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幼なじみソリューション

陽斗って案外めんどくさいキャラなんだな、と。

 俺がみんなに聞いたのは、まるでトンチのような問題だった。




 ――解けない問題に、どう対処するか。




 犬山と小牧の方を見ると、二人はポカンとした表情で戸惑っている。何が何だか分からないといった様子で……、んー、まあそりゃそうなるか。いきなりこんなこと聞かれても『え、何言ってんのこいつ?』ってなると思う。もちろん俺は彼らの知能指数が知りたくてこんな問題を出したわけじゃない。


 これはただの思考ゲームだ。ちょっとしたお遊び程度に考えてくれればいい。


 しばらく待つが俺の質問に対する答えはやってこない。……仕方ない。ここはこいつらにも聞いてみるか。



「鳴海なら、どうやって解く?」



 話を振られた鳴海が目を大きく開いた。


 え、私に聞くん? みたいな顔をしていた。


「……ええと、そうだね? 解けない問題かぁ……。どうやって解くか、一生懸命考える……とか?」


「一生懸命考える、か……」


 鳴海の答えに俺は「うーん」と唸ってみせる。まあそうなんだけど。そういう答えが欲しいわけじゃないんだ。


 いやまあ突然こんな質問をした俺が悪いか……。そうだな。鳴海は答えにたどり着かなさそうなので、もう一人の部員にも聞いてみよう。


「お前はどうだ? 加納」


「そうだねー? 解けない問題を解くっていう時点で矛盾もいいところだよねっ。あははっ――バカじゃないの?」


「ああ、はいはい。不正解」


 最後のは耳打ちだったとはいえ、最近こいつの素の態度が露骨になっている気がするのは気のせいでしょうか、そうですか。


 問い方がよくなかった。少し問題文を変えてみる。



「じゃあこうしよう。解くのにめちゃくちゃ時間がかかる問題を解くにはどうするか?」



 まあ別にこの問題は解けなくてもいい。犬山と小牧が直面している問題を分かりやすくするための比喩表現みたいなもんだ。


 なかなか答えが現れないのでそろそろ正解を言おうかと思っていた時だった。


 今度は小牧が「はいっ」と手を挙げていた。なんだか自信がありそうだ。


「はい、どうぞ」


「――それって、ホントに解かなきゃいけない問題なの?」


「なんだよその質問……」


 え、なに? お前ら頭固すぎじゃない? 難しく考えすぎだろ。もっと普通の答えで良いんだよ、普通の答えで。


 戸惑っていると、鳴海が自信なさげにポツリとつぶやいた。


「例えば……友達と協力する、とか?」


「そう、そういう答え! そういう答えを待ってたんだよ! さすが鳴海だ!」


「え、あ、うん……。ありがと」


 普通の答えがやっと出た……! まあ俺の求めてる答えではないのだが、立て続けに問題が悪いんじゃねえかみたいな捻くれた回答ばかり来ていたので相対的に素晴らしい答えに聞こえてしまう。


「それは一つの答えになるな。他には?」


 今度は犬山が自信なさげに手を挙げる。


「……時間をかけてでも解くとか?」


「それはまぁ……。あんまりいい答えではないかもな」


「そうなのか……? ていうかいきなり何の心理テストだ? 関係あるのか?」


 若干怒りがこもった言葉で、犬山が俺にそう指摘する。


「関係あるに決まってるだろ。この質問で言う『解くのが難しい問題』っていうのは、ずばりお前らが直面してる問題のことだ」



 そう言って俺は一呼吸置く。


 ネタ晴らしがてら、彼らの求める『正解』を示すことにしよう。



「お前らが今直面してる問題はその『難しい問題』だ。だから友達に頼ったり、一生懸命考えたりして解いていくしかない。でも、解く時間が長ければ長くなるほど、段々その問題を解く意味も分からなくなってしまう。一生懸命考えても、最後になって分からなければ意味もない。それが何を意味するか、もう分かるだろ?」



 二人はそんな結末を迎えたくないはずだ。だから智也にも頼ったし、恋愛相談部にもやって来た。一生懸命考えて、ここまでやって来たのだ。




「だから『正解』をさっさと導く必要がある」




 なんだか遠回りな表現になってしまったが、結局言いたいことは実にシンプルなのだ。彼らが求める『正解』を最も簡単に手に入れる方法。そんなのは一つしかない。




「俺の質問の正解はこうだ。正解は、『答えを見て写す』だ」




 誰だって一度くらいやったことがあるだろう。学校のめんどくさい課題をこなすのに、解答を引っ張り出して書き写したことが。こと勉強においてその行為は意味をなさないと言われるが、恋愛においては別の話だ。


 ところで周りを見ると、俺をなんだか訝しむ視線二つに、憐れみの視線が一つ、そして苛立ちと殺意と憎悪と殺意に満ちた視線が一つあることに気付いて……最後の視線おかしいだろ。怖いって加納さん。


 まあ勿体ぶる意味も無いのでさっさと話にケリを付けよう。


「つまり、お前らがなりたいラブラブのカップルのデートを実際に見て、学んで、それをそっくりそのまま真似すればいいんだ」


「「…………え?」」


 犬山と小牧の声が重なる。予想もしなかった答えだったようで、すぐに小牧から反論が飛んできた。


「そんなことで解決するかな……?」


「……するさ。お前らは結局、幼なじみの関係を抜け出したまでは良かったが、そこから先何をするべきかが分からないんだろ? 何をしようにも今までの関係性が邪魔をしてしまうし、何が正解なのか分からない。だったら最初からカップルとしてふるまうべき正解を見ればいいんだ」


 簡単な話だ。分からなければ答えを見ろ。普段からやってることだ。


「でもな……。真似してみたところで、実際に上手くいくかどうかなんて……。それに、カップルによって過ごし方とか考え方とかは全然違うだろ」


 犬山もまた、俺の提案に疑問を持っているようだ。もちろんこの作戦の成功率は百パーセントとは言えない。


「そりゃ上手くいくかなんて分からねえよ。恋愛だけに限った話じゃない。少なくとも俺は、現段階の膠着状態から抜け出すために、今の提案をしただけだ」


 でもだからこそ、何かしら行動はしなければならないと思う。二人がこれから何をすればいいのか、それはもちろん二人で見つけていかなくちゃならない。二人が二人の関係性を更新するまでの加速材料として、そのための布石として、この案はとても有効だと感じる。



 まあ俺が何を言おうと、決めるのは二人だ。


 この作戦を受け入れることも、意味付けをしていくことも。


 すべては二人の選択に委ねられる。



「…………わたし」


 先に口を開いたのは、小牧の方だった。



「わたし、やってみる価値、あると思う……」


「陽菜……?」



 犬山が少し驚いたような声を上げる。


「うん。やってみようかな……。それで上手くいけば御の字だし、上手くいかなくてもまた別の方法を考えてみればいいんだし」


 そう言って、小牧は小さく笑った。


「……そうか。それも、そうかもな」


 二人は互いに顔を見合わせて、何かを確認するように視線を合わせて、それから笑った。幼なじみだからこそ通じ合えるものもある。彼らの笑顔の意味までは、さすがの俺も把握できるはずがない。



 だが、答えは決まったようで。



「その案に乗るよ。柳津さん」


「柳津の言うとおり、まずはやってみるか!」



 二人の笑顔が、二人の恋路の前進に繋がればと、願わざるを得ない。


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