスターに襲われたので必死になって逃げたんです。見た事ないモンスターで、対策が分からなくて、焦ってしまって」
か細い声で言葉を続けながらも、エリザは記憶をたどる様にゆっくりと話していく。
エリザ「それで。何とか逃げる事は出来たので良いんですけど、緊張がとけたら意識を保てなくて」
その後に、ユウ達に発見されたという流れなのだろう。
エリザは話している間、ずっと調子が悪そうだった。
三年以上も意識がなかった事がプレイヤーにどういう弊害をもたらすのか分からに、ただ単に慣れない状況に置かれて精神的なものから疲労を感じているのかもしれないが、そういう事の専門でもないユウ達に区別はつかない。
休ませてやるべきところだが、本人の意向もあって事情を聞く事にした。
じっとしていると、「嫌な事を思い出してしまいそうだから」との事らしい。
よっぽどよく分からない状況に突然放りこまれたのが堪えたのだろう。
それで気休めになるというのなら、こちらもいくらでも付き合ってやるべきだ。
ウィーダ「でも、何でこのタイミングでエリザさんが目覚めたんだろうな。三年もずっと意識がなかったのに」
アルン「さあ、そればかりはまだ分からないだろう」
アルンは少し前からキッチンへと姿を消している。
アルンが気を聞かせて何かを作っているらしい。エリザはあまり食欲がないようだったが、そう言う人間でも食べられるものをつくるとか言って、はりきっていた。
アルン曰く、ギルドホームに女性がいるのが新鮮なのだとか。
ジュリアという旧知の女性プレイヤーもいる事はいるのだが、なかなかギルドホームまでくる客は少なかった。
ユウ達も基本はログインすれば外で活動するばかりなので、猶更だ。




