過去
ちょっといつもとテイストが違います
楡原大地という人物は生来の飽き性であった。
なにをやっても三ヶ月しか続かなかった。部活を始めては三ヶ月で辞め、趣味を見つけても三ヶ月立つと保たない人間だった。
ただそんな彼にも飽きないものがあった。
「四月一日翠」という存在である。
彼女はすごかった。高校に入ってからは収まったが、いつも突拍子のないことを思い付き、実行した。
普通の人だったら怖くてできないようなことを翠がやる時、決まって大地も一緒だった。
大地は気がついていなかった。
翠と一緒にいるときだけは一度も”飽きた”ことがないことに。
中学一年生の夏休みに翠は骨折をしたことがあった。
良い意味で活発だった翠はひどく絶望した。せっかくの夏休みなのに海にもプールにも行けないではないか、と。ばかばかしく思えることだが、翠にとってそれがなによりも重要だった。
そんなときに翠の家に見舞いという名目で遊びによく来たのは和希と大地だった。
特に大地は、共働きの翠の両親の代わりにご飯を作ってくれた。
そんなこんなで、夏休み中は大地と一緒に過ごすことが多くなっていた。
当然ながら翠も思春期だ。
いつしか大地と一緒にいることがこそばゆくなってきた。
翠はそんな気持ちを紛らわせるために、よく大地にいたずらをしかけた。
いたずらを仕掛けられた大地も普段なら怒るくせに、翠にだけは何故か怒らなかった。
翠の骨折がなおってからも自然と二人でいる時間は減らなかった。
そして、どちらからということもなく二人はくっついた。
◇ ◇ ◇
「まぁ、そんなことがあって私たちは付き合ってるってわけー」
堂々と話していた翠の横で大地は額に手を当てている。
「そんなことがあったんですね」
「あれっ? でも今の話のなかに大地くんの黒歴史なんてなかったような……?」
「それはねー」
翠はわざと言葉をためながら大地の方をちらりと見る。
大地はその視線でダメだと悟ったのか、少しうなずいた。
……大地も大変だな。
「前に大地がオムライスを作ってくれたときにケチャップで大きくハートマークを書いたからだよー」
ちなみにパンケーキでもやられたー、と翠はケラケラ笑う。
「は、ハートマークですか……」
「大胆だ……」
「だから黒歴史なんだよ……。幸い、翠は今まで誰にもいっていなかったらしいから、この事を知っているのはここの五人だけだ。内緒にしてくれるか……?」
「はい、わかっていますよ」
「おう」
「大丈夫だよ大地くん。私も一回和くんのお弁当に『大好き』って書こうとしたことがあるから!」
「まじで?」
俺が問うと、香織は露骨に目をそらした。
「かおりんー? どうしたのかなー?」
「もうっ、翠ちゃん!」
「ごめんごめん」
「書きそうになったけど書かなかったんですか?」
「じつは『大』だけ書いちゃって……」
「あーあれか。『大丈夫』って書いてあったやつ」
確かそのときに香織のほほが赤くなっていた気がする。
「うぅ、……そうだよ。よく覚えてるねお弁当の中身なんて」
「そりゃまぁ、大切な手作りな訳だし……」
「お熱いことだねー、ねっちーちゃん?」
「そうですね、見ているこっちも赤くなってきてしまいました」
確かに夜叉神さんも少し赤くなってきているが、香織の方がヤバイ。
さっきから少しも動いていない。そして、いきなりカアッと顔が赤くなり早足でいってしまった。
「カラオケ行く前に大地の意外な一面のせいでお腹がいっぱいだな」
「和樹ー?」
呼ばれた方に振り返ると大地が冷たい笑顔を浮かべていた。
「じょ、冗談だって」
「ならいいけど」
「それよりも翠といるのは飽きないからだとしても、俺たちといると飽きるんじゃないか?」
「んー、なんだろう」
大地はしっくりくる言葉がないのか少し考えるように顎に手を添える。
「親友、だからかな。飽きるとか飽きないとかじゃなくて親友だから。これじゃダメかな?」
「…………」
「和樹?」
「いや、何でもない。俺も大地のことを親友だと思ってるよ。これからもよろしく」
「うん」
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