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贈り物

大地視点の番外編です

「翠、一体急にどうしたの?」


 カラオケから出て駅前で千華ちゃんと別れたのち、翠は突然僕の腕を引っ張って和樹たちと別れた。


「大地も少しは空気読んだら?」


「空気を読む?」


 普段は語尾を伸ばしている翠だが、僕と二人きりのときには伸ばさない。本人にも理由はわからないようだが。

 それにしても、僕は何をしたのだろうか。いつもと同じように和樹たちと帰ろうとしていたところを突然翠に阻まれた形だ。


「……あ」


「気がついた?」


 和樹と香織ちゃんは付き合ってまだ間もない。これまでも二人で出かけたりすることもあっただろうが、それでも付き合いたてのカップルの邪魔をするのは気が引けたのかもしれない。


「そういうことー、でも――」


「……?」


「……大地と二人っきりになりたかったって言うのも少しだけある」


 モジモジとしながら僕の腕に控えげに抱きついてくる翠。普段はおちゃらけている翠だけど、こんなことをされるとたまらなく愛おしく感じる。


「翠。気持ちは嬉しいけどまた今度にしよう。ここだとひと目があるから」


「そうだね」


 名残惜しそうに僕の腕から離れる翠。そんな顔をされるならこんなことを言うべきじゃなかったと少しだけ後悔する。


「それで? このあとはどうするの?」


「んー、せっかく和樹とかおりんがくっついたんだし何か贈り物をするのはどう?」


 なるほど、いい案だと思う。

 結婚すると決まったわけではないにしても、あの二人のことだ、分かれる可能性は低いはず。

 それに、幸いにしてここはそれなりに店の充実した駅前、二人へのプレゼントを探すにはもってこいだ。


「何を贈ろうか決めてあるの?」


「贈り物をする案は今思いついたばかりだからないや。和樹は?」


「翠も知っての通り、僕もそういうのには疎くてね。安直にいくならマグカップとかかな?」


「それはそれでありなんだけど、カップル用のやつだとニつでワンセットでしょ?」


「そうだね」


「だから同じ空間で使うことに意味があると思わない?」


 たしかにカップル用のマグカップの絵柄はニつでワンセットのイメージがある。どうせなら同じときに使ったほうがいい。

 和樹たちが同棲を始めたら贈ったほうがいいのかもしれない。


「そうなると何がいいのかな?」


「ん~~」


 二人でしばらく唸っていると翠が思いついたように僕の方に振り向く。


「テディベアのキーホルダーなんてどうかな?」


「テディベア?」


「クマのぬいぐるみのこと。すっごいかわいいんだよ!」


 クマのぬいぐるみか、なんとなく想像ができた。

 多分見た目がモフモフなクマのぬいぐるみのことだろう。


「うん、いいんじゃないかなテディベア。それにしよう」


「やった、それじゃあ今から売ってそうなところを探すからちょっと待ってね」


 翠はスマホを取り出し、テディベアの売っていそうな場所を探す。

 それにしてもテディベアか。さっきの反応を見る限り、翠も少なからず興味があるのかもしれない。

 僕は心のメモに翠にサプライズでテディベアを渡すことを書きこんだ。



◇ ◇ ◇



 テディベアの売っているお店は意外とすぐに見つかった。

 あまり行ったことのない方面だったが、近くまで行くとカップルが何組かいたのでわかりやすかった。

 店内はとても可愛らしい雰囲気で、僕一人だったら少し入りづらいかもしれない。


「思ったよりも高いんだね」


「そうかな? これぐらいだと思うよ」


 翠は本気で選んでいるのか、まばたきをしていない。

 それにしても、こっそり翠のテディベアを買うにしてもタイミングがない、どうしようかな。


「これなんてどうかな?」


 翠が僕に二体のテディベアを見せる。

 ベージュの生地に赤と青、それぞれのリボンがついていた。


「うん、それでいいと思う」


「じゃあこれにしよう」


 翠後ろを向く。僕はそのタイミングで決めてあった一体のテディベアを翠に見えないように手にとった。




「よしっ、可愛いテディベアも買えたことだしそろそろ帰ろうか」


 翠は満足したのか嬉しそうにする。


「そうだね、その前に――」


「……?」


 僕は翠に一つの紙袋を手渡す。


「翠へのプレゼント」


「開けていい?」


「もちろん」


 翠は丁寧に紙袋のテープを剥がして中に入っているものを取り出す。

 中から出てきたのは緑色のリボンをつけたテディベアのキーホルダー。


「わあっ! ありがとう大地!」


 満面の笑みを浮かべる翠。よかった、無事に喜んでもらえたようだ。

 翠はしばらくそのテディベアを眺めていたが、突然思い出したようにカバンのチャックをあける。


「じゃあ私からもお返し」


 そう言って翠はカバンの中から僕が今渡したものと同じ紙袋を手渡す。

 中から青色のリボンのついたテディベアのキーホルダーが出てきた。

 まさか同じことを考えているなんて想像もしなかった。


「ありがとう翠。大切にするよ」


 そう言って僕は自分のカバンに今さっき翠からもらったテディベアのキーホルダーをつける。

 翠も僕と同じようにキーホルダーをつけた。


「それじゃあ、今度こそ帰ろうか」


「うんっ!」


 二人はどちらからとも無く手を繋ぎ、テディベアのキーホルダーを揺らしながら帰っていった。


誤字・用法の誤りなどありましたら気軽に報告してくれると嬉しいです。


【次の更新予定】

2021/2/21 22:05

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